ホワイトカラー・シニア人材の活躍支援の施策とは

今後ますます私たちの働き方に変化がおとずれると言われる中で、シニア人材を取り巻く環境にも大きな変化が起きています。とりわけ、ホワイトカラーにおいては技術の進歩も影響し、よりダイナミックな環境変化に置かれるようです。そこで、今回はホワイトカラーのシニア人材の活躍の支援策について考えてみたいと思います。

2017.11.13
専門家コラム

このコラムでは、「ホワイトカラー シニア人材」(以下、本稿において特段の断りがない限り「ホワイトカラー シニア人材」を「シニア人材」と表記します。)に対する企業の活躍支援を理解するために、一般社団法人日本経済団体連合会(2016)による「ホワイトカラー高齢社員の活躍をめぐる現状・課題と取組み」(以下、本資料)を手掛かりにしていきます。

それでは、早速本資料に目を向けてみます。事例として掲載されている各企業はいずれも、複合的に施策を展開しているようですが、その前提となる考え方は『「シニア人材」をいかに活躍させるか』という点で共通していることがわかります。しかしながら、活躍の指針の違いに着目すると、次のように分類することができます。

  • (A)自社を中心として活躍を続けるための指針(以下、「活用戦略」)
  • (B)社外も視野に入れて活躍を続けるための指針(以下、「流動化戦略」)

本資料による分類に従えば、(A)のように自社を中心とした「シニア人材」の活躍を目指す企業は、「人手不足」が問題になっている企業とされます。他方で、(B)のような社外も視野に入れた活躍を目指す企業の場合は、「人手不足」ではないものの職務やポストが不足することが問題となっていると推察されます。さらに、後者は事業環境の変化が激しいほど、活躍の場を社外に向ける傾向があるとされています。

次に、この方針の違いと、そこに含まれる企業の特徴に目を向けてみることにします。
(A)「活用戦略」を採っている企業群には、技能の継承という企業の持続性にもつながる大きなテーマを抱えているメーカーが含まれています。例えば、そもそも継承する相手となる中堅層が少なく、シニア人材の知識や経験を必要としているといったことが活用を促す理由になっているようでした。もちろん、このように蓋然的な理由からではなく、シニア人材の知識や経験の有用性を認識している企業もこのカテゴリに含まれていると考えられます。
(B)「流動化戦略」を取っている企業群には、例えばIT系企業の様に技術革新のスピードが速い環境に置かれる企業が含まれていると考えられます。例えば、年齢を重ねた社員が先端技術を習得し続けていく事が難しいといったことが社外への流動化を促す一つの理由になっているようです。また、組織の労務構成比(年代構成)の適正化を図る事を重視している企業もこのカテゴリに含まれているようです。

さて、この指針(戦略)の対比に加え、各社で展開される施策を、制度、規則等といった「ハード」的な施策と、キャリア開発・支援といった「ソフト」的な施策に分類し、戦略の違いに応じて、それぞれの施策にどのような特徴が見えてくるか考えてみます。

まず、本稿での分類を簡単にまとめると次のようになります。

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(A)「活用戦略」を採っている企業群については、「ハード」としては「一人ひとりの頑張りや成果に報いる様な制度の導入」(①)、「ソフト」としては「流出防止・リテンション対策につながるような、研修を通しての意識醸成等、ソフト面の施策の導入」(②)といったことが特徴的です。
「ハード」の具体的な施策としては、「貢献を還元するために、評価制度によって成果を処遇に反映させている」といったことや「社内でのロールモデルを作る事を促進するために、専門家認定/マイスター/エキスパート等役割と専門性を明確化している」といったことが挙げられます。「ソフト」としては「①を円滑に進めるために、キャリア研修により意欲醸成を促す」といったことや「相談窓口を設置する事で、メンタルサポートを含めた相談の選択肢がある」といったことが挙げれらます。

他方で、(B)「流動化戦略」を採っている企業群では、「ハード」としては「社外も含めて、働き続けられるようなルートの確保」(③)、「ソフト」としては「社外転身を円滑に進めるための段階的支援や情報提供、研修等、といった支援施策を導入」(④)といったものが挙げられます。
「ハード」の具体的な施策としては、「会社から承認を得た社員を対象に、最長1年間の休暇や手当付きの能力開発支援の制度」といったことが挙げられ、「ソフト」の具体的な施策としては「外部の再就職支援会社を利用できるようサポートをするなどの支援策」といったものが挙げられます。

今回参考にした資料で紹介されている企業は、それぞれに置かれている状況を捉え、自らで定めた指針に従って施策を策定して、展開しています。繰り返しになりますが、そのかたちは違えども、両者の指針には「シニア人材」が働くことを支援したいという想いが前提になっていることはいうまでもありません。そして、いずれの企業も、指針に合わせて「ハード」と「ソフト」の両方の施策を設け、「シニア人材」を支援しているようです。見方を変えれば、「ハード」「ソフト」のどちらか一方が欠けてしまっても、いずれの指針もうまく実現できないことが示唆されています。

さらに、技術の進歩によって今後市場が変化し、事業の構造も変化する可能性も鑑みると、「流動化戦略」を採っている企業は、静的な市場環境に置かれている間は社内も含めた労働市場に「シニア人材」の活躍の場を求めることができるかもしれませんが、動的な市場環境に置かれるようになると、施策の目をより社外に向けざるを得なくなるかもしれません。他方、「活用戦略」を採っている企業は、市場の変化が激しくなることで、「シニア人材」に変化対応を求めるだけではなく、より長く社内で活躍してもらうために、自らも変化に対応しつつ、「シニア人材」が社内で活躍するための職務やポストを生み出すことが求められるかもしれません。

参考資料:
一般社団法人日本経済団体連合会(2016)「ホワイトカラー高齢社員の活躍をめぐる現状・課題と取組み」(2017年11月6日検索)

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