「役割創造project」とは、キャリア発達・キャリア開発とその支援という観点から、日本のミドル・シニア人材の「働き方改革」をライフワークスらしく実現していく取り組みです。

2018.06.11 役割創造データベースコラム

ワーク・エンゲイジメントとミドル・シニア世代

ミドル・シニア人材が再構築した新しい持ち味・スキルなどを組織の内外で発揮することができるようなるヒントを探るため、ライフワークスでは様々な研究者の方々にお話を伺っています。
今回は、北里大学 一般教育学部教授の島津明人 先生に伺った「ワーク・エンゲイジメント」についてご紹介します。

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まずは、ワーク・エンゲイジメントについて教えてください。

島津: ワーク・エンゲイジメントとは、この概念を定義したシャウフェリによれば「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態のことで、活力、熱意、没頭によって特徴づけられます。エンゲイジメントは、特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた一時的な状態ではなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知」とされます。このうち、活力は「就業中の高い水準のエネルギーや心理的な回復力」を、熱意は「仕事への強い関与、仕事の有意味感や誇り」を、没頭は「仕事への集中と没頭」をそれぞれ意味しています。
したがって、ワーク・エンゲイジメントの高い人は、仕事に誇り(やりがい)を感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て活き活きとしている状態にあるといえるでしょう。

「ワーカホリック」とはどう違うのでしょうか?

島津: 従業員のこころの健康の度合いを示すために用いられる「活動水準」と「仕事への態度・認知」の2軸を使ってお話ししましょう。ワーク・エンゲイジメントとワーカホリックは「活動水準」がプラスの領域という点は共通しています。この軸だと、両者は同じような意味を持つように見えますが、「仕事への態度・認知」軸、すなわち「仕事に対する」動機づけの方に大きな相違点があります。
ワーク・エンゲイジメントは、英語で表現すると「I want to work」の状態です。一方で、ワーカホリックの場合は「I have to work」、つまり仕事をやらなければいけないという状態といえるでしょう。ワーク・エンゲイジメントの場合は、自分が立てた高い目標に対して、そこに到達するためにもっと仕事がしたい、というような状態になるのに対して、ワーカホリックの場合は、仕事をしていないと不安になる。不安やストレスを下げるために仕事をやらなければいけないと感じていることになります。
また、ワーク・エンゲイジメントの場合は達成動機から仕事をしたいと思いますが、ワーカホリックの場合は失敗したくないからもっと完璧に仕事をこなさなければいけないと考える。不安回避・失敗回避の欲求が非常に強い。
このように「仕事への態度・認知」について両者は大きく違うのです。

実は、ワーク・エンゲイジメントやワーカホリックの状態が家庭生活にどう影響するかを調べた研究もあります。その結果によると、ワーク・エンゲイジメントが高い人は仕事から家庭に良い流出効果が出ていて、家庭やパートナーの満足度も高くなっている。他方で、ワーカホリックにある人は、仕事の嫌な気持ちを家庭に持ち帰り、家庭の満足度、パートナーの満足度も低めてしまうそうです。もともと、ワーク・エンゲイジメントが高い人は仕事以外もエンジョイできているのも特徴ですので、ワーク・エンゲイジメントかワーカホリックかを見分けるには、「仕事以外の生活も楽しんでいるか」というところを見てみるのもよいかもしれません。

片や働く人の「バーンアウト」というものも耳にしますが。

島津: 「バーンアウト」はワーク・エンゲイジメントとは対極の位置にある概念です。「燃え尽き症候群」という名でも知られている心理状態で、仕事に献身的に没頭したにもかかわらず、本人が期待した結果が得られないといった不全感・疲労感で社会的活動を停止し、意欲を喪失してしまう状態のことです。バーンアウトは疾患ではありませんが、重症の場合には治療が必要になることもあります。バーンアウトの主な要素は疲弊です。疲れ切ってしまっているので、疲労回復する機会を十分設けることで回復に向かいます。

回復に向かうためには、バーンアウトした人の背景やプロセスに注目することが大切です。そして、それらは大きく3つの要因に分けることができます。
1つ目は、仕事量の多さなど身体的負担が大きい場合です。2つ目は、頭を使いすぎたという脳への負担、認知的負担が大きかった場合です。3つ目は、感情労働と言われるもので、情緒的負担が大きかった場合です。その人の仕事の中でどの負担がバーンアウトになる要素を占めていたかを振り返り、大きかった負担に応じてどのようにその負担を減らしていくか、またすり減ってしまったものを充たしていくかを考えていきます。
例えば、1つ目ように体を酷使したら、体の負担を軽減してあげる。2つ目は脳の酷使が理由ですから、脳の疲れから開放してあげるなどが有効です。3番目の情緒的な負担でいえば、例えば対人業務で感情を抑えて我慢してこころに負担を持った方の場合は、嫌だなと思う気持ちやストレスを吐き出す場を設けてあげることで、バーンアウトの重症化を防ぐことができます。

また、重症度によって対処の方法を変えることも重要でしょう。重症であればまずは軽症に、さらにゼロにもっていくことが重要なポイントです。バーンアウトした人も、症状が軽くなるにしたがって自分の欲求をしっかりと見つめ直し、欲求を盛り上げていけるようになれば、次第に前向きになっていって、再びワーク・エンゲイジメントの状態になっていくこともできるでしょう。

ミドル・シニア世代の方々のモチベーション低下を課題にされる企業が多くいらっしゃいます。この世代がワーク・エンゲイジメントを高めるにはどうすればいいのでしょうか?

島津: ミドル・シニア世代の方には、地域活動に参加する人がある程度いらっしゃるようですが、会社でバリバリやっていた人の場合、いきなり自治会長やPTA会長でなければ気が進まないなどの話を聞くこともあります。そういう人は会社にいるときと同じ何かを他でも持っていたいと思いがちなのかもしれません。ですが、こういういつもと違う場面では、まずは自分にできる一つの役割を担うことからはじめて、周りに貢献するということを体験することが良いことだと思います。今ここで自分が担うことができるものと向き合い、普段気づかないようなことが、たくさんあるのだという経験をすることが大切です。そして、目の前にある役割を担う、普段気づかなかったことが見えるといった経験を、どれくらい新鮮に思えるのか、楽しめるのか、許容できるのかなど、わかりやすくいえば、「その時々を満喫」できるかが重要だと思います。

今のミドル・シニア世代には「24時間戦います」を標榜し、日本の高度成長を支えてきた方々が多いと思います。また、あらゆる場面で自分が先頭に立って皆を引っ張っていかなければいけないという気持ちが強かったり、責任感が強かったりという人も少なくはありません。こういった人達が、例えば役職定年ということになると、年齢という理由で自分のアイデンティティともいえる役職を剥がされ、落ち込んでしまいがちです。今まで仕事では主人公だったかもしれないが、これからは縁の下の力持ちに役割を変えていくように促されるけど、なかなか受け入れられないからなのでしょう。この時でも、変化した役割を満喫できるかどうかが、気持ちを切り替えるための分かれ目になるのかもしれません。自分で切り替えることがうまくいかない人の場合は、キャリア・カウンセリングやコーチングも有効といえるでしょう。

「満喫する」他にも何かあれば教えて下さい。

島津: 満喫の次に大切なことは自分の居場所をきちんと持つこと。居場所探しをするには、まず自分の価値観や欲求を知ることからはじめます。人間には大きく分けると3つくらいモチベーションの基となる欲求があるといわれています。1つは、関係性の欲求です。人と関わっていたいという欲求。2つは自律性。他の人に干渉されることなく自分で物事を決めていきたいという欲求です。3つ目が有能性です。自分の能力をどこかで発揮して役に立ちたいという欲求です。こうした3つの欲求を充たせる場所が、つまりその人なりにモチベーションを維持できる場所ということになるかと思います。そういった居場所を見つけるには、その居場所が自分の持っているどの欲求を刺激してくれるかを考えていくとよいでしょう。

最後に、大切なのは、仕事の意義の見直しです。自分は何のために、誰のために、この仕事をやっているのか、ということをきちんと自分なりに腹落ちさせていかなければ、エンゲイジメントはなかなか高まりません。このエンゲイジメントについては、「仕事の資源」と「個人の資源」の2つから高められるといわれています。「仕事の資源」は組織の中、あるいは作業の中にあり、その人のモチベーションをあげる源です。その人の仕事のやりがいや成長する機会、周りとの良好な人間関係、自律して仕事ができる環境などが、「仕事の資源」といわれます。「個人の資源」は、個人の心理的なものあるいはスキルで、例えばジョブ・クラフティングに見られること、仕事への自己効力感やコントロール感、また自分に対する誇り・自尊心などが当てはまります。こういった資源との関連の中で、仕事の意義は見直されていくのではないかと思います。

意義を見直すことは一見難しそうに見えますが。

島津: ミドル・シニア世代になると、色々なしがらみに囚われることが多くなります。しかし、社会や企業を取り巻く環境は激しく変化しているので、そういった囚われ状態から変わっていく必要があるでしょう。そして、そのためには、現状について認知を変える、あるいは、時間的にも空間的にも視野を拡げることです。
例えば、面白くないと思っている今やっている仕事が「昔やっていたすごく面白い仕事と何か関係づけられないのか?」とか、若い人であれば「将来やりたい仕事と何か関係づけられないか?」というように、仕事の意味の時間軸を今よりも長くして考えてみることで仕事の意味を捉えなおすような拡げ方が時間的な方です。
空間的な拡がりの方は、例えば、今は経理部に所属する方が、本当は企画の仕事をしたいと考えているとします。この場合、「今の経理のこの仕事は、将来自分が企画をやる時の何とつながっていきそうかな」というように考えると、今やっている仕事の意味が他の仕事の中へ拡がっていく、という具合の拡がり方です。あるいは、仕事の外まで空間の視点を拡げて、好きな草野球や釣りで得られた経験をどう仕事に活かすことができるか、というように考えることもできるのではないでしょうか。

ワーク・エンゲイジメントを高めるためにも、昔の自分を振り返ってみて最も楽しかった時、イキイキしていた時はどんな時か考えてみるのもよいのではないかと思います。そして、今度は、普段の生活の中で楽しい時ってどんな時だろうと考えてみる。空間的も時間的にも考えてみることで、エンゲイジメントできるヒントは見つかるのではないでしょうか。

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島津 明人 教授 北里大学 一般教育部人間科学教育センター 教授。専門は精神保健学、産業保健心理学。
早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程修了。博士(文学)。

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