ネットワーキングとミドル・シニア世代の働き方

ミドル・シニア人材が再構築した新しい持ち味・スキルなどを組織の内外で発揮することができるようなるヒントを探るため、ライフワークスでは様々な研究者の方々にお話を伺っています。今回は、法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授の高田朝子 先生に伺った「人脈」についてご紹介します。

2018.07.10
専門家コラム

先生が、著書『人脈のできる人』でも語っていらっしゃる「人脈」というものは、そもそもどういったものなのでしょうか?

高田: 人脈は、人と人とのつながりのことなのですが、そのつながりの意味は人の価値観によって決まるものです。例えば、とても人懐っこい人の場合、初対面のときだとしても「私はあなたのことが好き。あなたも私のことが好き」というように相手のことを考えることも。それに対して「嬉しい」と感じる人もいれば、そうはなく「単に一回会っただけ」と思う人もいます。
このように、自分と相手の思いは必ずしも合致するとは限らず、出会った相手を人脈と呼ぶかどうかは、実は人によりけりという訳です。そこでカギになるのは、「相手のために一肌脱げるか」。そして、「相手も自分のために一肌脱げるか」です。こうした思いをお互いに持ち合わせていてはじめて「人脈」が成り立つのだと私は思います。

どういった人が人脈を作ることができるのでしょうか?

高田: 本でも紹介したように「本人に自覚がない」、つまりあえて作ろうとして人脈を作っている訳ではなくて、何となくゆるやかな人間関係を作っている人ほど人脈を作れるということです。その上で、ある程度相手に影響力を及ぼす技能を持っていたりするほど、人脈は作りやすいといえます。技能といってもそれほど特殊なものではなく、「この分野なら何でも答えられるよ」などという類のことですので、例えば「ガンダムのことなら何でも知っていますよ」という具合でもいいです。とにかく、何か1つ自分を際立たせる「フラグ」が立つと、人脈作りにおいては非常に有効になってくると思います。
SNSで繋がっていて、「いいね」やコメントをしあったりするだけの間柄の人は、いざ何かあった時にその人の名前が思い出せない、などということはあり得るでしょう。こういった「知って幸せ」でとどまっている関係では人脈になりにくいのです。ビジネスパーソンにとっての人脈づくりのためには、まずはゆるく誰かと繋がる。その上で相手に名前でも何でもよいので、きちんと思い出してもらえるような印象を持ってもらうことが大切です。

人脈づくりの助けとなるフラグを立てるには、まずはとにかく何でも無心になるくらいにやってみることですが、その時に最も意識しておいて欲しいことが、フラグも含めた周りの全体像です。全体像を理解した上で、自分はここに興味があるからやってみる、というようなスタンスの方が良いと思います。というのも、今は、自分の際立たせ方として、「広く浅く何でも知っている」のと「深く特定の事を知っている」とのいずれかを選ぶのではなく、いずれも必要な時代になってからです。
ある団体の関係者に限られたパーティーで講演をさせていただいた時、会場にいらっしゃったある程度の社会的なステータスをお持ちの方々に「皆様方が会社全体のことが見えるようになったのはおいくつくらいですか?」と質問をしたところ、だいたいの方が「35~40歳」とお答えになられました。確かに若いころに、仕事の上で成熟、熟達していくためには、「深く知る」ことはとても大事です。ですが、ある程度の影響力を持つようになるには、40歳くらいまでの間に「広く知る」つまり会社全体についてもわかっておく必要があるということが、この質問への答えから推測できます。もっといってしまうと、全体像を把握することができていないと、自分の役割すら見えなくなってくる可能性があるということなのかもしれません。

人脈を作る上で、ゆるくつながることが持っている意味は何なのでしょうか?

高田: きっちりつながると当事者の間に利害関係が生まれやすく、「この前やってあげたから返してよね」というようなことになってしまいがちです。でも、今の時代は、あまりにも先が見えないから、「返してよね」と期待したことが戻ってこないことも少なくはない。だから、こういった関係性では人脈が成り立ちにくいのです。
他方で、ゆるくたくさんの仲間がつながっていて、例えば困っている人がいたら助けてあげるような状態、オンラインゲームのプレーヤー同士みたいな関係の場合を想像してみてください。ゲームの中で、誰かが負けそうになって困っているのを仲間が助けてあげる。自分が困ったら誰かが助けに来てくれる。さらにその相手が見知った「顔の見える」相手であれば、助けようとするモチベーションはさらにあがるということもありますよね。こういったお互いさまの関係ができやすいのがゆるくつながっていることの持っている意味の一つです。

知っている、見える、相手の顔が浮かぶといったことは人脈にとって大事な要素です。でも相手を思うかべたりするために、その人についてありとあらゆることを知っている、というのは現実的ではありません。昔に比べて多様な出会いの場面がある今日では、全ての人とつながると疲れてしまうし、そうすることも現実的には不可能に近いでしょう。それだけが理由ではないですが、ゆるいつながりの方がより今日としては自然な人との関わりあい方のように思えます。

ゆるいつながりを育てるにはどうすれば良いのでしょうか?

高田: まずは「人と会うことを嫌がらないこと」、そして「人を受け入れること」です。人は自分の中に相手についてのプロトタイプを持っていて、「この人はこういうタイプだ」などと理解し、それを自分の知識の中に格納してしまいがちです。もちろん「べきだ論」のようなものもある程度持っていてもいいのですが、そればっかりを使っていては相手を受け入れたことにはなりません。時には、それが強くなりすぎると相手にレッテルを貼ってしまい、人間関係によくないことを起こすこともあります。そうではなく、人と会い、会ったときは、相手の事を興味をもって見てみてみる。性格は明るくても暗くても、ポジティブシンキングでもネガティブシンキングでも、相手を否定したりしない人、攻撃したりしない人は、他人とゆるくつながることができる特徴を持っています。

ゆるくつながっていくためには、「面白がること」も重要です。小手先のテクニック重視のような接し方をするより、「なんでこの人はそんなことを言っているのか?」と好奇心を持って相手のことを面白がってみることができると、ゆるいつながりが広がっていきます。相手のことを「おかしい」と思ったり「おかしいから変えよう」と思ったりすることをやめてみると、ゆるいつながりは育っていくのではないでしょうか。

人脈という話題に戻ります。人脈ができるとどのようなことが起きるでしょうか?

高田: 人脈ができると、長い時間軸で「お返し」ができるようになるのではないかと思います。「この前やってもらったから」という短いスパンではなくて、「あの時やってもらったから、今度は自分が」と何年も経った後でもお返しができるような関係ができる。お返しといっても、モノではなく言葉でもありえます。「あの時に助けてくれてすごくうれしかった」と言葉に出してお返しができる。
いずれにしても、相手に返すことができる、表現できるというのが大切です。これから先の日本では、女性活躍や雇用の国際化、LGBTなどというテーマの下でもっとダイバーシティが進んでいくと思います。そんな中で「阿吽の呼吸」は死語になってしまう可能性が高いでしょう。多様な人がいる中では、感謝していること、恩に着たこと、助かったことなどは言葉に出していかないと相手にはわかりません。そして、上手に言葉に出すには、意識してトレーニングをしていく必要があると思います。人脈という関係が成り立っていくには、完ぺきなギブ&テイクというものではなくとも、何かやってきたことに対してレスポンスがあることが大切なことの一つです。そのレスポンスの一番大きな要素は言葉で構成されていますので、言語化する能力は今後の日本では、とても重要になってくるのではないでしょうか。

他にも、人脈ができると、自分一人で悟ることはできないことが、誰かといることで悟ることができるということも起こりやすくなるでしょう。

ミドル・シニアの方が人脈を作りあげていくために必要なことはなんでしょうか?

人脈を作っていくためには、まず素地を作ることです。そこで特に重要なのは「無駄を作ること」でしょうか。とはいいながら、これまでまじめに仕事一筋に打ち込んで育ってきたミドル・シニアの方などは、一筋ではない無駄を作れといわれても、なかなか難しいでしょう。ですから、日ごろあまり関わらないところに関わってみるというのもいいかもしれません。
例えば、昔の仲間に会うのは理にかなっています。学校の同期に会ってみたり同窓会に出向いてみたりすると、普段接しないネットワークに繫がることが多かったりします。知り合いの知り合いというような日ごろ接点のない人だったり、その人についての情報だったりを得ることができるかもしれません。ある有名な研究では、頻繁に会う人よりあまり頻繁に会わないような人がもたらしてくれる情報の方が、実は自分にとって有益になることがある、というような結果もでていますので、こういった新しい出会いの場はぜひ作っていくことを勧めます。他にも、もしお子さんがいらっしゃる方でしたら、子供の仲間・友達といったつながりも、実は自分の思わぬ人脈になってくれるということもありますよ。

あるいは、何らかの教室に入るとか、大学院に行くなどでもいいですね。大学院に入学すると、皆さん「初学者」ということになりますので、「○○社の△△」という自分の所属する組織の肩書きは一旦さておき、ということになります。そこでは日ごろ無意識に使っている「べきだ論」のようなものが通じない場面も多々起こりますので、「あるがまま」を受け入れるいい訓練になります。大学院に限りませんが、こういった日ごろの何かが通じないような場所には意識的に関わることを強くお勧めします。

会社の中であれば、短期間に効果を上げるために「べきだ論」が一定の効果を発揮するということもあり得ます。ですが、そのようなものだけに頼ったやり方は、80歳までの健康寿命を全うするために立ちいかなくなります。なぜなら、人の脳は「こうあるべきだ」という考え方をすると成長しなくなってしまうからです。ですから、自分の当たり前と思っていることが通じない場面に、ある程度の期間関わっていけば、人脈作りのいい素地ができるのではないでしょうか。

「無駄を作る」というのは、つまり人とのつながりの可能性を広げることだけではなく、「べきだ論」という先入観だけに頼らない考え方ができるようになるということを意味しています。そして、こういった考え方が身につくことで、良い人脈作りを始めることができるようになると思います。

素地をもとにいよいよミドル・シニアの方が人脈を作りあげていく。そのためにはどうしたらよいでしょうか?

一番良いのは山にこもってまず考える事ですね(笑)。それくらいの環境で、一人の時間を持ち考えることはとても大事です。

ミドル・シニアの方は家族や両親などの関係もあって、なかなか一人の時間を持てないことも多いでしょう。そんな中でも、週に一回喫茶店に行くなど、まずは一人になる時間を意識して作るべきだと思います。時間ができたら、次は考える事です。考えるといっても本を読んでインプットするというようなタイプの「考える」だけではダメです。「自分が何をやりたいか」を考え、文字に書き出す。つまり、アウトプットすることこそが大事です。文字化するだけでなく、発話してみるのもいいです。
アウトプットすることができたら、次は周りの人に働きかけることが非常に大切です。働きかける相手は、話をして楽しいと思える人というのはもちろんなのですが、それだけではなく「良いヒントをくれる人」がいいと思います。機会があるならディスカッションしてみても良いでしょう。周りの人に「これをやってみたい」と語ることでそれにコミットする意志が生まれたり、行動につながったりすることもあり得ます。
いずれにしても、ヒント=フィードバックをくれる仲間を作っていくと、ゆるくつながれる良いネットワーキングができていくのではないかと思います。そして、ネットワーキングしていくには偏差値や地位などというものは意識の外に置いておいた方がいいかもしれません。

80歳健康社会といわれるような今日では、長く働くことを選ぶ人は少なくはありませんし、せっかく長く働くのであれば、苦痛なことより、楽しくできることの方がいいと思う人は多いでしょう。だから、「自分がやりたいこと」=「やっている時に自分が楽しいと思えること」がわかることがますます大切になってきます。健康であり続けるためにも、自分はどうあればハッピーであるかをまずは知る。そして、それを軸にして人とつながること、助け合うことのできる基盤を作ることが、ミドル・シニアの方々には必要なのではないでしょうか。

人脈を持っている人は、食べるのが好き、飲むのが好き、人と話すのが好き、そして基本的におせっかいだったりします。企業の立場からしてみれば、こういった人が持っている人脈やネットワーキングする力は、いずれ財産になるかもしれません。もし、そういったつながりを企業が意図して拡げていきたいのであれば、遅くとも50代ぐらいまでには、社員が自分のことを考える機会や仕掛けを設けてみるのもよいでしょう。

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高田 朝子 教授

法政大学 経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授。専門は組織行動、リーダーシップ、組織戦略。
慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了。博士(経営学)

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