「役割創造project」とは、キャリア発達・キャリア開発とその支援という観点から、日本のミドル・シニア人材の「働き方改革」をライフワークスらしく実現していく取り組みです。

2017.09.01 個人の活躍

異分野へのキャリアチェンジによって、自らの価値をのびのびと生かす

異分野へのキャリアチェンジによって、自らの価値をのびのびと生かす

大手メディア企業を52歳で退職し、経営コンサルタントとして独立。多くの中小企業を直接支援するほか、中小企業よろず支援拠点で群馬県のチーフコーディネーターを務めるなど官公庁事業でも活躍している小畑満芳さん。充実したセカンドキャリアの裏側には、地道な日々の積み重ねがあったようです。

52歳で早期退職。"違和感"を放っておけなかった

---50代でのキャリアチェンジをお考えになった背景は?

僕は新卒でマスメディア関連の会社に入りましてね。番組制作や編成などを経験した後、40代からは経営企画や人事労務の仕事をするようになりました。発想力や感性といった右脳の力が重視される仕事から、左脳による論理的思考力がより求められる仕事にシフトしていったわけです。その時に感じたのは、自分には後者の方が水が合うということ。もともと右脳よりも左脳を使って物事を考える方が得意ですし、経営戦略、組織人事といったそれまで学んだことのなかった知識を勉強することも苦にならないどころか、面白くてたまりませんでした。そのうちに、「この先は経営の分野で左脳を生かして仕事をしていきたい」と考えるようになったのですが、そのようなキャリアを発展させていくには、マスメディア関連の会社では限界があります。そこで、なるべく早いうちに準備をして、経営コンサルタントとして起業できないだろうかと考えていた時に早期退職者の募集があり、応募をすることにしたんです。

---52歳の時ですね。早期退職について、ご家族はどのような反応でしたか?

やはり不安だったようで、最初は妻に理解してもらえませんでした。「定年まで会社にいれば、安定した生活が送れるのに」と。でも、僕たちの世代は年金の給付が65歳からで、給付額も豊かな生活ができるほどではありません。60歳で定年した後も再雇用で65歳までは何とかそれまでの会社で働き続けられる可能性がありますが、その先は自分で仕事を探さないと、収入源がなくなってしまいます。起業すれば一時的には苦労もあるかもしれませんが、実績を積むことによって、年齢にかかわらず働き続けられます。長い目で見れば、今キャリアチェンジをした方がリスクヘッジになると説明しました。
それに、人生は自分のものです。50代でのキャリアチェンジは僕自身にとっても大きな決断でしたが、「このまま同じ会社で働き続けて、いいのだろうか」という違和感を放っておけませんでした。妻も何よりそこに納得してくれたようです。


自転車で下町の中小企業を巡った日々が底力になっている

---退職した年に中小企業診断士の資格を取り、翌年からは大学院に1年間通ってMBAを取得されていますね。

もともと退職から起業までに準備期間を考えており、中小企業診断士の資格だけでは差別化が難しいので、MBAも取りました。その間の生活のことはきちんと計算していたつもりだったのですが、退職後すぐに給付されると思っていた確定拠出年金(401K)が60歳まで給付されないことが判明しましてね。"浪人"する余裕は全くなかったので、全力で勉強しました(笑)。経営関連の仕事もしていたとはいえ、新たに学ぶことばかり。"50の手習い"でしたが、学校ではさまざまな年代や国籍の人たちとの出会いもあり、勉強は楽しかったですね。

---資格取得後、仕事はどうやって探されたのですか?

何のツテもなかったので、大変でした。最初に始めたのは、中小企業診断協会のWebサイトで見つけた港区の商工相談員です。区役所の窓口を訪れる中小企業経営者の方に経営アドバイスを行う仕事で、勤務日は週に2日。食べていけるほどの収入にはならず、不安もありましたが、とにかく経験を積まなければと必死でした。そのうちに中小企業基盤整備機構による中小企業とシニア人材を結びつける事業にも参加するようになり、ようやく忙しくなってきたかなという時に、この事業が国の補助金削減の影響でなくなってしまったんです。そこで新たに墨田区の中小企業経営支援事業に相談員として携わり、区内の中小企業を巡回して経営アドバイスをする仕事を2年ほどやりました。この時期はすごくキツかったです。

---どのようなことに苦労されたのですか?

墨田区のあたりは道が入り組んでいるので、交通手段は自転車。支援する企業はものづくり系が多く、暑い日も寒い日もペダルをこいで、昔ながらの下町の工場を訪問するわけです。元気が取り柄の僕もさすがに20代、30代のころのようにはいかず、体力的にこたえました。それ以上に苦労したのは、支援先企業の経営課題をきちんと把握することです。僕は会社員時代にどちらかというと大企業に勤務していましたし、独立してからもオフィスワーク系の中小企業とのおつきあいが多かったので、いわゆる"町工場の社長さん"たちの感覚や価値観を肌で理解できていないところがあったんです。

ところが、繰り返し支援先企業を訪問して現場の方たちとちょっとした世間話をしたり、区主催の企業PRイベントへの出展をお手伝いして社員の方たちと一緒にチラシを配ったりするうちに信頼関係ができましてね。社長さんたちから本音の声を聞けるようになり、彼らが何に悩み、どんなサポートを必要としているかが何となくわかるようになりました。経営コンサルティングの仕事はクライアントの課題の発掘から始まることがほとんど。この時期に課題発掘力を鍛えられたおかげで幅広い業種のコンサルティングができるようになり、自治体の事業を通しての支援とは別に、さまざまな企業からダイレクトに相談を受けることも増えていきました。


「生涯現役」を目指す。原動力は人とかかわり、頼られる喜び

---2015年からは中小企業庁のよろず支援拠点で群馬県のチーフコーディネーターも務めていらっしゃいますね。

rc_p_170816_obata_02.jpg「よろず支援拠点」というのは地域の中小企業や小規模事業者の経営相談所です。僕のほかに中小企業診断士や弁理士、行政書士、デザイナーなどの専門分野を持つコーディネーター14人のチームで相談に当たっています。相談内容は創業のための手続きから財務、人事、特許申請、「商品デザインのアドバイスを受けたい」といったことまで本当にさまざま。専門のコーディネーターが強みを発揮してくれていますが、僕はチーフとして総合的なコンサルティングを担当しているので、各分野について知らないことをなくしておかなければいけません。学ぶことが次々と出てくる感じですね。最近は「賃金体系を整備したい」という企業のニーズにもっときちんと応えたいという思いから、社会保険労務士の資格取得に向けて勉強をしています。

---独立後これまでに、ITコーディネーター、ターンアラウンドマネージャー(企業再建・企業継承)などさまざまな資格を取得されていますね。

どの資格も、企業から相談を受けているうちに必要性を感じて取りました。資格マニアというわけではないので、教科書を読むと眠くなるのが悩みの種です(笑)。勉強は好きですが、やはり、頼られるってうれしいじゃないですか。ご相談をいただいた経営者の方たちの信頼に応え、喜んでもらえば、その反応がダイレクトに伝わってくるし、実入りにもなる。独立して良かったと思うのは、会社員時代よりも人とのかかわりを強く感じて働けることですね。

会社員時代に先輩から「お前は人に関心があるから、そこを生かした仕事が向いている」と言われたことがあるのですが、当時は「そうなのかな」くらいにしか思っていませんでした。僕は本質的には外交的なタイプではないので、人への関心を仕事に生かすというのがどういうことなのかピンと来ていなかったんです。でも、経営コンサルタントとして独立し、多様なバックグラウンドや価値観を持つ方たちと出会うにつれ、自分は人が好きで、それが自分の強みでもあると実感するようになりました。

どんな仕事も脂が乗ってくるまでには5年はかかる

---今後についてはどのようにお考えになっていますか?

生涯働き続けたいですね。最近は経営や独立開業、キャリアなどのテーマで講演やセミナーのご依頼をいただく機会が増え、将来的には人にものを伝えたり、教える仕事もできたらいいなと考えています。「小畑さんは人前で話すのがお上手ですね」とおっしゃってくださる方も多いのですが、僕はもともと人前で話すのが苦手で、あがり症だったんです。場数を踏んで慣れてきましたが、講演前はいまだに緊張します。だから、準備は抜かりないですよ。懇親会の乾杯の挨拶も1週間前には考えていないとそわそわしてしまうタイプです(笑)。苦手なことでも、人間、やらなければいけない状況に追い込まれると、できてしまうものなんだなあと感じたりしています。

同じ組織にずっといると、多様な価値観に触れたり、苦手なことをやってみるという経験が少なくなっていくものです。でも、自分の価値や強みというのはそういう経験から見つかることが多いと僕自身の経験から感じています。だから、会社でキャリアを積んできた人ほど、異なる世界に飛び込む経験をするようにした方がいい気がしますね。難しいことではなく、休日にカルチャーセンターに通う、趣味の同好会に参加するといった楽しみながらできることを通して発見するものも多いと思いますよ。

それから、「定年退職後に資格を生かして開業でもしたい」と考える人も多いですが、どんな仕事も脂が乗ってくるまでに5年くらいはかかります。資格を取っただけではわからないことが現場にはたくさんありますし、組織の一員として働くことと個人で仕事をすることのギャップに戸惑うこともあるはずです。キャリアチェンジを考えているなら、トライアンドエラーの時間が必要だということも頭に入れ、早めに準備をした方がいいと思いますね。


プロフィール

小畑 満芳さん 1954年生まれ。1979年早稲田大学理工学部卒業後、民法テレビ局に入社。制作、経営企画、人事労務などを経験。2006年3月に退職後、中小企業診断士の資格取得、早稲田大学院でのMBA取得などの準備期間を経て2008年より主に中小企業支援に携わる。自治体や政府機関の事業での中小企業支援を中心に行ってきたが、2008年より2年間中小企業基盤整備機構の新現役全国マネージャーを務めたのをきっかけに2011年より信用金庫と連携した中小企業とシニア人材の交流会方式の支援や個別企業のコンサルティングも行っている。現在は港区産業振興課商工相談員、経済産業省関東経済産業局新現役アドバイザーのほか、経済産業省よろず支援拠点で千葉県のチーフコーディネーターを務めている。

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