「役割創造project」とは、キャリア発達・キャリア開発とその支援という観点から、日本のミドル・シニア人材の「働き方改革」をライフワークスらしく実現していく取り組みです。

2018.01.10 個人の活躍

役職勇退を機に自主的に始めた取り組みが認められ、全社的な活動に発展

役職勇退を機に自主的に始めた取り組みが認められ、全社的な活動に発展

清涼飲料販売会社・サントリーフーズで、シニア社員によるユニークな活動が行われています。その名も「TOO活動」。「TOO」とは「隣のおせっかいおじさん・おばさん」の略で、役職勇退後の社員が豊富な経験を生かし、若手社員のカウンセリングやマネジャーへのアドバイス、職場交流会の開催など職場の潤滑油としての役割を務めています。この活動の生みの親・三好康之さんに「TOO」誕生の経緯や自身の思い、「TOO」が職場にもたらした影響などについてお話しいただきました。

シニア社員だからこそできる役割がある

---まず、「TOO」の活動について教えていただけますか?

「TOO」は2014年に発足し、メンバーは全国に11名(2018年1月現在)。役職勇退を迎えた社員から人事部の推薦で選抜され、現場の業務と兼務で若手社員の相談役や新任課長のサポートなど職場の人間関係作りのお手伝いをしています。私の場合は稟議書の管理業務が4割、TOOの活動が6割で、ほかの全国TOOもみな現場の業務と兼務で、4割ほどをTOO活動に割いている状況です。

サポートする対象は、契約・派遣社員も含め、所属する職場の社員全員。相談内容は業務のノウハウから「上司とうまくいかない」「部下とのコミュニケーションに悩んでいる」といったことまでさまざま。面談も行いますが、普段と様子の違う社員に「ちょっと元気がないけど、どうしたんや?」と声をかけて、「実は...」と相談を受けるようなことも多いですね。

---「TOO」は「管理職のサポート」といった位置づけなのでしょうか?

「TOO」のメンバーには現場の業務の上長がそれぞれいますが、「TOO」の業務に関しては支社長直轄となっています。「TOO」はどの社員ともヨコの関係にあり、利害が絡まないために、率直なアドバイスができますし、社員も本音を言いやすいようです。また、専任ではないことも大きなポイント。同じ職場で日常を過ごすことでそれぞれの社員の課題に素早く気づくことができますし、信頼関係も築きやすいので、お互いに話がしやすいんです。

「TOO」という名前は人事部の若手社員がつけてくれたのですが、この活動の特徴をよく表現してくれているなと思います。社員にとって直属の上司はお父ちゃん・お母ちゃんのようなもの。利害関係があるから言いづらいこともありますが、「隣のおじさん・おばさん」なら悩みも相談しやすかったりしますよね。シニアだからこそできる役割があるんだなと実感しています。


58歳で役職勇退したとたん、1日100通来ていたメールが週に10通に

---「TOO活動」を始めた経緯は?

2011年に役職勇退をし、子会社の常務から一社員に戻ったら、1日100通来ていたメールが週に10通に減りましてね。会議や打ち合わせに参加することもなくなり、「何なんやろ。25年間マネジメントに関わってきても、会社員の最後ってこんなものなんか」と寂しくて。「もっと会社に貢献したい。これまでの経験を生かして後輩を支援するような仕事ができないだろうか」という思いが募って、シニア社員3人で自主的にほかの社員のお手伝いを始めたんです。

---どのようなお手伝いをされていたんですか?

当時はちょうど大阪、京都、神戸にあった支店が近畿支社として統合される時期だったのですが、東北支社から来た支社長が着任し、近畿支社の事情に明るくないためにマネジメントに苦労している様子だったんですね。一方、我々はそれぞれ大阪、京都、神戸の支店長の経験があったので、各支店の風土やエリアの取引先の特性をよく知っていました。そこで、その知識や経験をみんなに伝えたり、統合に戸惑っている社員の相談に乗ったりといったサポートをしたいと支社長に提案。「是非お願いしたい」と言っていただき、支社内に「三好さんたちがこういうことをしてくれる」ときちんと説明するなど僕たちが力を発揮しやすい環境を整えてくれ、活動を始めたんです。その評判が伝わって本社からも認められ、活動を「TOO」と名づけて全国に展開することになりました。


ポイントは、シニア社員自身が役割の変化を受け入れること

---まさに新しい役割を創造されたわけですね。役職勇退後、自分がどのような立ち位置で仕事をすればいいのか戸惑ったり、周囲も遠慮して仕事を頼みづらかったりして力を発揮できないケースも少なくありません。三好さんたちの活動が職場に浸透したのはなぜだったと思われますか?

経営トップや支社長、人事が活動を理解してくれ、「やってみなはれ」と応援してくれたことが大きかったです。一人でいくら頑張っても、「何であのオッサンに言われなあかんねん」となりがちですから(笑)。トップのコミットメントのもとで、オフィシャルな役割として任じてもらえたというのは非常に重要なポイントだったと思います。支社の統合という変革の時期で、自分の経験を生かせる状況が目の前にあったというのもラッキーでした。おまけに、過去に一緒に仕事をしたり、育ててきた仲間たちが同じ職場に結構集まっていて、みんなが頼ってくれた。その時に思ったのは、50代後半までにきちんとした人間関係を築いておくことがシニア期の充実した仕事に結びつくんだなと。やはり、キャリアというのはつながっていますから。

私自身が心がけていたのは、自分の役割は黒子で、求められているのは後方支援であることをまず意識すること。管理職としては現役を終えているのに、それまでと同じスタンスで周囲と接していたら、うるさがられて、せっかくのアドバイスも「余計なおせっかい」になりかねません。このマインドチェンジが意外と難しくて、密かに悩んだ時期もありました。

---そうだったんですね。

管理職時代の私は、どちらかというとトップダウンでグイグイ物事を進めるタイプでしたから、正直、最初は若い世代のやり方をもどかしく感じることもあったんです。でも、役職を退いて少し心の余裕が生まれ、世の中全体を眺められるようになって、「ああ、時代は変わったんだな」と。若い世代と自分との違いを認め、まずは相手の話を聞いて、「一緒に考えていこう」というスタンスでアドバイスをするようになりました。だから、みんなも受け入れてくれたのではと思います。

もうひとつ、客観的な立場で冷静に判断、助言することも心がけてきました。特にメンタル面のアドバイスはデリケートですからね。裏付けをもとに話をしなければ役立てないと考え、心理学やキャリアデザイン、コーチングなどを外部のセミナーなどを受講して勉強し、メンタルヘルス・マネジメントの資格も取りました。


「おせっかいなおじさん・おばさん」から、「目指したい」と言われる存在に

---「TOO活動」によって、三好さん自身に変化はありましたか?

現役の管理職時代も部下の育成には携わっていましたが、忙しくて目が届かないところもありました。「TOO」のとして、当時とは異なる立ち位置でマネジメントや人材育成に携わることによって、埋もれていた課題に気づき、現役時代にはなかった発想が生まれる面白さを感じています。例えば、労使協議会の活性化。これまでの労使協議会では、社員が経営サイドに遠慮して本音が出ず、有意義な話し合いが行われにくいところがありました。そこで、「TOO」メンバーの労使協議会への参加を必須とし、経営サイド、社員双方の事情を深く知る立場からの意見を取り入れることで議論の充実化を図り、効果が出ています。そうやって、みんなの役に立っているという実感を得られると、やはり仕事への向かい方も違ってきますよね。

最近は「将来はTOOのメンバーになりたい」と希望する管理職も少なからずいると聞いています。私たちの活動を見て、「自分たちも後輩のために何かをしたい」とミドル層の社員が若手を支援する「KON(近畿支社量販部のおせっかいにいさん)」も2017年から始まりました。最初は手探りでスタートした私たちの活動が広がり、お互いが助け合う風土ができつつあるのが何よりもうれしいです。手前味噌ですが、「ホンマ、TOOはええ活動やな」と思っています(笑)。

---ご自身のキャリアについて、今後の展望をお聞かせください。

私は2018年にサントリー人生を満了することになります。「TOO」はすでに社内で受け入れられ、組織化も進んでいますので、定年を迎える前にやっておきたいのは、管理職経験のないシニア社員が経験を生かす場を作る道筋をつけることです。

rc_p_171227_02.jpg「TOO」としてメインのサポート対象は若手だったのですが、数年前から50代社員との面談も設けて、一人ひとりとじっくり話すようになったんですね。それで気づいたのは、後進のサポートをする上で、管理職経験の有無は必ずしもパフォーマンスに関係しないということ。管理職経験がなくても、高い人間力で周囲から慕われている人はいますし、現場のノウハウを豊富に持っていて痒いところに手の届くアドバイスができる人もいます。キャリアを重ねた人はみんな相応の力を身につけていますから、新入社員のOJTで相談役を担当してもらうなど、生かす場を作れないかと会社に提案をしているところです。

最近、個人的に思っているのは、会社員のキャリアも「職人さん」と同じだということ。職人さんの場合は、年季を入れて腕を磨き、周囲からも認められるというところがありますよね。会社員の場合ビジネス環境の変化が激しくて、年齢を重ねると知識や技術は古くなってしまいがちなので、ミドルシニアの社員は自信を失いがちですが、コミュニケーション力や広い見識など年季を入れることで磨かれるものは必ずあります。それを活かさないのは、やはりもったいない。ミドルシニアが力を発揮できる場所をいかに作るかで企業の価値は変わってくると思います。

私自身のキャリアですか? そうですね。「TOO」活動を始めて以来、活動を極めたいと勉強することに力を注いできて、先のことはあまり考えていませんでした。多分、定年後は「普通のオッサン」になるんじゃないでしょうか(笑)。それに、定年までにやりたいことはまだまだありますからね。まずは今できることをやり切って、その先も自分が何か役立てることがあれば、積極的にやっていこうと思っています。

プロフィール

三好 康之さん 1972年、サントリーフーズ株式会社入社。営業職でキャリアを積み、89年京都営業所課長に就任。大阪第一支店長、四国支店長などを経て2006年近畿ペプシコーラ販売会社常務取締役に就任。2010年役職勇退し、近畿支社企画部へ。稟議書の管理などを担当するかたわら、相談業務を自主的に始め、2014年10月からは「TOO活動」として全社的に展開。TOOのリーダー的存在として活躍している。

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