「役割創造project」とは、キャリア発達・キャリア開発とその支援という観点から、日本のミドル・シニア人材の「働き方改革」をライフワークスらしく実現していく取り組みです。

2018.06.04 個人の活躍

50代のキャリアチェンジで新たな自分の強みを発揮。
会社生活の中で今が一番充実している

50代のキャリアチェンジで新たな自分の強みを発揮。会社生活の中で今が一番充実している

株式会社電通においてダイバーシティ社会に対するビジョンやソリューションを提供する「電通ダイバーシティ・ラボ(以下DDL)」の事務局長として活躍している伊藤義博さん。52歳で現職に就くまではおもに営業部門でキャリアを積んできた。50代の転機が伊藤さんにもたらした変化とは?

ダイバーシティをテーマにした新たなビジネスソリューションに取り組む

---伊藤さんは2011年6月に「電通ダイバーシティ・ラボ(以下DDL)」を創設し、準備段階から事務局長を務めていらっしゃるそうですね。「DDL」ではどのようなお仕事を?

「DDL」はダイバーシティを核に据えたさまざまなサービスやソリューションを開発し、世に送り出しているバーチャルな社内横断組織です。登録メンバー124名のうち、実働しているのは常時40名ほど。メンバーのほとんどは別の担当業務と兼務ですが、私は専任で業務に当たっています。

現在、「DDL」で手がけているのは「障害」「ジェンダー」「多文化」「ジェネレーション」の4分野16プロジェクト。特定の領域に限定せず全ての多様性を対象としていることがユニークな点です。これまでに、専門家と共同で読みやすさを科学的に検証して開発したユニバーサルフォント「みんなの文字」や、多様な顧客への対応技術を備えた人材育成を目指す「ダイバーシティ・アテンダント検定」などを開発してきました。

CSR活動としてダイバーシティに取り組む企業は多いと思いますが、ビジネスソリューションにもどんどんつなげていきましょうという姿勢が「DDL」の特徴です。あるクライアント企業の顧客契約のしおりに「みんなの文字」を使用し、更に読みやすいレイアウトを工夫したところ、クレームが25%減ったという例もあります。

調査・研究活動では、2012年にセクシャル・マイノリティ(以下LGBT)を中心に広がる消費について日本で唯一(当時)の大規模調査を実施。以後、継続的に調査を行っています。ニュースなどで「日本にはLGBT層が人口の7.6パーセント存在する」と言われるのを耳にしたことはありませんか?

---あります。

あの数字は「DDL」が2015年に約7万人を対象に行った調査に基づいているんですよ。少しなりとも皆さんにLGBTについて知っていただくためのお手伝いができてうれしいです。


25年間の営業経験を経て、52歳で新たな仕事に挑戦

---先進的な取り組みをされているんですね。ところで、伊藤さんが「DDL」を創設されたのは52歳の時だったとうかがっています。設立の経緯は?

あの...。正直な話をしちゃっていいんでしょうか(笑)。

---もちろんです!

僕は入社以来25年間営業関連の業務に携わった後、IT系子会社に代表取締役副社長として3年間出向しましてね。電通に帰任する際に「営業以外の新しいことに挑戦してみたい」と会社に希望を伝えたところ、マーケティング、プランニング、プロモーションなどの部署を統合した新たな部署の室長を任され、意欲的に仕事をしていました。そんな時に、「これからはダイバーシティが重要になるから、伊藤、やってよ」と上司に声をかけてもらったのが「DDL」を立ち上げることになったきっかけなんです。当時はまだ世の中にダイバーシティという概念が浸透しておらず、実のところ、僕もあまり関心を持ったことがありませんでした。

でも、せっかく声をかけてもらったのだから「やらなければ」とダイバーシティについて調べ始めたんですね。すると、ダイバーシティ関連の領域はものすごく広く、おまけに深いことがわかりました。僕一人の力では太刀打ちできないと考え、取りあえず、社内で「ダイバーシティをテーマにプロジェクトチームを立ち上げます」と発信。上司から専門家を紹介してもらったり、「社内ならあの人が詳しいよ」と教えてもらうといったといったサポートも得ながら、「DDL」を設立したんです。


「ダイバーシティのことなら、伊藤に聞け」と言われることが多くなった

---「DDL」に携わるようになってご自身に変化はありますか?

自分自身「そうだったのか!」 という発見が多く、毎日が楽しいですね。これまで知らなかったことを知ることができ、自分の常識が変わったと感じています。例えば、身体障がい者について普段はあまり身近に感じたことがないという人も多いかもしれませんが、内閣府の『平成25年度版障害者白書』によると、日本の18歳以上の肢体不自由者(車イスを含む)は約181万人。日本で2番目に多い姓と言われている「鈴木さん」の数とほぼ変わらない人数です。また、視覚障がいと認定され、障がい者手帳を交付されている人は2017年3月時点で約34万人ですが、日本の眼鏡人口は約6000万人と言われ、視覚に何らかの不自由を抱えている人は日本の人口の半分を超えます。つまり、障がいというのは特別なことではないのです。

ところが、障がいや性別、国籍といった「多様性」をこれまで広告会社が十分に理解し、消費者とのコミュニケーションを実現できたと言うと、十分ではありませんでした。そのような未開拓の分野に取り組み、僕自身にとってもこれまでとは違うことに挑戦することで、経験の「引き出し」が増えたと感じています。

あと、「DDL」には社内で自分が一番密に関わっていますので、最近では「ダイバーシティのことなら、伊藤に聞け」と言われることが多くなりました。新たな強みのようなものを身につけられたのは僕にとってよかったですし、ありがたいなと思っています。

---「DDL」についてお話ししてくださる表情が、本当に楽しそうですね。

いや、だって、楽しいんですよ(笑)。もうひとつお話ししますと、社外のネットワークも広がりました。この1年で約60社にプレゼンテーションにうかがい、大学での講演に呼んでいただくことも。専門家の方々や関連団体の方々からさまざまなことを教えていただき、現在は約150の外部組織とつながりがあります。

また、「DDL」は社内横断的組織なので、他部署の人たちと接することができるのも新鮮です。「DDL」のプロジェクトには身体に障がいがある社員、LGBTの社員など当事者も参加しています。自分よりずっと若い人に教えを請うこともしょっちゅうですが、それも楽しいですね。学生時代にアメフトのクラブチームでリーダーを務めたり、管理職を務めてきた経験から、メンバーそれぞれの個性を生かしてチームワークで仕事を進めることには慣れていますし、性に合っているのかもしれません。


自らの意思を会社に伝えることも大事

---年代にかかわらず、充実したキャリアを歩むために大事なことは何だと思われますか?

僕は数年前に役職定年を迎えましたが、「DDL」に携わり、以前と変わらず楽しく仕事をしています。ただ、実は、仕事に対するモチベーションが落ちそうになったこともあるんですよ。

---何か理由があったのですか?

rc_p_180604_02.jpg監査役室の室長を任され、業務の性質上兼務ができないために「DDL」の業務から外れた時期があったんです。僕はそれまでどちらかというと会社から任されたことを一生懸命やってきたタイプなのですが、この時は珍しく「いつか"DDL"に戻りたい」と会社に意思を伝えました。その結果、また戻ることができたんです。たまたま人事的なタイミングが良かったというのもあるのかもしれませんが、やはり、声を出すことは大事なのかもしれないですね。それから、新しい環境や刺激をイヤがらないことも、今の充実した日々につながっているのかなと思ったりします。

---今後についてはどのようにお考えになっていますか?

子どもがまだ小さいので、まだまだ隠居するわけにはいきません(笑)。60歳以降もフルタイム社員として働き、「DDL」の活動は続けていきたいと思っています。その先はどうなるかはわからないが、ダイバーシティという自分のテーマを見つけられたことは本当に良かったです。課題が次々とあり、立ち止まっていられません。ある意味、今が会社生活の中で一番充実しているかもしれないですね。

プロフィール

伊藤 義博さん 1958 年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1981年、株式会社電通入社。テレビ局の媒体担当を経て、営業としてトヨタ自動車、ダイエー、KDDIなどを25年間担当。IT系子会社の代表取締役副社長を経て、2010年電通ソリューションセクター計画管理室長に。ビジネス統括局次長、監査役会業務室長、電通総研研究主席を経て、2018年よりマーケティングソリューション局研究主席。一方で電通ダイバーシティ・ラボを2011年6月創設。準備段階から事務局長を務め、現在に至る。

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