「役割創造project」とは、キャリア発達・キャリア開発とその支援という観点から、日本のミドル・シニア人材の「働き方改革」をライフワークスらしく実現していく取り組みです。

2019.01.28 個人の活躍

55歳で未経験の人事部門に異動し、会社の能力開発制度の基盤を確立

55歳で未経験の人事部門に異動し、会社の能力開発制度の基盤を確立

富士電機と日本ガイシの水環境分野の合併により、2008年4月に設立された水環境分野における総合エンジニアリング企業・メタウォーター株式会社に勤務する福田弘美さん。2009年まで人事部門未経験ながら、合併に伴って新たに構築された能力開発制度の基盤を作り、65歳を超えた現在も同社社員の能力開発をサポートするほか、健康管理センター事務長として活躍されていらっしゃいます。

50代は全力疾走。「定年」はあまり意識していなかった

―福田さんは1977年に富士電機株式会社のグループ会社に入社以来、2009年に人事部門に異動するまで30年以上にわたってフィールドエンジニア部門でキャリアを築いてこられたそうですね。

フィールドエンジニア部門というのは、国内外の各種プラントの建設現場に出張して試験調整を行い、お客さまに設備を引き渡す業務を行う部署です。入社後10年ほどは現場の試験担当者として各地を飛び回り、各プロジェクトに派遣する責任者・担当者の配置計画や管理業務を行う派遣担当を経て、1993年から管理職として管理業務に携わりました。

合併で転籍したメタウォーターの人事部門への異動を告げられたのは、統括部長職になって4年目。メタウォーターは設立に伴って社員の能力開発を担当するチームを立ち上げることになり、なぜか私に「担当してほしい」と白羽の矢が立ったんです。55歳の時でした。

―当時、どうお感じになりましたか?

ずっと工場の中に席があったのに、いきなり都心にある本社ビルでオフィス勤務でしょう?環境も違えば、業務スタイルも違う。おまけに未経験の人事部門をやるということで、最初はカルチャーショックの連続でしたね。

ただ、フィールドエンジニアリング部門でも派遣担当や管理職として社員の教育に携わってきたので、人を育てる仕事に携わることにはやりがいを感じていました。また、当時は新会社がスタートしたばかりで、あらゆる組織の根幹がまだ整っていなかった時期。どの社員もそれぞれの持ち場の仕事で手一杯の状況でしたから、キャリアを積み、会社にお世話になってきた立場として、与えられた役割に応えることで皆さんのお役に立ちたいという思いがありました。

―異動後はどのようなお仕事に取り組まれましたか?

現在のメタウォーターの研修はキャリアステージごとに行う「階層別研修」「指名型研修」と各部門で実施する「職種別専門研修」「職場別研修」の2本柱に加え、集合型研修や通信教育など豊富なプログラムの中から手挙げ式で受講できる「選択型研修」で構成されています。合併に伴う人事制度の構築に合わせ、異動後の2年間でキャリアステージ別研修と専門研修の基盤を作り、2011年からは「選択型研修」の導入・拡充に力を入れていきました。メタウォーターでは人事理念として「自己成長意欲のある人材を支援し、能力開発の機会を積極的に提供する」と掲げており、「選択型研修」は当社らしい能力開発のあり方だと感じています。

―当時は60歳での定年を控えた時期でしたが、定年後のキャリアについてはどのように考えていましたか?

毎日、いかに会社の能力開発体系を作り上げていくかということだけを考えていて、定年のことはあまり意識していませんでした。当社では定年の2年前から年に1回キャリア面談を実施しているのですが、人事部長から60歳以降も会社に残ってほしいというお話をいただき、管理職再雇用制度で65歳までは働くことに決めました。会社の過渡期でしたから、もう少し見守らせてもらおうかなという思いでした。


修羅場体験や、人と人との関係を築いてきた経験が人事の仕事にも活きた

―55歳でキャリアチェンジされて、最も大変だったことは?

福田 弘美さん新会社設立に伴う能力開発体系の構築ということで、前任者がおらず、イチから形を作っていかなければいけないのが大変でしたね。また、それまでも派遣担当や管理職として部門の人材教育には携わっていましたが、人事部門ではこれまで私が経験したことのない部門の教育も考えていかなければいけない。専門研修の内容や体系は、各部門から委員を集めて立ち上げられた能力開発委員会という組織の運営を通して、皆さんからいろいろ教わりながら作っていきました。富士電機の能力開発関連の部署に知り合いがいたので、アドバイスをもらったりもしましたね。

手探りのスタートで苦労がなかったと言えば嘘になりますが、同じ部署の仲間はもちろん、さまざまな人たちに助けられました。人事部長が私を信頼して自由にやらせてくれたのも、本当にありがたかったです。

―新たに与えられた役割を果たすために、過去のどんな経験が役立ちましたか?

全てが役立っていると思いますが、畑違いの仕事に異動してもなんとかやってこられたのは、フィールドエンジニアリング部門での修羅場体験のおかげかなと思っています。建設現場での仕事は不測の事態への対応が求められますし、1年中各地を飛び回って落ち着くことがなく、実は、若手時代には辞めたいと思ったこともあります。でも、入社4年目に沖縄に火力発電所を建設する大きなプロジェクトを担当し、失敗すれば全島停電になりかねないというプレッシャーの中、胃を痛めながら竣工にこぎつけたことから達成感と自己成長を実感。その後、業務への姿勢が変わりました。

また、人間関係の奥深さや大切さも学びました。若手時代、優秀で非常に厳しい先輩がいたんですね。仕事への責任感の強さの表れなのですが、当時の職場でみんなから敬遠されるほど厳しくて、私もその先輩と接する時にはいつも緊張していました。でも、避けたりはせずに一緒に仕事をしていたら、そのうちに失敗をカバーしてくれたり、その先輩が担当するプロジェクトに呼んでくださるように。先ほどお話しした入社4年目のプロジェクトもその先輩とともに担当しアドバイス(厳しい指導)をいただきながら危機を乗り越え完遂することができました。仕事というのは人と人との関係を築き、チームでやらなければできません。それを身を持って学んでいたことが、人事部門で能力開発、人材育成を考えるにあたって大きなベースになりました。

あとは、管理職や派遣担当として人材教育に向き合った経験ももちろん生きています。特に派遣担当時代はバブル期で人材が不足している中、各ブロジェクトのメンバーの配置や管理を通して、いかに人を育てるか、自分自身もかつては辞めたいと考えた業務をいかにやりがいを持って続け、経験を積んでもらうかを考えました。人事部門ではそうした現場での思いを形にしていく日々でしたから、充実感もありました。


"煙たい人"は頼ってもらえない。心がけてきたのは、経験を盾に取らないこと

―2018年に65歳の誕生日を迎えた後もご活躍されているようですね。

2017年に65歳以降70歳直前までの半年更新の雇用継続制度ができ、65歳になる半年ほど前に「65歳以降もこれまで通り勤務してほしい」と会社からお話しをいただきました。65歳以降は子会社のメタウォーターテックに転籍となりましたが、職場は65歳以前と同じで、業務内容もほぼ変わりません。ただ、能力開発関連の業務は60歳以降少しずつ後進に引き継いでおり、現在はサポート業務が多くなっています。一方、社員の健康管理、メンタルヘルスケアをサポートする健康管理センターを兼務し事務長を務めており、現在はそちらの業務の比重を意図的に高くしています。メンバーには言っていないのですが、能力開発関連の業務は後輩中心にやってもらうようにした方が自律が促されるかなと(笑)。

そうやって後輩たちが自律していきますとね、当然、私がタッチしない企画というのも出てきます。正直なところ、60歳を過ぎたばかりのころは、能力開発関連の業務については全部を自分が把握していないと気が済まないところもありました。肩書きは変わっても、みんな以前と変わらず相談に来てくれるので、知らないことがあるとアドバイスもしづらくて。でも、今は私の知らないことがあると、ほんの少しさみしい気持ちもありつつ、それだけみんなが成長してきたんだなあと喜びを感じています。

やはり、後輩たちの成長というのは一番うれしいですね。人事部門に移動してきたころに山林でのボランティア活動に参加して社内の人たちとの業務以外のつながりに楽しさを感じ、新入社員研修にも水源林を守る森林ボランティア活動を取り入れて今も続けているのですが、その第一期生が同じ部署にいてすっかり一人前になり、一緒に仕事をしているんです。新入社員研修の森林ボランティアには毎年私も付き添っているのですが、彼女の植えた桜の木は幹も太く、しっかりと育っていて。木の成長とともに人の成長も見ることができて、感慨深かったです。

―最後に、福田さんのように継続雇用後も充実したキャリアを歩むために大切なことは何でしょう?

私がこうして楽しく仕事ができているのは、周囲の皆さんが頼ってくださり、必要としてくださるから。やはり、頼られるというのはうれしいものです。私自身は特別なことをしてきたわけではないのですが、心がけていたのは、経験を盾に取らないこと。ミドルシニアは若手より長く生きている分、いろいろな経験があり、それを活かしたいという気持ちは誰しも持っていると思うんです。でも、いくら経験が豊富だからといっても最近の新しい機器やシステムの扱いは教えを乞う立場になります。「俺の方が先輩だ」という態度になってしまうと、煙たがられてしまいますよね。"煙たい人"は頼ってもらえなくなりますから、年齢を超えて楽しく働き続けるためには、経験を盾に取るのではなく経験のぶん、懐を深くしていくことが大切かなと思います。

プロフィール

メタウォーター株式会社
経営企画本部 人事総務企画室 人事企画部 担当部長

福田 弘美さん 1977年、富士電機株式会社のグループ会社入社。フィールドエンジニア部門で、国内外の各種プラントの建設現場で試験調整を行い、顧客に設備を受け渡す業務を担当。1989年より各プロジェクトに派遣する責任者・担当者の配置計画立案、管理業務などを担当。2006年、統括部長職を担当。2008年4月、日本ガイシ(機械)と富士電機(電気)の水環境部門の合併により機電一体型の会社として設立されたメタウォーター株式会社に転籍。2009年より人事部門に異動し、おもに能力開発を担当。

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