「役割創造project」とは、キャリア発達・キャリア開発とその支援という観点から、日本のミドル・シニア人材の「働き方改革」をライフワークスらしく実現していく取り組みです。

2017.12.11 支援者の取り組み

50歳以上のシニアが新たな生きがいをつかみとる場に。「立教セカンドステージ大学」の取り組み

50歳以上のシニアが新たな生きがいをつかみとる場に。「立教セカンドステージ大学」の取り組み

シニアが人生のセカンドステージにおいて「自由な市民」としての生き方を自らデザインする------このようなコンセプトを掲げ、50歳以上のシニアを対象に「学び直し」と「再チャレンンジ」をサポートする学びの場を立教大学が作っています。1年間の在学期間にゼミナールや修了論文も含めた18単位以上の修得を修了条件としている立教セカンドステージ大学。その取り組みについて、加藤睦副学長(文学部文学科教授)にうかがいました。

積み重ねてきた知識と経験を、これまでとは異なる視点からとらえ直す

---立教セカンドステージ大学は2018年で開講10周年をむかえられるとのこと。どのような経緯で設立されたのでしょうか?

当時は、ちょうど団塊の世代がリタイアする時期にあたりました。この世代の方たちは、従来の「ご老人」と呼ばれる方々のイメージにそぐわない、日本の高度経済成長を牽引し、リタイア後もまだまだ活力にあふれた方々。そのような方々には、蓄積してきた知識や経験をこれまでとは異なる視点からとらえ直し、あるいは、学び直すなどしてパワーアップした上で、新たな生きがいを見出し、再チャレンジしていきたいというニーズがあるだろうということを想定し、そのニーズにこたえることが立教大学として重要である、と判断したことから設立に至りました。

「立教大学として重要」というのは、本学が人間教育や教養教育を伝統としてきた大学であることを踏まえた考えです。学生が生きていく上で核となるものを育てるのが教養教育であり、それを、若者だけでなくシニア世代に対しても新たなカリキュラムとしてデザインし提供すべだと考えたわけですね。セカンドステージ大学の目的を、「人文学的教養の習得を基礎とした『学び直し』『再チャレンジ』『異世代共学』」としたのも、このような理由からです。教養科目とコミュニティデザイン・ビジネスに関する科目、第二の人生の過ごし方のヒントを得られるような科目、計3種類の科目群を用意し、ゼミナールへの参加と修了論文の執筆を必修として学んでいただくことで、積み重ねてきた知識や経験をこれまでとは異なる視点からとらえなおし、その成果を社会に還元する方法を見出していただきたいと考えました。

---対象年齢を50歳以上とされているのは、どのような理由からなのでしょうか?

女性を意識してのことですね。男性は退職後の方の受講を想定していましたが、女性の場合、子育てが一段落し、もう一度自分を見つめ直したいと考えるようになるのは50歳ごろからでしょうから、50歳以上を対象としています。

---「再チャレンジ」とは、どのようなチャレンジを意図されているのでしょうか?

我々が重点を置いているのは、社会貢献活動への参画です。セカンドステージ大学での学びや、本学で得た同期生・修了生とのつながりをもとに、社会のために自分の経験を生かす、あるいは、自分の空いた時間を社会への奉仕に活用していただくことを期待しています。

そのためのサポートとして、修了生が主体となって活発に行っている社会貢献活動や研究活動のグループを「社会貢献活動サポートセンター」という名称で組織化・可視化し、講義科目の中で現役の受講生に対して活動紹介を行う時間を設けたりしています。2017年6月時点で、17のグループが登録しています。


学ぶことへの意欲が強い人たちが集まる場に

---実際の受講生には、どのような方がいらっしゃいますか?

2017年度は、本科生91名、専攻科生53名が在籍しています。専攻科は、本科修了後にさらに勉学を続けたい方向けの1年間のプログラムです。本科生についてお話しすると、男女比は半々で、これは毎年ほとんど変わりません。平均年齢は男性が64歳、女性が61歳。最年少が51歳で、最年長が79歳ですね。仕事をなさっている人も25名いますが、常勤ではなく週1〜3日の勤務だったり、自営業だったりするようです。ボランティア活動をされている方も25名います。

---皆さん、どのような動機で応募・入学されていますか?

志望動機として最も多いのは、「学びたい」「勉強したい」ですね。「大学は経済学部だったけれど、今度は文学を学びたい」「企業で生きていく中でさまざまな知見を得たが狭い範囲のものでしかないので、世の中のことを広く、深く理解したい」「がむしゃらに仕事をしてきたが、それが世の中でどんな意味を持っていたのか考えてみたい」など、大きく分けると「今まで視野に入ってこなかったことについて広く学びたい」「学ぶことによって自分の生きてきた道をもう一度とらえ直したい」の2つに分かれます。「子育てあるいは介護を終えて、これまで得られなかった学びの機会をもちたい」という動機も含めニーズは多様ですが、基本的には「勉強が好き」という方々が志願してくださっている印象です。

それに続くのが、「これからの生き方を見つけたい」「いろんな人と出会いたい」「若いときに大学に行かなかったから行ってみたい」「居場所をつくりたい」などです。

---入学後の学びへの取り組み方などはいかがでしょうか?

皆さん非常に熱心に受講されています。講義で学ぶほかにゼミナールで個人の興味にもとづいて研究テーマを設定し、我々の指導を受けながら1万2000字の修了論文を仕上げるわけですが、熱意をもって取り組まれています。図書館をはじめ学内の施設も学部生・院生同様に利用できますが、特に図書館に対する満足度が高くて、学習意欲の強さや、楽しくて仕方ない様子が伝わってきます。

また、学部生向けに開講されている全学共通科目を一定の条件のもとに受講することができるのですが、学部生が教卓から離れて後ろへ後ろへと退くのに対して、セカンドステージ大学の受講生は前へ前へと進んで座っていらっしゃいますね。全学共通科目の受講を可能としているのは、セカンドステージ大学の目的の一つとして掲げている「異世代共学」を目指してのことですが、似たような価値観の者同士で集まって行動するように同調性が高い傾向が見られる学部生の中には、個々の関心や意欲で学びに邁進しているシニアを見て、大きな刺激を受けている者も多いと思います。


より多くの受講生を社会貢献活動に送り出すことが課題

---社会貢献活動への再チャレンジという点ではいかがですか? 実践されている事例などを教えてください。

過去9期にわたる修了生の中には、先ほど述べました社会貢献活動サポートセンターに登録している社会貢献活動グループや研究会に参加する方もいれば、個人で活動されている方もいらっしゃいます。社会貢献活動サポートセンター登録の研究会では、社会的課題をビジネス手法で解決する活動を行っている「ソーシャルビジネス研究会」や、さまざまな社会貢献活動団体とのコラボレーションを図り、社会貢献活動の実践やセミナーの企画などを行っている「コミュニティ活動研究会」などの活動が活発ですね。また、個人でも自宅を改装してカルチャーサロンを開設された方などがいらっしゃいます。

ただ、全員が全員そういった活動に取り組んでいるわけではなく、もともと受講生の中にも「社会貢献活動に興味がないわけではないけれど、さしあたりは大学に通いたい。勉強がしたいんだ」という方も相当数いらっしゃいます。また、セカンドステージ大学に行けば仲間もいるし、社会貢献活動の仕組みについても学べるけれど、地元に戻ると自分一人なので何かやっていこうとしても難しいとおっしゃる方もいらっしゃいます。

いずれにしても、我々ができることとしては、社会貢献活動サポートセンターの活動グループと受講生をつなげることですから、より多くの方が社会貢献活動に参画していけるような働きかけ方を考えていきたいと思います。

---そのほかに課題に感じてらっしゃることはありますか?

この10年で「シニア」のイメージが変化してきていることでしょうか。かつてはいわゆる団塊の世代をターゲットにしていましたが、その世代はもうかなり上の年齢層にいっています。今の60歳前後の方は、「ノンポリ世代」「三無主義」などと呼ばれた世代ですし、その下の50代は「新人類」「オタク」と呼ばれた世代です。となると、「リタイア後は社会貢献活動を」という我々のメッセージが簡単には響かなくなる可能性があります。だからといって「社会貢献活動を意識せず好きなことを学んでください」などと方針を変えるつもりはありませんが、これから入学する世代がどのような背景を持っていて、どんなことに関心があるのかということは注視し、我々が提供するものが独りよがりにならないようにしたいと思います。

また、このようにして世代によって関心が変わっていくこと自体を、研究対象にしていかなければならないとも思います。50代・60代を「アクティブ・シニア」と呼ぶことがありますが、「アクティブ」の意味も、世代によって変わってくるのではないでしょうか。この点をちゃんと研究して、その結果を社会に発信しながら自分たちの教育プログラムを鍛えていくころがこれからの課題になると思いますね。

何を身につけたいかを考えてプログラムを選ぶことが越境学習のポイント

---今後は、定年が65歳となる企業が増え、場合によっては70歳ごろまで現役で働く方も増えてくるのではないかと思います。そういった方々を意識した取り組みを検討される可能性はありますか?

rc_s_171208_02.jpg本学としては、本科と専攻科を合わせて150名程度という現状が受け入れ体制として限界ですし、これ以上の拡大は難しいと考えています。ただ、ある企業の側に自社の社員に身につけさせたい教養や知識について明確な方針があり、その方針にセカンドステージ大学の展開科目が適合するようであれば、その企業と相談したうえでプログラムを提供する余地があるかもしれないと思います。もちろん、今すぐにできるものではありませんが。ただ、このような要請や、越境学習のニーズに対しては、本学に限らずさまざまな大学が地域ごとにこたえるのが理想であるように思います。

---最後に、ミドル・シニアの越境学習やキャリア形成のポイントについて、アドバイスをお願いいたします。

働きながら学ぶ場合、セカンドステージ大学のように月曜から金曜の4時限(15:00〜16:30)、5時限(16:40〜18:10)に開講している学校形態のプログラム受講はヘビーだと思います。したがって、もう少し小ぶりなプログラムを用意している場を見つけていただくのが良いのではないでしょうか。また、先ほど申し上げたように企業としてミドル・シニア世代の社員への教育プログラムを近隣の大学と共同開発するといったやり方を模索することも有益かと思います。ミドル・シニア世代に対して教育を提供することは、多くの大学の生き残り策の一つとしてあると思いますし、関心を持つ大学があるのではないでしょうか。


取材を終えて

厚生労働省(2016)「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために懇談会 報告書」よると、2035年には働き方も変化し、働き手には「自立した個人が自律的に多様なスタイルで「働く」ことが求められ」、その実現のために「必要な能力開発や教育が、どの世代に対しても十分に行われ、社会貢献も含め、多様な自己実現の場が提供されること」の重要性が指摘されています(厚生労働省、p.8)。
このように、私たちの働き方が今後ますます多様になってくるとすれば、今回ご紹介した立教セカンドステージ大学様のような場の重要性も増してくるように思えます。例えば、定年後再雇用でパートタイム労働を続けながら、こういった学びの場で組織人としての棚卸しをしつつ組織の中で強みを発揮する。そして、組織人から社会へとつながる準備を進める。今回の取材で伺った話から、将来の私たちの働くことの在り方について可能性を感じることができました。私たちが、現在のステージから次のステージへキャリアをシフトしていくために、自分たちが「どう働きたいか」「いつまで働きたいか」をデザインするための場として、このような学び舎の門をたたいてみてはいかがでしょうか。

プロフィール

立教セカンドステージ大学50歳以上のシニアのための学びの場として、人文学的教養の修得を基礎とし、「学び直し」「再チャレンジ」「異世代共学」を目的に、2008年に立教大学池袋キャンパス内に設立された。修業年限は1年で、「エイジング社会の教養科目群」「コミュニティデザインとビジネス科目群」「セカンドステージ設計科目群」の3群からなる選択科目のほか、必修科目の「オムニバス講義」「ゼミナール・修了論文」をもって編成されたカリキュラムを18単位以上修得して修了できる。さらに勉学を続けたい修了生は、もう1年学べる専攻科も用意されている。
立教セカンドステージ大学のWEBサイトはこちら

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