「役割創造project」とは、キャリア発達・キャリア開発とその支援という観点から、日本のミドル・シニア人材の「働き方改革」をライフワークスらしく実現していく取り組みです。

2018.03.16 支援者の取り組み

"ノウハウ"よりも"自発的な気づき"を得られる場をー
「対話」が生まれる新しい学びの場「TIP*S」

 "ノウハウ"よりも"自発的な気づき"を得られる場をー「対話」が生まれる新しい学びの場「TIP*S」

「TIP*S(ティップス)」は独立行政法人中小企業基盤整備機構(通称「中小機構」)が運営する、中小企業の経営者や新しいビジネスの立ち上げを考える人たちなど「新たな一歩」を目指す人たちを応援する施設。年間200回以上のワークショップやイベントを実施し、中小企業で働く人たちだけでなく、大企業のオフィスワーカーや社会起業家、主婦、学生などさまざまな人たちが集っています。ノウハウや知識の提供よりも参加者同士の対話を重視した独自の取り組みについて、運営メンバーの岡田恵実さん(中小機構 TIP*S担当参事)にうかがいました。

漠然とした悩みを持つ方たちが新たな一歩を踏み出すきっかけを

---まずは「TIP*S」開設の経緯について教えていただけますか?

「中小機構」では、これまで多くの中小企業の経営課題の解決をお手伝いしてきました。その中で常々感じていたのが、企業が抱える課題は必ずしも明確ではないということ。「このままではいけないとわかっているけれど、何から手をつけていいのかわからない」「新しい事業のアイデアを探したい」といった漠然とした思いを持ちながら、「どこに」「どうやって」相談していいのかわからないというのが、多くの中小企業経営者が抱えるリアルな悩みです。

そういった悩みを解決するには、コンサルタントがアドバイスをしたり、セミナーや研修でノウハウやスキルを教えるといった、これまで私どもが提供してきた支援以外にも方法があるのではないかと考えました。そこで、「チャレンジしてみたいけれど、自分のやりたいことがまだはっきりしない」といった漠然とした悩みを持つ方たちが新たな一歩を踏み出すきっかけとなるような場を作れないかと考え、2014年10月に開設したのが「TIP*S」です。

---「TIP*S」には中小企業で働く人たち以外も参加できるのでしょうか?

中小企業や小規模事業者、起業に関心のある方のサポートを主な目的とした場ではありますが、ほとんどのプログラムで組織属性による参加制限は行っていません。多様な人たちとの対話によってこそ新しい気づきやつながりが生まれると考えているからです。ですから、参加者には大企業の社員の方も多いですし、起業を考える学生さんや主婦の方もいますよ。中心年齢層は30代から50代ですが、70代の方もいれば、高校生もいます。勤務先の業種もさまざまで、本当にいろいろな方が来てくださっています。


「潜在層」が行動変容を起こすために大事なのは、"自発的な気づき"

---「TIP*S」のプログラムの特徴をおしえていただけますか?

一番の特徴は対話型のプログラムに絞っている点でしょうか。テーマは「創業」「社会課題」「地方創生」などさまざまですが、どのプログラムもひとつのテーマを20〜30人で対話しながら進める形式です。

---対話型のプログラムに特化した理由は?

「TIP*S」のターゲットは何となくやりたいことはあるけれど、具体的なアクションにはまだつながっていない「潜在層」。企業に勤務するミドルシニア社員で言えば、「役職定年などの環境変化もあってこのままではいけないという危機感や何かやりたい想いはあるけれど、何をすればいいのかわからない」といった思いを持つ方々です。彼らの多くは会社から与えられた仕事をきちんとやる力は培っているものの、自分で自分のやりたいことや課題を見つける経験を重ねてきていない傾向にあります。しかし、「潜在層」が行動変容を起こすために大事なのは、"自発的な気づき"を得ること。これまで自分で動いていなかった方たちが、自分の心の中に変化や刺激を受けて少しずつ意識が変わり、行動が変われば、その方は自分の足で立てるようになります。この"自発的な気づき"を得るために、対話型のプログラムが最も有効だと考えました。

講義やセミナーといった座学では講師の教えるノウハウや知識を学ぶことはできても広がりに限界がありますが、対話型の場合、参加者同士の学び合いによって思いもよらない気づきを得られる可能性があります。同じテーマについて多様な人たちと語り合い、異なる価値観に触れることで刺激を受けたり、自分の考えを言葉にすることであらためて自分自身の価値観に気づくといったことも多いようです。


運営サイドが背中を押すのではなく、参加者同士が背中を押し合う

---対話や交流がスムーズになるよう、運営サイドで工夫されていることはありますか?

背中を押さないことです。ちょっとした声がけをしたりはしますが、講師や私たちは見守り役に徹し、みなさんの自発性を損なわないよう気をつけています。意外とみなさん、私たちが何もしなくても勝手にしゃべってくれるんですよ(笑)。最初は遠慮がちでも、誰かが自然と話を切り出して、いつの間にか「そのアイデア、いいですね」「向いていそうだから、やってみたらいいじゃないですか」と参加者同士で背中を押し合っていたりします。

一方、仕切りのないオープンな空間設計にしたり、場のコンセプトを運営メンバーでしっかりと共有したり、ハード・ソフト両面での「仕込み」はそれなりにやりました。ところで、このコンセプトというのが「スナック風」だったりしまして。

---「スナック風」とおっしゃると?

スナックって、別に寄らなくてもいいのに、帰り道についつい寄ってしまうような場所じゃないですか。そこでママにちょっと愚痴をこぼしたり、居合わせた人と話し込んでしまったり。特別なことが何かあるわけじゃないけれど、翌朝、なぜかちょっと元気になっていたりする。私たちが目指してきたのも、肩肘を張らずに誰かと出会え、対話が生まれるような場なんです。


年間200回以上の多種多様なイベントやワークショップを開催

---「TIP*S」で開催されるイベントやワークショップは年間200以上もあるとか。

どんな人でも自分が興味や関心を持てるプログラムを見つけられるよう、多種多様なイベントやワークショップを用意しています。ほとんどのプログラムが単発なので、いくつかお試し感覚で参加して、「自分に合いそうなのはこういう分野かもしれないな」「自分がやりたかったのは、こういうことなのかもしれない」と発見していく方も多いですね。

---ミドル・シニア層のオフィスワーカーに人気のプログラムはありますか?

ある程度の規模の企業に勤務されている場合は、「これまで会社でキャリアを重ねてきたけれど、定年後も見据え、何か社外での活動もやってみたい」という方も多いので、教育、介護、少子化といった社会問題や、地域活性化など「ライフキャリア」の視点から気になるテーマを選ばれる方が多いですね。また、話題の書籍を取り上げる「読書会」も気軽に参加しやすく人気です。

そのほかに、年齢を問わず初めての方に人気なのが「マイプロジェクト道場」。「TIP*S」唯一の連続講座(全5回)で、日々の生活や仕事の中で感じるちょっとした疑問や問題意識を参加者が持ち寄り、みんなで解決策を探りながら、自分らしく取り組めるプロジェクトを見つけていく講座です。


参加者が自分で自分のスイッチを入れられるようにするのがゴール

---ここで学び合うことで、新たな一歩を踏み出した方の例を教えていただけますか?

rc_s_180301_04.jpgワークショップのアウトプットをもとに新しい販促物を開発したという方もいれば、もともと介護に問題意識を持っており、参加者どうしの対話からソリューションを見つけて開業をされたという方もいます。ただし、私たちは「TIP*S」の目的を「事業ありき」では考えていません。一人ひとりの「人」にフォーカスし、個人のポテンシャルを上げて、それぞれが自分で自分のスイッチを入れられるようにすることをゴールにしています。ノウハウや知識をダイレクトに提供するツールはあえて用意していないので、ここをきっかけに漠然とした「思い」や「やりたいこと」をクリアにし、別の場で具体的な形にしていくというプロセスを歩む人が多いですね。初めてここに来た時は遠慮がちだった方が、少しずつに元気になって、次のステップに進む姿を見るのは本当にうれしいです。

---今後の力を入れていきたいことはありますか?

2017年度には広島県・廿日市市や山口県・下関市など5カ所で対話型の連続ワークショップを実施しました。「TIP*S 」は4年目を迎え、ある程度の成果も出てきましたが、「中小機構」の役割を踏まえると、ここだけで盛り上がっていて満足するわけにはいきません。自治体などと連携して「TIP*S 」で培ったメソッドを少しずつ地域に広げていきたい。自分で自分の役割を作っていける人が増えることが、日本を元気にするきっかけになると思っています。

プロフィール

TIP*S(ティップス)独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する、新しい行動(アクション)を起こしたいと考えている人のための新しい学びと実践の場。平日の夜間を中心に、年間200回を越えるワークショップや講座を提供している。「地域」「社会課題」「アイデア創出」など、参加者が自分の関心とつなげやすい様々なテーマで多様な立場の参加者同士が対話を行うことにより、自ら決断し、新たな行動(アクション)につなげる人を増やすことを目指している。2016年度の参加者はのべ約6500名。
TIP*SのWEBサイトはこちら

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