「役割創造project」とは、キャリア発達・キャリア開発とその支援という観点から、日本のミドル・シニア人材の「働き方改革」をライフワークスらしく実現していく取り組みです。

2018.03.22 企業の取り組み

研修制度と評価・処遇制度の見直しにより、 シニア社員の「覚悟」と「働きがい」を引き出す

研修制度と評価・処遇制度の見直しにより、 シニア社員の「覚悟」と「働きがい」を引き出す

65歳までの雇用が義務化され、60歳以降の社員の就業率が高くなる中、シニア社員に対して新たな役割や期待を明示できず、組織全体の大きな課題となっている企業も多いのではないでしょうか。企業はシニアの活躍支援をどう捉え、どのような取り組みが有効なのか。60歳代以降のキャリアを考える「57歳研修」の新設、高年齢者再雇用関連諸制度の改定・実施など、社員が年齢を超えて意欲的に働き続けるための取り組みを積極的に進める積水化学工業株式会社にお話をうかがいました。

再雇用希望者が増加し、大きな戦力として活躍してもらう仕組みが必要に

---御社では、1993年から定年後の再雇用制度を導入し、2006年にはグループ各社への展開を進めるなどシニア社員の活躍推進に早くから取り組んでこられましたね?

吉田さん: 背景には、当社の人材に対する基本的な姿勢があります。「従業員は社会からお預かりした財産である」という考え方のもと、年代を問わず、「人を活かし、人を伸ばす」ための人事施策に力を入れてきました。60歳以降も嘱託として働ける再雇用制度を25年前に導入したのも、その一環です。法律で「55歳定年制」が禁止(1998年施行)される以前のことですから、当時としては先進的だったかもしれません。ただ、当初は特殊技能を持つために会社側が再雇用を望む、ごく限られた人たちが対象で、希望者も少数でした。

その後、社会の高齢化に伴う国の政策に伴って、当社の再雇用制度もリニューアルを重ね、2007年には一定の条件を満たす希望者を対象に65歳まで再雇用する制度をスタートしました。しかし、定年を迎える社員そのものがさほど多くなかったこともあり、当初の希望者は多くありませんでした。

---現在はどのような状況ですか?

唯根さん: 当社の2016年度の定年退職者は78名。うち再雇用された社員は65名*で再雇用率は約83.3パーセントでした。定年を迎える社員が増えたことに加え、厚生年金の支給開始年齢の引き上げもあって再雇用希望者が増加し、大きな戦力として活躍してもらう仕組みが必要になってきました。また、現在組織の中で中核を担う団塊ジュニア世代が10年後には大量に定年を迎えることが見込まれており、この観点からもシニア社員が活躍できる環境の整備は重要だと捉えています。

*積水化学工業単体での数。


節目年齢ごとに、60歳以降も見据えたキャリアプラン研修を実施

---年金支給開始年齢の引き上げに伴って再雇用の道を選んだものの、環境変化に戸惑い、仕事への意欲を維持できない社員へのサポートが多くの企業で課題になっています。社員が再雇用後も活躍し続けるためには何が重要だとお考えになっていますか?

吉田さん: 年齢を問わず、社員が活躍するには「自分のキャリアを自分で作る」という意識が必要だと考えています。かつて多くの企業がそうであったように、当社でも社員のキャリア開発が会社主導で行われるところがありました。人事施策も手厚く、社員が依存的になる傾向も強かったのが事実です。社員のキャリア開発に対する考え方を転換したのは、2000年初頭の経営改革がきっかけ。成果主義の導入に伴って人事施策も社員の自律性を引き出すものへと見直しがはかられ、研修制度も刷新されました。

この時にスタートしたのが、30歳、40歳、50歳の節目に自分自身の志向や持ち味と向かい合い、今後のキャリアについて考える「年代別キャリアプラン研修」です。年代に応じて研修テーマを設定しており、30歳は「自己確立」、40歳は「市場価値」、50歳は「生涯現役」を考えてもらう機会としています。

---若いうちから自分のキャリアを意識する機会を定期的に提供し、自律的なキャリア形成意識を養うことで、シニア期のキャリアビジョンも描きやすくなりそうですね。

吉田さん: シニア社員が活躍するには、準備期である50代後半までに自分のキャリアを棚卸し、60歳以降に自分が何のために働き、どう会社に貢献できるかを考えておくことが重要になります。60歳でいきなり「自分のキャリアは自分で考えてください」と言われても戸惑いますから、キャリアの節目ごとに機会を設けることの意義は大きいと実感しています。

ただ、50歳の時点で15年後の65歳までのキャリアプランを考えるのは実感が伴わず、やはり難しいものです。59歳になって定年後の希望を聞かれ、「会社が声をかけてくれたから」「ほかに何をしていいのかわからず、とりあえず」といった理由で再雇用の道を選ぶ社員もいるのが実情でした。しかし、受け身の姿勢では60歳以降の活躍は厳しくなります。当社の社員には年齢を問わず、「働きがい」を持ち、「◯◯のために自分はここで働く」という「覚悟」を持って充実した職業生活を送ってほしい。そんな思いから、2013年からは57歳の社員を対象に、「覚悟と働きがい」をテーマとしたキャリアプラン研修を新設しました。研修後は今後のキャリアプランを言語化し、周囲と共有することで実現性を高めることを目的に上司との面談を実施。さらに、59歳時点で社外の専門家によるキャリアカウンセリングを受けて自らの考えを整理した後に上司と面談し、定年退職後の進路を決定する「59歳面談」も行っています。


「働きがい」と「覚悟」を促すために、成果に基づく評価と処遇を徹底

---現在の再雇用制度「シニアエキスパート制度」の内容について教えていただけますか?

唯根さん: 再雇用の要件は「働く意欲」と「業務遂行可能な健康状態であること」とし、勤務時間7.5時間、週5日のフルタイム勤務とサムタイム勤務(週4日もしくは3日勤務。5時間の短時間勤務の設定もある)があります。可能な限り再雇用前と同等以上に活躍してもらいたいという会社からの期待の表れとして、フルタイム勤務を基本としています。ただし、当社は社員一人ひとりの「仕事・生活両面における志向」や持ち味が異なることを理解し、認め、積極的に生かす「ダイバーシティ経営」を重要な事業戦略としており、多様な働き方に対応することも大切だと考えています。今後シニア社員が力を発揮できる業務の開発が進み、サムタイムでも支障のない業務が増えれば、原則を変更することも視野に入れています。

rc_c_180201_02.jpgまた、「シニアエキスパート制度」の大きな特徴は、「働きがい」と仕事への「覚悟」を促すために、シニア社員に求める役割を明確化し、成果に基づく評価と処遇を徹底すること。当社の再雇用制度は2007年の改定時から報酬に成果・専門性を反映させていますが、人事評価はシニア社員にゆるやかに働いてもらうことを前提としたものでした。希望者全員の再雇用をスタートした2013年の制度改定時から評価要素を強め、2015年からスタートした「シニアエキスパート制度」では半期ごとに絶対評価にて評価を実施。評価項目は業績評価(具体的な形となって現れた成果について、結果とプロセスから評価)、能力評価(保有する業務遂行能力の発揮についての評価)から構成され、再雇用前と同様に本人と上司による目標設定面談、中間・期末のフィードバック面談により評定を決定しています。また、半期評定によるインセンティブ報酬を退職金として積み立てる仕組みも採用しています。


「自分が貢献できることはまだまだある」と考えるシニア社員が増えてきた

---最近のシニア社員の姿勢に変化はありますか?

吉田さん: 「65歳まではみんな働くんだよね」という意識を持った人が急速に増えています。年金受給開始年齢の引き上げの影響ももちろんありますが、「59歳面談」での社員の話を聞くと、それだけではないようです。当社では以前に比べて「年齢に関係なく、元気な限り働きたい」と60歳以降のキャリアに意欲的な人が多く、「自分が貢献できることはまだまだある」と考えるシニア社員が増えていると感じています。

唯根さん: 自発的に「自分はこういう役割を担いたい」と表明するシニア社員が出てきているのもうれしいです。例えば、最近では担当業務とは別に、自ら志願して「キャリアプラン研修」の講師を務めてくれているシニア社員が数名います。また、60歳を超えてもなお「息の長いテーマを担当し、継続していきたい」と意欲を燃やす人事部のシニア社員も身近におり、「負けてはいられない」と刺激を受けたりしています(笑)。


シニア社員の活躍推進をグループ企業にも浸透させていきたい

---シニアの活躍推進について、今後の課題は?

吉田さん: rc_c_180201_03.jpg当社が60歳以降の社員に求めている役割は、これまで培ってきた経験や能力をそれぞれの立場・業務・職場に合わせて柔軟に発揮し、組織目標の達成に貢献すること。また、豊富な経験を活かし、組織に新たな価値を創造することも期待しています。そのためのパフォーマンスの発揮しやすさを考慮し、現在は長く携わった業務に再雇用後も携わるケースが多いのですが、今後は再雇用者の増加に伴い、シニアの力を活かせる新たな業務の開発や計画的な配置もより必要になってくると考えています。

---シニアが活躍しやすい業務の開発について、具体的な動きはありますか?

唯根さん: 先ほども話に出ましたが、後進育成の一環として社内講師が一例でしょうか。当社では現在40歳時と50歳時の「キャリアプラン研修」において講師の内製化を少しずつ進めており、「50歳時研修」の講師にはシニア社員が適任と考えています。講師内製化の準備として社内勉強会を開いたり、産業カウンセラーなどの資格取得の奨励といったことは以前から行っていましたが、学んだ知識やスキルをキャリアにどう生かすかは個人に委ねていました。今後は希望者の中からシニア社員に講師を務めてもらうなど、よりキャリアパスを確立しやすい仕組みを作ることも視野に入れています。

シニア社員の多くは「積み上げてきたものを後に引き継いでいきたい」と考えており、専門的な技術や知識だけでなく「思い」も受け取ってほしいという気持ちがあると感じています。研修講師はまさにそれを実現できる業務ですが、シニア社員が「思い」を伝えていくような場づくりも意識しています。

---30歳、40歳、50歳時の「キャリアプラン研修」は2016年からグループ会社でも展開しているそうですね。

吉田さん: はい。これまではグループ各社で再雇用制度が異なっていたことから「57歳研修」は積水化学単体で実施していましたが、グループ各社での再雇用の状況に合わせ、2018年度からグループ展開していく予定です。また、グループ各社における再雇用制度のブラッシュアップもこれからの課題です。グループ各社はそれぞれ特性があり、独立性も高いので、単純に同じ制度にすればいいとも言えません。しかし、積水化学単体での「キャリアプラン研修」も15年の歴史を経て積み重ねの効果を実感しています。粘り強い取り組みでシニア社員の活躍をグループ全体に浸透させ、グループの人材力強化につなげていきたいと考えています。


取材にご協力いただいた方

積水化学工業株式会社 人事部 人材開発グループ長 吉田 篤さん
同 人材開発担当係長 唯根 亮さん

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