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株式会社三越伊勢丹ホールディングスの朝活・夜活「SNACK」―社員の主体的な学びを促す新たな学びのプラットフォーム

2016年2月から三越伊勢丹グループで実施している朝活・夕活「SNACK(スナック)」。「Skill(技術)」「Network(ネットワーク)」「Attitude(姿勢・振る舞い)」「Communication(コミュニケーション)」「Knowledge(知識)」を社員が共有するための、学び合いの場です。このユニークな取り組みがなぜ始まり、どのような仕掛けによって社員にどんな変化が起きているのか。「SNACK」の運営を担当する人事部 マネージャー 塚谷一貴さんにお話をうかがいました。

2018.10.22
企業事例

社員が業務関連知識を学ぶだけでなく、「個」として成長できる場を

「SNACK」とはどのような活動なのでしょうか。

朝活・夜活「SNACK」 ロゴマーク始業前や終業後の時間を利用して、任意参加で社員が学び合う場です。社員が講師を務める企画が多いのですが、社員が業務やプライベートを通じて知りあった社外の方を講師としてお招きする企画もあり、いずれも好評です。内容は朝ヨガ・夜ヨガ、アドラー心理学、ワイン、エクセル勉強会などさまざま。伊勢丹新宿本店を中心に三越日本橋本店や伊勢丹相模原店でも開催し、社員はもちろん、お取組先の方々も参加しています。2016年2月にスタートし、2016年度は69回開催してのべ約1800人が参加。2017年度は119回開催し、のべ約2400人が参加しました。

御社が「SNACK」を始めた経緯は?

「こんな場があったらいいね」という当時の人事部の社員たちの声がきっかけでした。当社には社員がお互いに学び合う風土があり、たとえばバイヤーが新商品についてスタイリスト(販売員)にレクチャーしたり、お取組先のメーカーの方から商品知識を学ぶといった勉強会のようなものは就業時間外に社員主体でよく開かれていました。店舗ごとに行われていたそうした活動を全社的に実施すれば、スケールメリットを生かして何か面白いことが起きるんじゃないか。そのためのプラットフォームを人事で作ろうということになったわけです。

「勉強会」の規模を広げるのではなく、さまざまなテーマの企画に社員が個人の興味や関心に応じて参加できる「朝活」「夜活」を始めたのはどうしてでしょうか。

「朝活・夜活って何か楽しそうだよね」という気軽な感じで始まったというのが正直なところです(笑)。ただ、当時「一人ひとりの持てる力を最大限に活かす」という人事ビジョンを掲げており、プラットフォームを構築していくにあたって、このビジョンがベースになっていたことは確かです。

お客さまが多様化する中、百貨店にはこれまでにないサービスを提供することが求められています。イノベーションの創出には社内のナレッジを集積し、ボトムアップのムーブメントを起こすことが必要であり、社員が業務関連知識を学ぶだけでなく、「個」として成長できる場を作りたいという思いがありました。

活発な活動の秘訣は、一つひとつの企画に意義や効果を求め過ぎないこと

企画のラインナップを拝見すると、内容が多様で、まるでカルチャースクールのようです。運営はどのようにされているのですか?

運営事務局のメンバーは3人で、人事部の業務と兼務しています。仕事は大きく3つで、「社員から提案された企画のチェック」、「企画の周知・予約システムの準備」、「当日のサポート」。それ以外のことはなるべく企画に関わる社員たちにやってもらっています。繰り返し開催している企画の場合は講師や参加者が当日の段取りを把握しており、事務局のサポートが必要ないケースも増えてきて助かっています。また、企画については事務局メンバーが社内外の方々に声をかけて始まったものもありますが、全体の約8割が社員の発案によるものです。

運営にあたって、配慮されていることは?

「SNACK」の様子「SNACK」は社員がプライベートの時間を使って参加する活動ですから、一つひとつの企画に人財教育上の意義や効果を求めないようにしています。例えば、「苔のテラリウムワークショップ」や「誰でもできる手品講座」といった日々の暮らしにちょっとした楽しみを与えてくれるような企画もとても人気なのですが、「意義は?」と問われると、答えづらいですよね。社員が「これをやりたい」と持ってきてくれた案に口出しし過ぎると、みんな手を挙げにくくなるし、企画の内容も「プレゼンスキル」や「ロジカルシンキング」といった通常の社内研修で実施するものと変わらないものになってしまう。だから、企画の意義を問うことはやめて、自由にやりましょうと。そのかわり、講師はボランティアでお願いし、会社の予算は基本的にかけないということでやっています。

企画を持ち込みやすい環境づくりが、活発な活動につながっているのですね。

ただ、企画の提案をしてくれた社員には「基本的にやりたいことをやってほしい」と話した上で、ひとつだけ確認していることがあります。それは、企画を実施することによって「参加者に持って帰ってもらいたいのは何か」「何をプレゼントするのか」。自分の持っている技術や知識、姿勢といったものをみんなと共有することが「SNACK」の目的であり、自分の活動の宣伝だけで終わることのないようにということは意識してもらうようにしています。

最も大きな成長が見られるのは、「この企画をやりたい」と手を挙げた人

「SNACK」の取り組みは3年目に入り、参加者も増え続けているとか。「SNACK」を続けることによって、社員に何か変化はありましたか?

スタート当初は接客に役立つ知識や考え方を学ぶ企画が多かったこともあり、それまで社内教育制度が十分に行き渡っていなかったフェロー社員(時給制契約社員)から、「学ぶ機会ができてうれしい」と反響がありました。フェロー社員には継続して参加する人も多く、「学びたい」という意欲を持っている社員がこんなにいるんだと気づかされました。

意外だったのが、講師を務めた社員からの「すごく勉強になった」という声です。教わる人にとっては1時間の企画でも、教える側はその何倍もの時間をかけて準備をしますから、その過程でたくさんのことを学ぶんですね。ですから、「SNACK」に参加することによって最も大きな成長が見られるのは「この企画をやりたい」と手を挙げた人。人事としてこれは重要な発見でした。

株式会社三越伊勢丹ホールディングス 人事部人事ディビジョン マネージャー 塚谷 一貴 さんもうひとつ、「SNACK」を実施してみて初めて実感したのが、年齢や職場、雇用形態などバックグラウンドが異なる人たちと同じ場で学ぶ機会の大切さです。一般に研修やセミナーといった人事部が提供する教育プログラムは同じ属性の人たちだけが集まるものとなりがちですが、例えば伊勢丹相模原店の「SNACK」では婦人服の販売スタッフの20代女性の隣に防災センター(店内)で働く30代男性が座り、その前の席にはテナントの飲食店店長の50代男性がいたりします。「社内に顔見知りが増えた」と喜ぶ社員が多いですし、グループワークなどを通してさまざまな立場の人たちの考え方を知り、「視野が広がった」という声もよく聞きます。

異業種交流会やコラボ講座など他社との連携も生まれている

「SNACK」の今後の展開についてお聞かせください。

これまで以上にさまざまな属性の人たちが参加出来る場になるよう、仕組みを整えられないかと考えています。現在もお取組先の方々やテナント店舗の方々など当社の社員以外の人たちが「SNACK」に参加することは歓迎していますが、システムやセキュリティの関係で、当社の社員に依頼しなければ参加登録ができず、気軽には参加しにくいところがあります。障壁となっている問題をどう解決すれば、いろいろな人たちが参加しやすく、多様な価値観に触れる場が作れるのか。そこに挑戦したいです。

また、最近は「朝活」や「夜活」を実施している企業や、人事部の業務を通して知り合った企業に声をかけて異業種交流会やコラボ講座を開催するなど他社との連携も生まれています。先日はあるハウスメーカーさんの「夜活」に事務局メンバーを含めた社員数人で参加させてもらいました。企業間でつながることで、「SNACK」の可能性をより広げたいと考えています。

社員の力を信じ、任せるべきところは任せる

最後に、「SNACK」のように任意参加で、社員が主体的に学び合う場を運営していくためには何が大切だと思われますか?

株式会社三越伊勢丹ホールディングス 人事部人事ディビジョン マネージャー 塚谷 一貴 さん「頭でっかち」にならないことではないでしょうか。取り組みそのものの目的は何か、軸となるものを考えることは大事ですが、先ほど申し上げたように一つひとつの企画の内容を吟味していると、形になるまでにものすごく時間がかかってしまう。「さらに、立案書をきちんと書き、企画を実施する当日には部長にも挨拶してもらわなければ...」と段取りにこだわって運営していたら、実施できる企画は年に数回程度かもしれません。やってみて初めて価値がわかる企画も多いので、もっとライトな感覚で、まずは形にしてみることが大切だと思います。

ただ、組織の中で何かをやる時にあいまいさや、意義を問い過ぎないというのは簡単なことではないですよね。そういう意味では、「SNACK」の場合、人事部長の理解があったことは大きかったと思います。「SNACK」の運営については事務局メンバーに裁量権が与えられ、それぞれの企画の報告書や効果測定といったことは求められませんでした。だから、私たちも企画を持ち込んでくれる社員に「自由にやってください」と言うことができたのです。

「SNACK」の活動は業務とは異なり、参加したからといって評価に反映されるわけではありません。それでも、「またやりたい」と繰り返し企画に関わってくれる社員がいるのは、自ら考えたことを自ら実現する楽しさがあるからこそです。そして、能動的に関わるからこそ、多くのことを学べたり、思わぬ力が発揮できたりします。「SNACK」のような場を活性化するためのキモは社員の力を信じ、任せるべきことは任せることだと思います。

お話を伺った方:
株式会社三越伊勢丹ホールディングス
人事部人事ディビジョン マネージャー
塚谷 一貴 さん

2003年株式会社伊勢丹入社(現株式会社三越伊勢丹ホールディングス)。ベビー子供用品、食品領域を経て、人事部マネージャーとして人事制度・教育の企画に携わる。2015年4月より現職。

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