キャリア開発とは?意味や企業にとって必要な理由、推進方法を解説
キャリア開発とは、企業が経営理念や人事戦略などに基いて、社員の育成(能力や職務の開発)やキャリア自律の促進を、中長期的な計画に基づいて行うこと。このコラムでは、企業がキャリア開発を推進する必要がある理由、キャリア開発推進のための方法や実行のためのステップについて紹介します。また、キャリア開発に関連する事例等を通して、企業が社員のキャリア開発支援を進めるためのヒントをお伝えします。

キャリア開発とは
キャリア開発(Career Development:キャリア・ディベロップメント)とは、企業が経営理念や人事戦略などに基いて、社員の育成(能力や職務の開発)やキャリア自律の促進を、中長期的な計画に基づいて行うこと。社員個人としては、多様な人、役割、出来事との関わりの中、目的や意図をもって主体的にキャリア形成を進めることともいえます。
私たちは、日ごろの生活の中で仕事、家族、コミュニティ等の様々な役割を担うことを通してキャリアを形成すると考えられています。あるいは、学びの機会や仕事の中で出会う機会と一人ひとりが目指している目標が、互いに影響し合うことでキャリア形成が進むとも考えられています。
例えば、仕事で新しい役割を任されたことがきっかけで、新しいスキルを学びに学校に通い、その結果として成果をあげ、また次の目標を見つける、というような具合です。いずれにしても、このように自らが主体的にキャリア形成することによって、キャリア自律が進むとも考えられています。
しかも、全米キャリア開発協会(National Career Development Association)の定義によれば、キャリア開発は生涯にわたり続いていくものだとされています。
企業にとってキャリア開発が必要な理由、意義、意味
企業がキャリア開発を行うことは、社員のモチベーションアップやエンゲージメントの向上、そして社員と企業の成長につながるなどと考えられています。
例えば、企業が社員の役割や期待を明確にし、任せ、育成し、適切なフィードバックを行うようなキャリア開発のプロセスによって、社員は期待されていることを感じるようになり、モチベーションが向上します。あるいは、企業の理念を自分事ととらえるような意識を醸成するキャリア開発のプロセスによって、社員の中に企業と歩んでいくための信頼や共感が生まれ、社員のエンゲージメントが高まることが期待されます。
このような結果、「仕事を作り上げていくチームの活性化」や「組織全体の活性化」につながり、企業全体の生産性が向上したり、社員個人の成長とともに企業の持続的な成長が実現するといったことがキャリア開発には期待されます。
さらには、活性化された組織の力は、社内だけではなく、社外の人を惹きつける魅力となり、優秀な人材の獲得につながることも期待されます。
企業が競争力を持ち、急激に変化する環境への対応が必要な中、限られた人的資源の活用は重要なテーマとなっています。企業がキャリア開発に取り組む必要がある理由、意義や意味は、キャリア開発によってこのような直接的、間接的な効果が期待されることにあるといえます。
企業が社員のキャリア開発を推進する方法
以上のようなキャリア開発を、企業の文脈で捉える場合、「そこに属する人材(社員、従業員)の育成(能力や職務の開発)やキャリア自律の促進を、中長期的な計画に基づいて行うこと」ということもできます。そして、計画を実現するために構築されるプログラムがCDP(Career Development Program:キャリア・ディベロップメント・プログラム)です。
CDPには、具体的には次のような方法が挙げられます。
- ジョブローテーション
- 自己申告制度
- 社内公募制度
- 社内FA制度
- キャリア面談
- キャリア開発研修(キャリア研修)やワークショップ
- キャリア・カウンセリング など
キャリア開発は、こういったものの組み合わせによって作られまが、最近では、対面型で行うほかに、WEB会議システムを使い、オンラインでキャリア研修を行う企業も増えてきています。
社員の一人ひとりが主体的に将来の目標を定め、そこに向かう道筋を描くことを「キャリア・デザイン」と呼ぶならば、CDPはそれを企業目線で束ね上げたものだと捉えることもできます。ただし、キャリア開発の本来の意味には、「企業と社員(個人)に互いに意義のあるような個人のキャリア形成が行われること」が含まれます。したがって、企業の成長だけではなく、企業も個人も成長することができるような人材育成計画としてCDPをつくることが肝心だということになります。
それでは、どのようにすれば企業は社員のキャリア開発支援を行えばよいのでしょうか。
キャリア研修の概要、企画の仕方、実施から評価まで詳しくご覧になりたい方はこちらのコラムも参考にしてください。
オンライン研修とはどのようなものなのか。キャリア研修をオンラインで実施するにはどうしたらよいのか。お考えの方はこちらのコラムも参考にしてください。
オンライン・キャリア研修体験会 参加者アンケート結果
オンラインでのキャリア研修の体験会を開催しました。参加いただいた方へのアンケートの結果の一部を公開しています。参加して参考になったことやオンラインでのキャリア研修に対する期待の度合いの変化などについて、ご関心のある方は参考にしてください。アンケート結果はこちらから
企業が社員のキャリア開発支援を進める2ステップ
STEP1:キャリアの課題と障害を把握
私たちは働く中で様々なキャリアの課題に直面するといわれており、まずはそれを把握することがキャリア開発支援の出発点になるといえます。
わかりやすく考えるために課題を分類すると、概ね次のようになります。
年代の課題 | 30代、40代、50代といった年代に特有のキャリアの課題 |
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転機の課題 | 異動、育児休暇や復職、役職定年、定年再雇用等のキャリアの転機に関わる課題 |
関係性の課題 | 上司と部下、チーム等の職場の構成員同士の関係性の中で生まれる課題 |
例えば、自社の社員のキャリアの課題を年代別に整理したい場合などは、年代ごとの課題として考えられることを整理してワークシートなどに書き出し、現在採用している施策と今後対応していく施策を書き出して整理していくとよいでしょう。
また、自社のキャリアの課題を把握するためには、例えば、アンケートやインタビューで状況を確認する、あるいは人事部門の関係者が課題の整理のためのワークショップを行うという方法等があります。「50代の社員に元気がない」、「制定した制度がなかなか活用されていない」、「育休明けの社員がなかなか職場復帰しない」等のように様々な事象が見られたときに、「その理由」を探ってみることで、どういったことがキャリアの妨げになっているのかを把握できるかもしれません。
世代別のキャリアの課題と、課題解決の方向性を理解し、自社の状況に合わせて今後の施策案を整理していく際にお使いいただけるシートを公開しています。シートはこちらからダウンロードしてください。
自社の社員の状況を把握する方法の一つとして従業員に対するアンケートがあります。実際にアンケートを作る際の参考資料としてサンプルをご紹介しています。サンプルはこちらからダウンロードしてください。
多数の従業員と多様な職種を抱えた組織であるために、65歳定年制や社員のキャリア自律意識醸成のための施策の検討に困難をきたしていた企業が、ワークショップによって課題の洗い出しと整理に取り組んだ事例です。
STEP2:キャリア開発の方法の検討
女性社員あるいは20代~30代の社員の中には「管理職になりたくない」と考える人が少なくはないそうです。そこで、こういった事態に対応する場合、まずは解決のためのシナリオを検討します。次に検討したシナリオにあわせて、「キャリア面談を行った後、キャリア研修を実施し、対象者のキャリア・プラン作成を支援する。プラン実現のために、社内公募で新しいプロジェクトに参画を促す。そして。プロジェクトを成功に導いたらマネジャー候補にする。このCDPの実行力を高めるために推進チームを発足し、対象者たちを支援する」といったようなCDPを考えていきます。
もちろん、この例でいえば「プロジェクト参加希望者が集まらない」というということはしばしば起こります。調べてみると、実は、管理職になりたがらない理由は本人の内面の問題ではなかったことが後に分かることもあります。あるいは参加した人に、どのようにすればもっと良くなるか感想を聞いてみることで、改善のヒントが得られることもあります。CDPは、こういった後にわかったことへの対応も検討しながら、一度作ったらそのままにするのではなく、定期的にメンテナンスをすることも重要です。
社員一人ひとりのキャリアの課題に対応することは容易なことではないかもしれませんが、先ほど「キャリアの課題を整理するためのマトリクス」でもご紹介したように、世代や置かれている状況によって、ある程度同じような課題を持った社員群を想定することができます。また、CDPを検討する際には、他の会社が何をやっているのかを調べてみるのも良いでしょう。ゼロから考えるよりも、まずは同じような課題を持っている他の企業はどうしているのかを知るのも有効な手段の一つといえます。
キャリア開発の事例集です。キャリア研修や、キャリア開発のための仕組みづくりや体制の構築といったものをご紹介しています。定年延長への対応やシニアの職域開発といったことにご関心がある方も、ぜひ参考にしてください。 事例集はこちらからダウンロードしてください。
日本企業にキャリア開発が必要とされる背景
終身雇用や年功序列といったことに代表されるいわゆる「日本的な雇用制度」の下で、人事異動等を中心として行われていたキャリア開発は現在では様変わりしています。わかりやすく言えば、今日のキャリア開発は従業員一人ひとりの「キャリア自律」ということを中心に考えられるようになってきたといっても良いかもしれません。
バブル崩壊後あたりから、多くの企業が成果主義を導入し、職能ではなく職務に応じた評価がおこなわれるようになりました。その変化に合わせるように「一人ひとりのキャリア自律」を実現することがキャリア開発の目的として色濃くなり、ゼネラリストよりもスペシャリストを育成することが、企業の人材育成の目的になっていきました。
さらに、今日では、2016年に厚生労働省が発表した「第10次職業能力開発基本計画」のサブタイトル「生産性向上に向けた人材育成戦略」にも象徴されるように、労働人口が減少傾向にある中で、生産性の高い人材が求められるようになってきています。そして、そのような人材を得ることで、企業はダイバーシティ&インクルージョンを推進し、あるいはイノベーションを起こしていく必要があるといえます。
60歳、65歳、そして70歳と、働く時間が次第に長くなっていく中で、働く個人は生涯を通じて成長しながら自己実現していくことが必要になります。他方で、企業や組織は、そういった人たちが活躍し続けることができる環境や世の中を作っていく役割を担うことが必要になったということもできます。例えば、働き方改革や働きがいに関連した企業向けのアワードを、今日、数多く見かけるようになったのは、そのあらわれなのかもしれません。
新卒や中途の人材が企業を研究する際にも、「どれくらい従業員のキャリアを尊重しているのか」といったことがその会社を評価する指標になることもしばしばみられます。いうならば、キャリア開発に力を入れているということは、今日においては企業の価値を構成する要素になっているとも捉えることもできます。
株式会社ライフワークスでは、20代からシニアまでの各世代や、女性活躍推進、管理職向けなど、課題に合わせた「キャリア開発研修」をご提供しています。キャリア開発研修は、企業で働く社員(従業員)一人ひとりの、自律的キャリア形成を支援する方法の一つです。社員のキャリア課題を持つ方は、是非ライフワークスのキャリア開発研修をご覧ください。
この記事の編集担当

黄瀬 真理
大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。
国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定
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