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従業員エンゲージメントとは。論文に見る向上させる方法のヒントと企業の施策事例

「従業員エンゲージメント」とは、「個人が仕事を通じて組織との関係性や絆を深めることで、信頼し、成長しながら貢献していくこと示す概念」のこと。近年、人事・組織開発におけるキーワードとして注目されています。このコラムでは、従業員エンゲージメントが注目されている背景や、高めることのメリットについて考えてみます。あわせて、従業員エンゲージメントを高める方法について、ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された論文から新たなアプローチのヒントもご紹介します。

2020.06.11
コラム

従業員エンゲージメントとは

「エンゲージメント(engagement)」という言葉は、語源"engage(エンゲージ)"が"en"(in)=「中に」と"gage"=「誓い」で構成され、そもそもの意味は「関係者同士の強い結びつき」をあらわしています。一般用法では、「従事(没頭)」、「関与」、「約束」、「契約」、「婚約」といったさまざまな意味を持ちます。そして、私たちになじみの深い人材開発や組織開発の領域では、「従業員エンゲージメント(Employee Engagement)」という言葉が用いられます。

従業員エンゲージメントについての研究は、1990年頃にアメリカで始まっており、例えば、カーン(1990)による定義は「従業員が仕事に対し、役割にいる限り、肉体的にも、心理的にも、感情的に打ち込むこと」とされています。あるいは、シュミット(1993)による定義は「従業員の仕事に対する関わり合い、コミットメント、満足度(で構成される)。従業員エンゲージメントは、従業員リテンションの一部。」とされています。

他にも多くの定義があるようですが、従業員エンゲージメントは、従業員の会社に対する愛着や思い入れ、企業に対する個人の信頼の度合い、貢献や満足の度合いなどを要素としています。

つまり、従業員エンゲージメントとは、「個人が仕事を通じて組織との関係性や絆を深めることで、信頼し、成長しながら貢献していくこと示す概念」のことと理解することができます。さらに、今日、組織と個人がフラットな関係になっていくにつれて、両者が互いに信頼しあうことや、成長していくことが重要な要素にもなりつつあるようにも思えます。

いずれにしても、後述のように従業員エンゲージメントを高めることによって、個人のモチベーションが高まるだけでなく、個人と組織全体の生産性の向上、離職率の低下などの組織の活力の向上が期待されています。そこで、このコラムでは、このような従業員エンゲージメントについて考えていきたいと思います。

従業員エンゲージメントのイメージ。組織と個人が信頼で結ばれともに成長を遂げる。生産性向上、モチベーション向上、組織貢献などが期待される。

【関連情報】「ワーク・エンゲージメントとミドル・シニア世代」
従業員エンゲージメントの他に、働くことに関連した概念として「ワーク・エンゲージメント」があります。この概念は、自分の仕事に活き活きと打ち込んでいる状態を指し、熱意、没頭、活力という3つの要素で構成されていることが特徴です。この記事では、「ワーク・エンゲージメント」の研究者である島津明人教授に、この概念の概要や、「ワーカホリック」や「バーンアウト」との違い、そして、「ミドル・シニア世代のワーク・エンゲージメントを考えるためのヒント」をうかがっています。ワーク・エンゲージメントの詳細にご関心のある方は、こちらをご覧ください。

従業員エンゲージメントが企業に注目される3つの背景

次のような背景から、企業と個人の新たな関係のあり方を模索する必要性が生まれ、お互いを「信頼や絆」といったもので結ぶ従業員エンゲージメントが企業の人材開発や組織開発を担う方を中心に注目されています。

1.組織と個人の関係性の変化

かつての日本は、「終身雇用」という言葉に象徴されるように、一つの企業に入ったら、さまざまな部署に異動したり、転勤したりしながら出世し、定年まで勤め上げることが一般的でした。

しかし、近年は個人がキャリアを自律的に設計し、組織と対等な関係を築き始めています。少子高齢化の影響で労働人口が減少し、人材不足に悩む企業は多く、その中で成長し続けるために、このような人材のキャリアに向き合うことを企業は余儀なくされている状況にあるといえます。

2.モチベーションが下がりやすい環境要因

「働き方改革」によって労働時間を短縮する動きが広がり、仕事の効率化が進む一方、「いかに効率的に仕事をこなすか」に焦点が当たりがちになり、「仕事でどのような価値を生み出すか」が見えづらくなっています。目先の仕事に振り回され、その先にあるものを想像しづらい働き方では、個人のモチベーションは低下しがちです。

また、AIの発展・導入に応じて、労働の分業化・細分化が加速している今日。仕事で求められるスキルの種類が減り、断片的な仕事に取り組むようになったことも、モチベーション低下の要因につながり得ると考えられます。

このような働き方や技術の変化による社員のモチベーションの低下の問題について、今日の企業は対応する力が求められてきています。

3.画一的なマネジメントスタイルの限界

仕事や「働き方」についての価値観が多様化する中で、モチベーションの源泉は人それぞれになってきています。上司の働き方、キャリアが必ずしも部下のロールモデルではなくなった今、「背中を見せて育てる」といった画一的なやり方では、部下はついてこなくなりました。

一人ひとりの強みを理解し、活かすマネジメントの方法とはどのようなものか。悩みや課題を抱える企業や管理職が増えてきているようです。

【参考資料】キャリア自律促進の意義と施策
キャリア自律促進の意義と施策_イメージ_1キャリア自律促進の意義と施策_イメージ_2
従業員エンゲージメントと同じく、今日注目されるテーマでもある「従業員のキャリア自律」。この資料は、キャリア自律を促進するそもそもの意義や、どのような施策があるのかといったことを簡単にまとめたものです。ご自身や社内の理解促進のために合わせてご確認ください。資料はこちらからダウンロードしてください。

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以上のような背景のもと、今日では、多様な一人ひとりが協働し、活き活きと働く職場を作るにはどうすれば良いか。一人ひとりの成長を企業の成長にどのように結びつけていけば良いのか−−−−。個人と組織がともに成長する方法を模索する人事担当者や経営者が増えてきています。また、「働きがい」に目を向けることにより、行動に制約がある在宅勤務の環境でもモチベーションを保ち、生産性を維持・向上させていくためのヒントが見つかるのではないか、という考えから従業員エンゲージメントに注目が集まってきているのかもしれません。

従業員エンゲージメントを高めることの3つのメリット

従業員エンゲージメントを高めることの効果(メリット)として挙げられるのは、おもに3つです。

1.組織の活性化

従業員の組織への信頼度が上がり、自発的、積極的に仕事に取り組むようになることが期待されます。同僚と信頼感が生まれ、チームとしての力が増し、そのことが組織全体に派生することで組織の活性化につながります。

2.個人の活性化

個々人が仕事にやりがいを感じるようになります。仕事への意義を感じ、努力し組織貢献しようとするようになります。また、新しいことや困難なことでもチャレンジするようにもなります。報酬や待遇によらずとも、モチベーションが上がり、離職率が低下して人材流出に歯止めがかかることが期待されます。

3.業績の向上

経済産業省「平成30年度 産業経済研究委託事業 企業の戦略的人事機能の強化に関する調査」によれば、エンゲージメントスコアの高い企業は、離職率や品質上の欠陥が低いというほかに、業績指標が高くなることも期待できそうです。

従業員エンゲージメントを高める方法

それでは、従業員エンゲージメントを高めるために、組織は何をすべきでしょうか。

一般的に、「組織のビジョンと個人の目標をすり合わせてともに成長する」、「職場環境を整える」、「サーベイによって従業員の状態を把握する」、「人事評価制度やタレントマネジメントの仕組みを導入する」といった方法が挙げられますが、どれも人事戦略として重要なことばかりです。しかし、実際に従業員エンゲージメント向上のための方法としてこれらを実践してみると、思うような効果を感じられないという声もしばしば耳にします。

もちろん、従業員エンゲージメントを高めるにはある程度の時間がかかるのも事実です。また、企業ごとに環境や課題が異なるため、有効な方法を探るためにいろいろと試してみるのもやり方として考えられますが、もう一つの視点として、「アプローチの対象を見直してみる」というのも重要かもしれません。

従業員エンゲージメントを高めるための施策は、組織全体もしくは個人に焦点を当てて実施されることがほとんどです。しかし、アプローチできる対象の選択肢は、果たして本当にそれだけでしょうか。

チーム作りに注目した従業員エンゲージメントを高める5つのポイント

「ハーバード・ビジネス・レビュー」2019年11月号に掲載された論文「組織図には表れない チームの力が従業員エンゲージメントを高める」に、ヒントとなりそうな記述があります。

筆者らは、まず、2019年に行った世界の労働者1万9000人を対象とした調査によって、従業員エンゲージメントの源泉は、組織の文化や個人の資質にあるのではなく、組織図にはあらわれない「チームの力」に存在することを明らかにしています。さらに、筆者らは、従業員エンゲージメントを高めるための施策を、「従業員一人ひとりを対象にして行う」、あるいは「組織全体に行う」よりも、「チームを対象に行う」ことが重要だと指摘しています。

簡潔にいえば、「業務のほとんどを行っているのはチームであり、チームに焦点を当てて手立てを考えることが、従業員エンゲージメントを高めることにつながる」ようです。

では、その「手立て」としてはどのようなことがあるのでしょうか。筆者らは、チームのリーダーに注目し、リーダーがチームのエンゲージメントを高めるための方法として、5つのポイントを挙げていますので、要点をご紹介しておきます。

リーダーがチームのエンゲージメントを高める「5つのポイント」。1.信頼関係を重視する、2.目配りを感じさせるチーム、3.ともに学ぶ
、4.どこで働くかよりも誰と働くか、5.あらゆる仕事をギグワークのようにする

1.信頼関係を重視する

リーダーは、メンバーの長所を理解したうえで、長所を認めるフィードバックをし、長所を発揮できる仕事を任せます。これにより、メンバーは期待されていることを感じ、リーダーを信頼するように。このような信頼関係をつくることがエンゲージメントを高める要素の一つとなります。

2.目配りを感じさせるチーム

まずはリーダーとメンバーの対話の場を定期的に設けます。対話の場では、リーダーがメンバーに例えば「業務上助けを必要としていることがないか」というように、目配りしていることが伝わるよう語り掛けます。

また、こうした仕組みを継続するためには、リーダーがメンバーと一対一の対話の時間を作れる許容範囲を、例えば「1か月に1回30分、マネジメントの人数は最大7人」というように定めておくと良いようです。

3.ともに学ぶ

チームメンバーが互いの強みに目を向け相互理解を深める機会を作ります。そうすることで、一緒にいるメンバー同士が、どうすればチームの成長につながるかを考えることにつながります。さらに、新しい習慣や行動パターンを身に着けることにつながっていくことで、ともに学ぶチームになっていきます。

4.どこで働くかよりも誰と働くか

エンゲージメントを高めることには、出勤して仕事をしているか、在宅で仕事をしているかといった「どこで働くのか」ということよりも、むしろ「誰と働くのか」ということの方が重要な視点です。在宅で仕事をすることが多いメンバーなど、働く環境が異なる場合でも同等なコミュニケーションを実現することで、エンゲージメントの向上につながります。

5.あらゆる仕事をギグワークのようにする

ギグワークのように従業員自らが仕事をまわすことができる裁量を増やし、「心から楽しいと感じる仕事」ができる機会をもっと増やします。例えば、同じ職場にいながら主となる業務(本業)を担いつつ、さらに機動的なチーム(副業)に参加する機会を持たせるというようにするという具合です。

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組織を活性化するために、しばしば「チームビルディング」という方法が用いられることがあります。よいチーム作りを目指すために、上記の5つのポイントは示唆に富んでいるかもしれません。また、個人と個人の関係づくりなどをおもな目的とした「1on1ミーティング」や「上司による部下のキャリア面談」なども、その先にチームの力を上げることを見据えて行うと、違った成果につながるようにも思えます。

いずれにしても、従業員エンゲージメントの向上の糸口を「チーム」という単位に求めることも有効な手段の一つのようですが、皆さんはどのように感じられたでしょうか。

【参考資料】上司と部下のキャリア面談を成功させるポイント(面談サンプルシート付)
上司と部下のキャリア面談を成功させるポイント_イメージ_1上司と部下のキャリア面談を成功させるポイント_イメージ_2
上司が部下のキャリア支援をするためにしてしばしば行われる「キャリア面談」。この資料では、上司が「キャリア面談」をうまく進めるためのポイントを簡単にまとめています。面談で使うシートのサンプルもございますので、合わせてご活用ください。資料はこちらからダウンロードしてください。

エンゲージメントに関する企業の取り組み事例

最後に、従業員のエンゲージメントを向上させる取り組みの事例を2つ紹介します。皆さんの施策検討にお役立てください。

【参考資料】キャリア開発事例集
キャリア開発事例集タイトルキャリア開発事例集サンプル1
キャリア開発の事例集です。キャリア研修や、キャリア開発のための仕組みづくりや体制の構築といったものをご紹介しています。定年延長への対応やシニアの職域開発といったことにご関心がある方も、ぜひ参考にしてください(上記の【事例2】の要約版も収録)。事例集はこちらからダウンロードしてください。

参考文献:

  • Harter, J. K., Schmidt, F. L., & Hayes, T. L. (2002).Business-unit-level relationship between employeesatisfaction, employee engagement, and businessoutcomes: A meta-analysis. Journal of Applied Psy-chology, 87, 268-279.Harter, J. K., Schmidt, F. L., & Keyes, C. L. (2003).Well-being in the workplace and its relationshipto business outcomes: A review of the Gallupstudies. In C. L. Keyes & J. Haidt (Eds.), Flourishing:The positive person and the good life (pp. 205-224). Washington, DC: American PsychologicalAssociation.
  • Kahn, William A (1990). "Psychological Conditions of Personal Engagement and Disengagement at Work". Academy of Management Journal. 33 (4): 692-724
  • バッキンガムマーカス, グッドールアシュリー, & 高橋由香理. (2019). 組織図には表れない チームの力が従業員エンゲージメントを高める (特集 従業員エンゲージメント). Harvard business review= Diamond ハーバード・ビジネス・レビュー, 44(11), 28-45.

米ギャラップ社によるエンゲージメント調査「Q12(キュートゥエルブ)」

米ギャラップ社が世界各国の企業を対象にした調査を公表し、その中で、日本において「熱意ある社員」は6%。調査対象の139カ国中の132位という結果となっていたことに驚いた方も多かったのではないでしょうか。

この調査でエンゲージメントの状態を分析するために用いられたのが、同社が開発した「Q12(キュートゥエルブ)」という次の質問項目です。気になる方もいらっしゃると思いますので、項目だけ簡単に紹介しておきます。

  1. Do I know what is expected of me at work?
    職場において、自分に何が期待されているのかを知っていますか?
  2. Do I have the materials and equipment I need to do my work right?
    うまく仕事を行うために必要な材料(materials)や道具(equipment)を持っていますか?
  3. At work, do I have the opportunity to do what I do best every day?
    職場において、日々ベストを尽くすための機会を持っていますか?
  4. In the last seven days, have I received recognition or praise for doing good work.
    過去七日間で、良い仕事をしたこと対して認められたり、称えられたりしましたか?
  5. Does my supervisor, or someone at work, seem to care about me as a person?
    上司あるいは職場の誰かが、自分を一人の人間として気にかけてくれているようですか?
  6. Is there someone at work who encourages my development?
    職場において、自分の成長(development)を促してくれる人物は誰かいますか?
  7. At work, do my opinions seem to count.
    職場において、自分の意見は尊重されているようですか。
  8. Does the mission/purpose of my company make me feel my job is important?
    会社の指名(mission)や目的(purpose)、自分の仕事(job)を重要だと感じさせますか?
  9. Are my co-workers are committed to doing quality work.
    同僚たちは質の高い仕事をすることに専念していますか?
  10. Do I have a best friend at work.
    職場に親友はいますか?
  11. In the last six months, has someone at work talked to me about my progress?
    過去6か月の間に、職場で誰かが私の進歩(progress)について話しましたか?
  12. This last year, have I had opportunities at work to learn and grow.
    過去1年の間に、仕事について学び、成長(grow)する機会がありましたか?

実際の調査では、この項目のそれぞれについて、「完全に当てはまる(5点)」~「完全に当てはまらない(1点)」の5段階評価をつけた結果を集計し、エンゲージメントの状態が分析されました。

出典:米ギャラップ社WEBサイトの資料などを参考に訳。

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