イノベーションとは?意味や種類、革新に向けた組織づくりのポイント

イノベーションとは技術の発明にとどまらず、社会や組織のあり方や仕組みを含めた幅広い意味での価値の創造、変化のことです。明治時代の芸術家・思想家である岡倉天心は「変化こそ唯一の永遠である」という言葉を残しましたが、現代の企業経営や人事部においても結果を出し続けるためには変化し続ける姿勢が必要です。

ここではイノベーションの意味を深く掘り下げ、イノベーションを起こしやすい企業とそうでない企業にどんな違いがあるのかについて解説します。

2022.09.28
コラム

イノベーションの意味・基礎知識

さまざまな文脈で用いられる「イノベーション」ですが、提唱者であるヨーゼフ・シュンペーターがそもそも何を意図していたのか検証してみましょう。

イノベーションの定義

英語の「innovation」はカタカナ語で「イノベーション」と表記されますが、「革新」や「改革」などと訳されます。そもそもの語源はラテン語の「innovare(インノバーレ)」で「何かを新しくすること」だといわれます。少し抽象的なため、2019年に経済産業省が発表した以下の定義について紹介しましょう。

1.社会・顧客の課題解決につながる革新的な手法(技術・アイデア)で新たな価値(製品・サービス)を創造し、
2.社会・顧客へ普及・浸透を通じて
3.ビジネス上の対価(キャッシュ)を獲得する一連の活動

以上の定義から分かるのは、以下の3点です。

1.「技術革新」と訳されることも多いイノベーションだが、技術に限らず広く新たな価値を生み出す仕組みやアイデアを含むこと
2.ビジネスシーンでは新たな製品や新機軸のサービスを生み出すケースが多いこと
3.「何かを新しくする」だけでは足りず、それが広く社会に浸透し、受け入れられなければイノベーションとはなりえないこと

似た言葉に「リノベーション(renovation)」がありますが、「再び」という意味を含む接頭語「re」が付いていることから分かるように「既存の価値や更新・刷新」を表すため、意味合いは異なります。

イノベーションの提唱者

イノベーションの提唱者は、先に述べたようにオーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターといわれています。彼は1912年に発表した著書「経済発展の理論」の中で、イノベーションという言葉こそ使っていないものの、その概念を明らかにしています。

ヨーゼフによると鉄鋼生産装置や動力、運輸の歴史を例にして、資本主義の本質が経済構造を変革する産業上の突然変異、「創造的破壊(Creative Destruction)」であるとしています。このイノベーション理論はその後の多くの学者に影響を与えました。

なぜイノベーションが注目されているのか

シュンペーターが生きた時代、人類はいわゆる第二次産業革命に成功し、化学、電気、石油、鉄鋼の分野で技術革新を成し遂げていました。その後、1970年代のコンピューターの登場による第三次産業革命では単純作業の自動化を実現し、現在私たちはAIなどによる知的活動の自動化・個別生産化が可能になり始めた第四次産業革命の真っ只中にいます。

今やシュンペーターの時代とは比べものにならないくらい技術革新のスピードは早くなり、何かを生み出したと思っていても、次々に新しいものに置き換えられてしまいます。
レイ・カーツワイルが「テクノロジーは指数関数的な速度で拡大し、いずれシンギュラリティ(Singularity)、つまり技術的特異点に達する」と主張している通りです。

そのため、企業は何か新しいものを創り出していると思っていても、実際はすでに作られたものに追随しているに過ぎない可能性もあるのです。

組織においてイノベーションが重要な理由

組織においてイノベーションが重要な具体的理由は、企業が新しいサービスや商品の提供に成功した場合、市場の優位性を確保できるからです。場合によっては市場を独占できるケースもあります。

Amazonを例に取り上げてみましょう。Amazonが登場する以前、ネット販売は「自社倉庫を持つべきではない」という経営戦略が常識でした。在庫や人材確保にコストがかかるためです。しかし、Amazonは消費者が望むものをすぐに届けることにこだわった結果、自社倉庫を持ち、ITの力でコストの問題を解決しようとしました。今では世界中で他社の追随を許さない巨大企業に成長したのはご承知のとおりです。その背景には物流におけるイノベーションがあったのです。

また、大企業を中心に健康経営や働き方改革が推進されていますが、労働時間を短縮しながら業績を上げ続けるには生産性の改善が必須です。そのためには業務の手順や過程など、仕組み自体を見直す必要があります。これもイノベーションの一環といえるでしょう。

イノベーションの種類

ヨーゼフ・シュンペーターはイノベーションを5つに分類しています。

プロダクト・イノベーション

プロダクト・イノベーションとは、製品やサービスそのものに変革を起こし、社会に新たな価値を提供することです。変革が起こる要因は新しい技術によるものとは限らず、既存のサービスと技術の組み合わせによってイノベーションが起こるケースもあります。
以下のような事例が挙げられます。

通信端末 携帯電話からスマートフォンへの変化
料理の宅配手段 馬車や蒸気機関車から電車、自動車への変化
料理の宅配手段 出前からデリバリーサービス(Uberなど)への変化
コミュニケーションツール 手紙、電話からメール、SNSへの変化

プロセス・イノベーション

プロセス・イノベーションとは、製品やサービスの生産方法や流通過程で革新を起こすことです。仕事への取り組み方を変えることで、生産性の向上やコストの削減につなげられます。具体例としては、生産の機械化、実店舗からECサイトへの切り替え、テレワークの導入などが挙げられます。

マーケット・イノベーション

マーケット・イノベーションとは、新規顧客やニーズの開拓を目指して新たな市場に参入することです。異業種の企業が新たな業界に参入するケースや、今までのマーケティング方法を見直してニーズの異なる顧客へアプローチするケースなどが該当します。具体例としては、女性用化粧品会社によるメンズコスメの開発、法人向け宅配サービスの一般家庭への転用などが挙げられます。

サプライチェーン・イノベーション

サプライチェーン・イノベーションとは、製品を作るための原材料や部品の仕入れ先・供給源や、顧客に届けるまでの手段を最適化することです。サプライチェーンの見直しにより、コストダウンを図れる可能性がありますが、製品の質の担保とのバランスが重要です。

オーガニゼーション・イノベーション

組織そのものを改革し、社内の効果的な情報共有のあり方の変革、新しい価値提供を目的とした組織体制の整備、スピード感のある意思決定などを実現することです。前述した4つのイノベーションを起こすためには、そもそもオーガニゼーション・イノベーションが必要であるといっても過言ではないでしょう。

イノベーションが起こりにくい企業の特徴

イノベーションは果物の実のようです。果物は土壌、光など条件が整わないと芽を出し、成長しません。
イノベーションが育たない環境とはどんな環境でしょうか。

イノベーションのジレンマに陥っている

イノベーションのジレンマとは、ハーバード・ビジネススクールの教授クレイトン・クリステンセンが提唱した概念で、革新的な技術の登場が理由で市場から淘汰される現象のことを指します。イノベーションのジレンマは、企業が自社製品の進歩に注力するあまり、新市場の開拓や新製品の開発が遅れたことで起きます。

具体的には、スマートフォンの開発に乗り遅れた電機メーカー、電気自動車の登場に対応できなかった自動車メーカーなどが例として挙げられるでしょう。その背景には、過去の大きな成功体験があり、既存事業に固執してしまうということが挙げられます。その結果として、革新的なアイデアの発案や新たなビジネスチャンスの到来を見逃してしまうのです。

自前主義にこだわっている

自前主義とは自社の資源で組織開発や製品研究を行い新たな価値を創造することで、クローズドイノベーションとも呼ばれます。ハーバード大学の教授ヘンリー・チェスブロウが提唱した理論です。

日本は技術やものづくりのレベルが高くあるため、「自社で開発・製造してこそメーカーである」いう価値観を持っている企業もあります。しかし、企業を取り巻く環境は変化し、ニーズの多様化により自社でイノベーションを完結させることが難しくなっています。時間がかかる自前主義というリスクを捨てて、オープンイノベーションへとのシフトを視野に入れなければ勝機はないでしょう。

イノベーションマネジメントの導入が進んでいない

イノベーションマネジメントとは、不確実性を前提にして継続的なイノベーションを生み出すために不可欠な、実験と学習を基本とするマネジメント手法です。具体的には社内ベンチャーなど、イノベーションを起こしやすい環境や仕組みを作ることが重要です。企業を取り巻く環境の変化に目を向けず、これまでと同じビジネスモデルをただ続けていれば遅かれ早かれ淘汰されてしまいます。

顧客の声が経営層に届いていない

製品開発において大切なのは何よりも顧客のニーズです。最前線で働く営業や開発メンバーがそれら貴重な情報を収集しているにもかかわらず、その情報が経営層に届いてなければ、イノベーションは非常に起こりづらい環境になってしまいます。

また、顧客の声という貴重な情報が経営層に届かず、組織内でも情報が循環しないことで、結果として、新しい発想が出てこなくなってしまうリスクがあります。また、コミュニケーション不足からチーム全体の生産性が低下しまうことも起こり得るでしょう。そうした環境ではせっかくのイノベーションの「萌芽」も育たず、そのまま枯れてしまいます。

イノベーションが起こりやすい組織づくりのポイント

イノベーションの芽を育てるために組織は何を心がければよいでしょうか。特に重視すべき3つのポイントを解説します。

破壊的イノベーションに取り組む

破壊的イノベーション(Disruptive Innovation)とは、革新的な製品やサービスを生み出すために、新たな発想や仕組みを積極的に採用することです。それによりこれまでの常識を覆し、市場に新たな価値を提案します。

例えば、サブスクリプションでの音楽配信、シェアリングエコノミーによる自動車の利用などは、従来の「モノの所有」を前提にしたフロー型のビジネスモデルを破壊しました。それにより、新たな市場の開拓や新規顧客の獲得が期待できます。

オープンイノベーションの視点を持つ

オープンイノベーションとは、外部リソースを活用して新たなビジネスモデルやサービスを創造することです。
具体例としては、先進的な技術を保有するベンチャーと豊富な人的リソースを持つ大企業の共同研究など、個々の企業の強みを掛け合わせることで自社にはない知見や技術を獲得し、開発期間の短縮やコストの削減につなげる手法です。

社内の制約を減らす

社内ベンチャーなど、従業員が企業で新しいアイデアを形にしようとすると、さまざまな制約を受けます。見えない力関係もあれば、稟議を経なければそもそも着手できないなど事実上の制約もあります。せっかくイノベーションを生み出す機会があるのに、制約が多ければ社員のやる気は潰され、あきらめてしまったり、形にならないまま終わってしまったりすることになります。

従業員の声を吸い上げる環境を作る

イノベーションが起こりやすくするためには、率直に意見し合える環境づくりも重要です。
組織の心理的安全性を高めることも、そこに繋がる方法の一つです。下記記事にて、心理的安全性について解説しておりますのでぜひご参考にいただけますと幸いです。

イノベーションの芽を育てよう

ヨーゼフ・シュンペーターの知見に基づき、イノベーションの意味を深掘りし、イノベーションの5つの種類について解説しました。
すべてのイノベーション創出の基盤になるのは、組織の仕組みです。上記を参考にして、従業員が失敗を恐れずに挑戦し、イノベーションが育ちやすい環境づくりを目指していきましょう。

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この記事の編集担当

黄瀬 真理

黄瀬 真理

大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。

国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定

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