キャリア・オーナーシップを育む自社オリジナルメディアの立ち上げにかけた想い―会社が後押しする個人のキャリア自律とは

ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社では、社員のキャリア開発に対して、「機会提供・情報提供・金銭的支援」の3つの軸で、様々な取り組みを行っています。その中で、情報提供の位置づけとして、2019年より始まった自社オリジナルのキャリア支援メディア「Career University(キャリアユニバーシティ)」の取り組みは非常にユニークです。このCareer Universityを立ち上げた人事本部 タレント・ディベロプメントチームのファム様に、社員の抱えるキャリア課題や、施策立ち上げの経緯・メディアコンテンツについてお話しを伺いました。

2020.07.31
企業事例

Career University立ち上げの想いとキャリア開発を促すコンテンツ

Career University立ち上げのきっかけを教えてください

ファム(敬称略):弊社は中途入社の割合が多く、特定の分野スペシャリストとして採用され活躍している社員が多いことから、社内の人材流動性について以前は理想的とは言えない状況でした。しかし、ビジネスが加速度的に変化し複雑性を増す社会において、1つの専門性や限定的な経験だけでは、個人も組織も対応しきれなくなってきていること、またグローバル化や長寿化する中で個人のライフステージや組織を構成する社員も多様化していることから、多様なキャリアの在り方を提示し、できるだけ多くの実例を社員に知ってもらう必要性がありました。また、多様な人材が活躍できる職場を確立するためには受け皿となる制度やシステムだけでなく、社員がキャリア・オーナーシップ(キャリア自律)をもって自身の生産性を日々向上させ、パフォーマンスを最大化することが重要であることから、「機会提供・情報提供・金銭的支援」の3つを土台として、社員のキャリア・オーナーシップとラーニング・オーナーシップの醸成に取り組んできました。

その中の、「情報提供」という位置づけで社内のキャリアに関する情報を集約したワンストップサイトとして企画したのが、この「Career University (キャリアユニバーシティ)」です。

御社にとって、主体的にキャリアを描くとはどういうことでしょうか(社員の方にどのようにキャリアを描いていってほしいか)

ファム:弊社のキャリア開発フィロソフィーは、「キャリアは自分のもの」ととらえ、社員個人は変化の激しくかつ長寿化している時代において、日々変化する市場の動向や会社の方向性を主体的にキャッチし、そのなかで自分のキャリア・人生をどう生きるか、しっかり向き合うことが不可欠だと考えています。そして、ボストン・サイエンティフィックでは、社員が自己のキャリア目標や将来あるべき姿と向き合い、その実現に必要な経験や知識・スキルを把握し、主体的に選択していくという自律的なキャリア開発を支援し、そのためのリソースや機会提供を今後も拡充していく予定です。

今、お伺いしたようなキャリア開発フィロソフィーに則り、全社で活用されるサイトとしてCareer Universityを立ち上げられたわけですね。コンテンツはどのように組み立てられましたか?

ファム:まず、個人のライフステージや組織を構成する社員も多様化している中で、一律にキャリアアップを目指してもらうのではなく、多様なキャリアの在り方を示し、できるだけ多くの実例を社員に知ってもらいたいという想いを込めました。
そして、これまでも、Career Universityに近いイントラネットは存在していましたが長続きしなかったこと、内容として網羅的でなく、社員にうまく活用されることはなかったので、今回のCareer Universityの立ち上げにあたっては、社員側の目線に立った時に興味がわくような、使ってもらいやすいコンテンツにすることを意識しました。

具体的にはどのようなコンテンツが盛り込まれていますか

ファム:Career Universityは全社員を対象にしているので、資料の内容やメッセージングに偏りがないよう意識しつつ、サイトの構造として、「情報収集」「自己理解」「学び合う」とうカテゴリーに分けて、それぞれのカテゴリーに関連するリソースやツールを提供しています。さらにリソースは「読み物」だけでなく「見るもの」「聴くもの」と社員を飽きさせず、多面的に刺激できるような構成を心がけました。

Career University ホームページ

以下、各カテゴリーのコンテンツをご紹介します。

「情報収集」:キャリア全般に関する情報が掲載されている

  • キャリア・センター(キャリアに関する基本的な考え方、キャリア開発の流れなど)
  • 仕事の図書館(社内の"仕事"に関連する情報)
  • ロールモデル・ミュージアム(多様なキャリアを紹介)

「自己理解」:自分の理解を深めるため/支援するためのツールや手法の紹介

  • キャリアダイアログ(部下・上司間のキャリアに関する対話のガイド)
  • 自己理解ゼミナール(個人でできる自己理解ツールの紹介)
  • コーチング、フィードバック、メンタリングガイド(成長を支援する技法に関するリソース紹介)

「学び合う」:社員同士が相互に学び合いを行えるようなきっかけづくりの場

現在はMIGAKU Programという社員応募型の自己啓発プログラムの中で試験的に"学び合う"を体験してもらう仕組みを導入(例:英会話学習におけるチームアクティビティの導入)

網羅性を意識されたということで、面白そうなコンテンツが盛りだくさんですね。特にファムさんの想いれのあるコンテンツはありますか。

ファム:特に力を入れて製作したのは、「動画で学ぶキャリアダイアログ」と仕事の図書館の中にある、「教えてYour Job!」というポッドキャストのコンテンツです。

「動画で学ぶキャリアダイアログ」は、シリーズものを想定しており、第一弾として、上司の視点で若手社員の部下のキャリア支援をどのように行うのかを、1年間の業績管理サイクルに連動させて動画を作成した弊社の完全オリジナルです。ゼロからシナリオを作成し、社内のリソースをどの場面で使うと効果的か、どんな対話が望ましいのかというポイントを紹介しています。リアリティを追求するため、営業サイドのマネジャーにも監修してもらい、実態に即したものに仕上げました。特に、定期的な面談など、部下との関わり方の中でコーチングの手法を取り入れ、対話を促すというところもこだわっています。

「教えてYour Job! 」は、「聴く」コンテンツとして、インターネットラジオの一種であるポッドキャストを自作しています。移動中や何かをしながらでも手軽に聞いてもらえ、社内にある多様なジョブについて知ってもらうきっかけとしてコンテンツを作成し、隔月で配信しています。

具体的には、社内のホットな"ジョブ(職種)"で活躍しているメンバーをゲストに、15分の対談形式で、その仕事が会社の成長にどう貢献しているのか、その仕事に興味がある人はどんなことを意識して経験を積むのが望ましいかなどを話してもらっています。最近では、デジタルトランスフォーメーションチームに登場してもらうなど、トレンドを意識しているのがこのコンテンツですね。

社内の反応は?

活用のための工夫をたくさん仕掛けられている印象ですが、社内の反応はいかがでしょうか

例えば、キャリアダイアログに関しては、今のマネジャーは自分たちがそういったマネジメントを受けていないものが多く、戸惑いながら実践している状態です。しかしながら、会社として変わっていく必要があるというメッセージは伝わっていて、危機感は芽生えてきています。

また、仕事の図書館の中にある、JOB DICTIONARYでは、社内にどのような職種があるのが一覧化されているので、自分が今後どのような職種に就ける可能性があるのか、目指したい職種はどのようなものか、将来を考えるツールとして活用しているという声を聴きます。

会社としてキャリア開発に投資するために

企業として、中長期的な目線で「キャリア開発」に投資することを躊躇される事例もあると聞きます。最後に、「キャリア開発」に投資することの重要性について、ファムさんのご意見を伺いたいです。

ファムティホイ フン さんファム:例えば、数カ月でというような短いスパンで考えてすぐに成果をあげなければいけないとすれば、「キャリア開発」への投資は難しいと思います。
会社が提示するキャリアパスに従い、黙々と仕事をしてくれる社員が多くいるほうが経営しやすいということであれば問題はないと思いますが、この激変する社会で、トップダウンが強すぎる文化を作ってしまうと、何かが起こった時に、指示がないと何もできない社員が増えて困るのは経営層の方だと思います。 でも、私たちが目指したいものは、先が見えなくても、社員が会社のことを自分事としてとらえて選択をし、自らの人生(=キャリア)や仕事に対して責任をもって決断や行動をすることができる組織づくりです。
そして、マネジャーがそういった自律した社員を育てられるようになることが理想ですが、そのような状態になるまでにはある程度の時間と根気が必要です。
私が好きな表現で「It is about progress over time, not over night」というものがあります。
これは、弊社のシニアリーダーの一人から学んだ言葉なのですが、キャリア開発に対する企業の姿勢を表現する良いフレーズだと思います。
自律する組織を求めるのであれば、長い目で「キャリア開発」することの重要性を判断して欲しいですね。
そして、人事の成果としてのKPIについても、研修の数などの分かりやすい指標に偏りがちですが、研修をしてどう成果が出せたか、社員個人のキャリアと組織の方向性のマッチ度はうまくすり合わせられているのかなど、質の部分にも置くべきだと思っています。

非常に参考になるご意見ありがとうございました。

ファム:ありがとうございました。


社員の方の活用事例のご紹介

Career Universityについて、社員の方の活用事例をお伺いしました!

どのようなときにCareer Universityを活用していますか

Hさん:社内でPDCという年間の行動目標を設定するときに、今いる職位や求められるビジネスニーズの中で活動目標を作っていくので、ジョブレベルチャート(部門横断的な職位の各レベルに求められる最低限の期待役割等を示したチャート)で求められる期待値を確認したり、コンピテンシー(期待する能力など)を見たりしています。

また、「教えてYour Job!」はよく聴いています!組織の中でどういう役割を担ってその仕事をしているのか、それが自分の立場にどうつながっているのか考えることができるので、役立っています。今の仕事がマーケティング部のプロダクトマネージャーという役割で、製品の川上から川下までを管理する役割になるので、社内でかかわる方もたくさんいます。そういう人たちが何をどういう想いでやっているのかを知るきっかけにもなっています。

お気に入りのコンテンツはありますか

Hさん:JOB DICTIONARYが一番のお気に入りです。ポイントは、自社の全職種が並んでいるところです。昨年インターンの方を預かる機会があったのですが、ボストンがどういう組織でどういう仕事で成り立っているのか、伝える側の立場としてすべての職種情報が参照できるのは助かりました。また、他にも、自分の5年・10年のキャリアを考えた時に、どういうものが選択肢になってくるのか考えるための基本情報として役立ちますね。

お話を伺った方:
ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社
人事本部 タレント・ディベロプメントチーム
スペシャリスト ファムティホイ フン さん

2015年にボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社に新卒で入社後、人事本部に配属となり、新卒採用業務などを経験後に社員のキャリア形成や能力開発支援策を企画・運営するチームに配属となる。

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