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「働き方改革」を進めるために、本当に必要なこととは?―“働き方”を選択できる社会と個人の“キャリア自律”

政府の旗振りのもと、社会的に注目を集めている「働き方改革」。さまざまな企業や組織で取り組みが始まっていますが、現場での実践が進まず、社員の"働き方"の充実につながっていないケースが多いことも事実です。
「働き方改革」を進めるために、企業や個人は"働き方"をどう考え、ありたい"働き方"を実現するために何ができるのでしょうか。"働き方"を選択できる世の中の実現を目指して組織や企業の好事例や最新情報を収集・発信する一般社団法人at Will Work代表理事の松林大輔氏と当社チーフコンサルタント・野村圭司の対談の様子をご報告します。

2018.12.06
インタビュー・対談

仕事に対する価値観を含めた、広い意味での"働き方"を変えていきたい

野村:松林さんはIT企業・株式会社ストリートスマートの代表取締役でもいらっしゃいますね。企業経営の一方で、「at Will Work」の代表理事として「"働き方"を選択できる世の中」を目指した活動をスタートされた経緯を教えていただけますか?

松林氏(以下敬称略):ストリートスマートは2009年の設立以来、Google社の「G Suite(旧Google Apps)」を中心としたクラウドツールの導入支援サービスを提供し、大手を中心に1500を超える企業の支援を行ってきました。「at Will Work」を設立した2016年当時は「働き方改革」の機運が高まり始めたころで、テレワークの推進や業務効率化による勤務時間の短縮など"働き方"のクオリティを上げることを目的に当社のサービスを利用してくださる企業が増えていたんですね。

一般社団法人at Will Work 代表理事 松林 大輔氏ところが、システムを導入してインフラを整えても、「肝心の"働き方"が変わらない」というお客さまの声が多く、よくよく話を聞いてみると、「制度がないから、テレワークができない」「上長が認めないから、時短勤務ができない」と。「"働き方"のクオリティを上げる」という本来の目的を達成するには、ツールだけでなく、情報やノウハウを提供することが必要だと考えて、同じ問題意識を持っていた仲間たちと立ち上げたのが「at Will Work」です。ビジネスとして収益を上げるというよりは、「世の中にこういう情報が集まる場所があったらいいけれど、ないから、自分たちで作ろう」という意識だったので、社団法人として活動する道を選びました。

野村:IT企業としては、提供したツールによってお客さまの生産性が上がれば、役割を果たせたと言えそうですが、それでは満足されなかったのですね。ビジネス上の目の前の課題を解決するだけではなく、問題の本質に迫り、社会的なテーマに取り組もうと、チャンクを上げて(より抽象度の高い問題に目を向けて)活動していらっしゃるのがすごいです。

松林:そんな、そんな。照れます(笑)。ただ、今おっしゃった「チャンクを上げる」というのは、まさに「ストリートスマート」の創業期に先輩経営者からアドバイスされた言葉なんですよ。自分たちがサービスを提供することによって目先の売り上げだけを追求するのではなく、チャンクを上げて、世の中が必要とするものをいかに提供するかを考えなさいと。

僕は学生時代から起業志向があって、28歳で独立したのですが、当初は「お金」を軸にあらゆる物事を考えていて、失敗も多かったんです。でも、その先輩をはじめ損得なしに応援してくださる方々との出会いに助けられました。皆さんの姿から、ビジネスの基本は人との縁を大事にし、出会った方々のお役に立てるよう努力することだと学ぶことによって、事業も少しずつ軌道に乗っていきました。だから、キャリアというのはいくら稼ぐとか、社長になるとか表層的なものではなく、自分の価値観を追求することによって充実するという実感を持っています。「at Will Work」を設立したのも、テレワークや時短勤務など"働くスタイル"の選択肢を拡げるだけではなく、仕事に対してどう向き合うかという価値観を含めた、広い意味での"働き方"を変えていきたいという思いがありました。

「働き方改革」と「キャリアオーナーシップ」の関連性

野村:「at Will Work」ではどのような活動をされているのですか?

松林:毎年2月に開催する「働き方を考えるカンファレンス」や"働き方"に関する取り組みや働く"ストーリー"を集める5年間限定のアワードプログラム「Work Story Awrad」といったイベントを通してさまざまな企業の"働き方"の事例を紹介したり、交流会や勉強会、ワークショップを開催して、個人が"働き方"を選択できる社会の実現を目指しています。

野村:ここ数年で"働き方"に関する社会の意識は高まっていますが、職場の状況は大きく変化していないように感じます。残業時間の削減など数値目標だけに捉われて、社員の働きやすさは向上していなかったり、「副業・兼業」など新しい取り組みを導入しようとしても、従来からの慣習や人事制度、法制度の壁を乗り越えられないという声をよく聞きます。このような現状に対して、どのようにお考えになっていますか?

一般社団法人at Will Work 代表理事 松林 大輔氏松林:組織が大きく、伝統的な企業ほど変化しきれていないですよね。変わらなければいけないというのはみんなわかっているんです。誰とお話ししても「残業時間の削減だけが『働き方改革』ではないですよね」と全員がおっしゃいますから(笑)。ただ、社会環境の変化が激しすぎて、スピードが追いついていないんです。

"働き方"というのはビジネスの構造と連動していますが、従来の日本は製造業中心で、法律や就業規則、労働慣行といったものもそれに合わせて整備されてきました。ところが、製造業でただモノを作るだけでは売れなくなり、新たな市場価値を生み出すためにビジネスの構造を根底から変えていかなければいけない。そのために "働き方"も変えていきましょうと、企業も個人もいきなり変化を求められているわけですよね。

それってやはり、受け入れ難いのも当然だと思うんですよ。ある意味、過去に築き上げてきたものを否定されているようなものですから。でも、変わらなければ、生き残れない。「働き方改革」を前に進めるためには、まずはそういう現実を受け入れていくことが重要だと思います。

野村:"働き方"の多様性やフレキシビリティを実現するための環境整備ももちろん必要ですが、企業も個人も、環境変化に対応して、新しい環境を使いこなしていくためのマインドセットが大事だということですね。

松林:その通りです。これだけ「働き方改革」が注目されているのに、多くの企業がなかなか変われないのは、日本で「キャリアオーナーシップ」という概念が浸透していないことも大きな理由ではないでしょうか。個人が組織に頼るという概念が個人にも、企業や組織を運営している側にも強くあります。

だから、世の中が変わって自分の"働き方"、生き方を選択しなければいけないとなった時に個人は戸惑うし、企業もどこまで個人に責任を委譲していいのか加減がわからない。自分の人生やキャリアのオーナーシップは自分が持つんだという概念を誰もが持つようになれば、「働き方改革」も加速するはずです。簡単には実現できませんが、すごく大事なことだと思いますね。

多様な事例から、できそうな"働き方"を発見し、まずはやってみる

株式会社ライフワークス チーフコンサルタント 野村 圭司野村:ライフワークスでは、ひとりでも多くの方が人生やキャリアに対するオーナーシップを持ち、「どう働くか」を選択できるよう研修などを通して支援を行っています。その中で、さまざまな方のお話をうかがうと、変化に対して「苦しいもの」と捉える意識が個人に強くあるように感じています。この意識を払拭して、個人が変化をよりポジティブに捉えられるよう支援するためには、どんなことが有効だと思われますか?

松林:ひとつの手立てとしては、事例を知ってもらうことでしょうか。それも、できるだけたくさん、具体的な事例を集めることが大事だと思います。自分に合った"働き方"というのは、個人の事情によってさまざまで、正解はありませんから。

やはり、誰もやったことがないことをやるというのはみんな怖いじゃないですか。だけど、全く同じじゃないにしても、似たようなことを実際にやった人がいると知れば、踏み出しやすくなるかもしれない。僕たちが"働き方"に関する取り組みや働く"ストーリー"を募集して表彰する「Work Story Awrad」を実施しているのも、たくさんの事例を知ってもらうことが実践のためのフックになるのではと考えているからです。

あとは、「できることから、やる」というのが大切だと思います。大企業であっても"働き方"を変えていけている企業もあって、そういう企業の多くは「特区」を作っているんですね。

野村:「特区」を作るとは?

松林:大企業ほど起こりがちなのですが、人事制度を変えるという時に公平性がネックとなって頓挫したり、全体を一律に変えてうまくいかなかったりするんですね。例えば、20の事業部があって全てに適合する"働き方"というのはないですから。

それに対して、うまくいっているというか、変化できている企業では、全員が同一条件でないことを認めているんですね。不公平でもいいから、まずはこの部署を「特区」としてやってみようと。そこだけ新たな"働き方"を取り入れてみて、効果があるようなら全体に広げたり、「特区」で働きたいという人を相応のスキルをつければ異動できるような仕組みを取り入れたりしているんです。

野村:なるほど。全体を変えるのは難しくても、「特区」でトライアル的にやってみるということであれば取り入れやすそうですね。

松林:個性的な人材を生かしたり、人材流出を防ぐことにもつながると思うんですよ。どんな企業でも、自由すぎる人っていますよね。柔軟な発想力を持っているけれど、枠に収まらず、従来の組織では締め出されてしまうような人が。でも、そういう人に合わせた"働き方"を特例として認め、これまでにない発想を取り入れるということも、イノベーションを起こすためには大事だと思います。

手間暇をかけた丁寧な取り組みが、長い目で見ればキャリア開発の近道

野村:お話をうかがっていますと、個人が組織に合わせて働くのではなく、組織が"働き方"を個人に合わせていく時代が来ているのかなと改めて感じます。世の中の動きに合わせて、新たな市場価値を生み出し続けることが企業に求められる中、キャリア開発においても社員にある程度一律に役割を与え、キャリアパスを提示するという図式が崩壊しています。

松林:となると、キャリア研修の内容も変化してきていますか?

野村:従来のように「こういうキャリアパスを歩むためには、どんな能力やスキルを身につけるべきか」といった内容ではなく、より「個」に重きが置かれる傾向があります。やはり、まず自分が「どうありたいのか」という原点に立ち返って、その価値観を大事に働きましょうということを研修の中でも強く謳う企業が増えていますね。

松林:「個」に重きを置くという考え方はこれからさらに重要になってくるんでしょうね。ただ、実際の運用となると難しくて、「個」を生かすとなると、一元的な人事管理では対応できず、非効率ではありますよね。"働き方"においても最近感じているのは、非効率を受け入れていく方が、長い目で見れば、生産性を上げるための近道ではないかということなんです。これだけ環境変化が激しく、チャレンジが不可欠になると、失敗もする。失敗というのは非効率ですが、それを受け入れてチャレンジしなければ、成果も出ないわけですから。

野村:おっしゃる通りだと思います。社員の多様性を企業の成長に結びつけられている企業というのは、人事制度は一律であっても、上司とのキャリア面談を定期的に実施して会社の業績目標を個人の成長目標と紐付けるような会話をしたり、個人の意思を可能な限り配置に反映させるといった「個」に向かい合うことを丁寧にやっています。

松林:「個」を強くすることが組織の力を高めるということを認識しているからこそ、コミュニケーションを取るという一見非効率なことを大切にされているんでしょうね。

株式会社ライフワークス チーフコンサルタント 野村 圭司野村:よく「働き方改革」の文脈で生産性とか効率の重要性が語られますが、キャリア開発や人材育成というのは愚直に地道にやっていくということが結構大事で、それは働き方改革の推進についても同様なのかもしれません。手間暇をかけながら、丁寧にやっていくことで、それぞれの企業や社員の力をより引き出す"働き方"を見つけることができるのではと思います。もちろん、個人の意思を全て反映するのは難しいですから、一律で管理するべきところと、個別最適をはかる部分とのバランスを考えながら取り組みを進めることが大切ですが。

松林:なるほど、制度や環境の整備と、「個」への対応を両輪で愚直にやると。効率的か非効率かと言えば非効率かもしれないですけど、愚直にやるということがすごく大事なんですよね。「at Will Work」の活動でも似たようなことを感じています。メインの活動として先ほどお話をした「働き方を考えるカンファレンス」を参加者約800名規模で毎年開催してきて、おかげさまでイベント自体は大変好評なのですが、いざそれぞれの企業で実践となると、もう少し個々の企業に寄り添った支援も必要だなと。それで、会員企業向けに20〜30人規模の勉強会を隔月1回のペースで始めることにしたんです。今後はそういった場を通して企業間のネットワーク作りを支援したり、国への政策提言なども行って、さまざまな企業が具体的な取り組みを進めやすい環境を草の根から整えていけたらと考えています。

組織間のつながりが「働き方改革」を前に進める

野村:「at Will Work」さんは組織側から「働き方改革」を支援しているのに対し、当社の活動はどちらかというと、より「個」にフォーカスしており、アプローチは異なりますが、本日お話をさせていただいて、「一人ひとりが意思を持って働ける社会を実現したい」という思いは同じだと感じました。ミュージカルに例えると、「at Will Work」さんは役者が演じる舞台を作って、私たちは役者を育てるお手伝いをする。両者が協働すれば、いい舞台と役者が揃い、より質の高いミュージカルが生まれるのではと思っています。

松林:新しい"働き方"を実現していくということには、人事制度や経営者・個人双方のキャリアに対する意識や価値観、テクノロジーなど多くの要素がからみ合っていて、本当の「働き方改革」を進めるには、さまざまな組織がつながり、知見を共有していくことが不可欠だと実感しています。例えば、「at Will Work」で収集した情報や「ストリートスマート」が持つITのノウハウを私たちが御社の研修で伝えたり、「at Will Work」や「ストリートスマート」のパートナーと御社がつながってキャリア支援について教えていただくなど、アライアンスの和が広がるようなことができればいいですね。

野村:閉じた組織では「働き方改革」は進められないですよね。

松林:そうなんです。というのも、"働き方"には正解があるわけではないので。いろいろな知見に触れて、自分たちに最適なものを自分たちでやってみる。それが大事ですよね。

野村:心から共感します。本日はありがとうございました。

一般社団法人 at Will Work

https://www.atwill.work/
設立:2016年5月

事業内容
「"働き方"を選択できる社会」を実現することを目指し、ノウハウの蓄積・体系化をするため、働き方についての活動(カンファレンス、セミナー・ワークショプ、アワード)を行っている。またそれらを、メディアを通して発信している。

「働き方を考えるカンファレンス2018」:テーマは「働くを定義∞する」
行政・企業・研究者・個人・学生 と幅広い立場の方々が登壇。
https://www.atwill.work/conference2018/

「働き方を考えるカンファレンス 2019」:テーマは「働くをひも解く」
2019年2月20日(木)に開催を予定。
これまでの100年、私たちはどう働いてきたのか、またこれからの100年どう働くのかがテーマ。
<特徴>
・企業だけでなく、政府・研究者、フリーランスやパラレルワーカーまで、通常1つのカンファレンスでは集まらない豪華な登壇者の講演有り。
・毎回好評のワークショップやグラフィックレコーディングも開催予定。
https://www.atwill.work/conference2019

只今、期間限定で割引チケットをご用意しております。
ご希望の方は、お申込み前に以下メールアドレスまでその旨ご連絡くださいませ。
seminar@lifeworks.co.jp

イベント申し込みはこちら

人でもなく企業でもなく、"働くストーリー"にスポットライトを当て、1年間に20のストーリー、5年間で合計100のストーリーをみつけるアワードプログラム「Work Story Award これからの日本をつくる100の"働く"を見つけよう」
https://award.atwill.work/

株式会社ストリートスマート 代表取締役
一般社団法人at Will Work 代表理事
松林 大輔

店舗チェーン本部取締役を経て2009年に株式会社ストリートスマートを設立。Googleが提供するG Suite(旧GoogleApps)の導入支援・トレーニング事業をスタートし、1,500社を超える企業を支援する。Googleから世界イベントでの表彰を含む"4度"の受賞歴を持ち、日本唯一のGoogle(G Suite)認定トレーニングパートナー。2016年、働き方を選択できる社会づくりを目指して一般社団法人at Will Workを設立。企業のワークスタイル変革を支援する活動を積極的に展開している。

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