人材育成における課題とは?目的や手法、成功させるポイントを解説

人材育成は企業の発展に欠かせないものである一方、「人材育成のために割ける時間や費用が限定される」「人材育成に必要な知識やスキルが不足している」「従業員一人ひとりが成長の重要性を認識していない」などの課題を抱えている企業も少なくないでしょう。

今回は、人材育成の目的や手法、多くの企業が抱える人材育成における課題や成功させるためのポイントなどについて、詳しく解説します。

2023.08.22
コラム

1.人材育成とは企業の経営方針に沿って必要な人材を育てること

人材育成とは、企業の経営方針に沿って必要な人材を育てていくことです。単に知識を詰め込むのではなく、個人の資質や能力を踏まえた上で、汎用的なスキルのほか、組織が求める専門的なスキルの習得も行います。

なお、人材育成は企業側が主体となって行うため、従業員本人の中にあるキャリアビジョンとは必ずしも一致しない場合もあります。

2.人材育成の目的

企業が人材育成を行う目的はどのような点にあるのでしょうか。
ここでは、企業が人材育成を行う主な2つの目的について説明します。

1)基本スキルの定着

基本スキルの定着は、人材育成を行う目的のひとつです。
基本スキルの具体例としては、社会人の基礎ともいえるビジネスマナーやITスキル、業界知識や職種ごとに求められる知識の習得などが挙げられます。加えて、課題特定能力や問題解決能力、コミュニケーションスキル、論理的思考力なども基本スキルの中に含まれます。

業務内容によっては、さらに専門知識やテクニカルスキルが必要となる場合もあるでしょう。ただし、この場合も、仕事の基盤となる基本スキルをあらかじめ習得しておく必要があります。基本スキルがない状態では、専門的な業務をまっとうすることができず、結果的に思うような成果を上げることはできないからです。

2)能力の最大化

人材育成によって従業員個々人の能力を最大化することは、企業成長力の拡大にもつながります。
ただ、ここで問題となるのは、企業が求める能力の強化を重視するあまり、従業員の個性や特性を抑え込んでしまう危険もあることです。個々のメンバーのスキルの底上げは必要なことですが、それと同時に、その人らしい強みを発揮するという観点も大事な要素です。
そのため、人材育成を行う際には、個々の持ち味を踏まえて能力を引き出すようにしましょう。

3.人材育成の手法

人材育成の方法はいくつかありますが、どれがベストかは企業や従業員の状況によって異なります。それぞれの手法が持つ特徴やメリット・デメリットを理解し、育成する人材の特性や習得させたい内容などに合わせた選択が必要です。
ここでは、人材育成における代表的な手法を5つご紹介します。

1)OJT(On-the-Job Training)

OJTは、実務を通じて業務スキルや知識を教育していく方法です。
新入社員や新規配属者に対して行われることが多く、上司や先輩などの現場に慣れた者が指導者となって、マンツーマンで業務を習得させていきます。

OJTを行う際には、実際に業務にあたりながら教育するため、実務的な力を身につけやすく、また育成される側も相談しやすいという利点があります。その一方で、指導を担当する従業員に負担がかかりやすいというデメリットもあります。指導担当者にほぼ一任する形になると、育成の成果にばらつきが出る可能性があるため、注意が必要です。

2)Off-JT(Off the Job Training)

Off-JTは、OJTとは逆に通常業務から離れた場所と時間を用意し、そこで教育を行う方法です。
対象となる従業員を集めてのオンラインスクールやセミナーなどが、これにあたります。大人数に対して共通のカリキュラムにもとづいた教育を行うため、効率的な育成ができ、スキルの均一化という点でも有効です。汎用性の高い知識やスキルを磨くには、適した方法です。
一方で、直接的に業務に関わる内容とも限らないため、目的を理解して研修を受け、業務に活かす必要があります。

3)e-ラーニング

e-ラーニングは、PCやスマートフォン、タブレットなどを使用したオンラインでの学習を指します。
あらかじめ構築された学習プログラムを、従業員各人のペースで実践します。時間や場所を選ばないことから、育成を受ける側の自由度が高いのがメリットです。また共通の学習プログラムを使うことで、知識やスキルの付与の均一化が実現できます。さらに、容易に数値化できるため、学習状況やその成果を把握しやすいという利点もあります。

4)自己啓発

自己啓発とは、従業員が自身の意思で、自発的に教育を受けることです。具体的には、社内外での勉強会やセミナー、通信教育などが挙げられます。
従業員の自主性による学びなので、高い効果が期待できますが、それだけに個人間での成長の差が大きいという難点もあります。とはいえ、学習意欲の高さはそれ自体が優れた資質です。その資質を伸ばすために、企業側にできることはいくつかあります。

<企業側ができる自己啓発へのサポートの一例>

  • 書籍やセミナー費用を一部または全額負担する
  • 希望者に向けて勉強会を開催する
  • e-ラーニングシステムを導入し、希望する講座を受講できるようにする
  • カフェテリア研修制度などを用意し、社員が自律的に学べる環境を作る

5)越境学習

越境学習とは、普段勤務している職場環境を離れ、まったく異なる環境で働く方法のことです。非日常的な環境の中で、さまざまな出会いや体験から、気づきや学びを得ることを目的とします。
例えば、身につけたスキルや知識を活用してボランティア活動を行う「プロボノ」、異なる業種や文化を持つ企業で一定期間業務に就く「レンタル移籍」、総務省が進める地方創生の一環としての「ワーケーション」などの手法があります。

株式会社ライフワークスが過去に提供したキャリア越境学習プログラムについては、下記のページをご覧ください。
「行動変容」につなげるキャリア越境学習プログラムの実施

4.人材育成を行う上で企業が直面しがちな課題とは?

人材育成を行う際には、注意しておきたい点がいくつかあります。これらを放置したまま育成を実施してしまうと、期待した効果がなかなか出せないということにもなりかねません。人材育成に関する課題は事前に解決しておく、あるいは対応策を用意しておくことが重要です。
ここでは、人材育成を行う上で企業が直面しがちな6つの課題について、それぞれ詳しく説明します。

1)育成目的が決まっていない

人材育成を行う目的が決まっていないと、育成施策そのものが形骸化してしまいます。「人材育成をしなくては」という意識ばかりが先行してしまうと、こうした状況に陥りやすいことがあります。
人材育成を効果的に行うためには、まず「何のために育成するのか」「どんな人材が必要なのか」という基盤部分をしっかりと言語化し、社内ですり合わせておきましょう。なんとなく進めたのでは、施策の軸がぶれてしまいますし、育成にかけた時間や労力が無駄になってしまうでしょう。

2)教育できる従業員がいない

多くの企業は、人材育成に注力したいものの、育成施策を担当できる従業員が社内にいないという課題を抱えています。そのため、教育スキルの有無にかかわらず、管理職にトレーナー(教育担当)を任せている企業も少なくありません。しかしながら、管理スキルと教育スキルはまったくの別物です。優秀な管理者が、必ずしも教育者として優秀だとは限りません。
もし、どうしても人材育成を任せられる従業員が社内にいない場合は、必要なコストと期待できる結果のバランスを考慮した上で、外部の専門家と連携するのもひとつの方法です。

3)忙しくて時間を割けない

人材育成に取り組みたいものの、社内全体の業務が逼迫していて、なかなか時間を避けないという企業も少なくないでしょう。人手不足が進む現在では、どの業界でも限られた人員で最大の成果を発揮しなくてはなりません。ベテランがマンツーマンでOJTを実施することは、どの企業でもできることではないはずです。また、育成計画を練る時間すら取れない、というケースもあるかもしれません。

一方で、時間がないことを言い訳にして、人材育成の重要性を本質的に考えられない場合もあるはずです。時間がなくても、外部の専門家と連携するなどの方法をとれば人材育成の実施自体はできます。忙しい状況においても、人材育成の重要性を認識し、どのようにしたら進められるかの検討を進めていく必要があります。

4)従業員が受け身で意欲が低い

人材育成を行う企業の中には、従業員の就業意欲の低さに課題を感じている企業もあるでしょう。
育成プログラムが効果を発揮するには、育成される側の意欲が大いに影響します。自ら育っていこうという意欲が低く、指示されたから参加しているという意識では、せっかくのプログラムも功を奏しません。
こうしたことを避けるため、施策を実施する前に、人材育成の目的と、個人と組織双方にとっての必要性を言語化しておき、従業員に対して周知しておくことが大切です。従業員一人ひとりの成長は、企業のためだけではなく、結果的に従業員自身のためにもなることを理解してもらう必要があります。個々人が自らのキャリアについて考え、主体的に学んで行動すること、つまりキャリア自律の意義と併せてメッセージを伝えられるとよいでしょう。

キャリア自律については、下記の記事をご覧ください。
キャリア自律とは。キャリア自律が求められる理由、企業における課題と推進方法。

5)育成したのに離職される

せっかく手間暇をかけて人材育成を行ったのに、育成した従業員が離職してしまうという課題もあります。これは育成する側からすると、何ともやりきれないことです。しかしながら、社内制度を使って資格を取得した直後に、転職されてしまったというケースは少なくありません。

自身の成長という従業員本人の利益と、それによって得られる会社の利益とを併せて説明し、成長したのちに社内でどんな活躍を望まれているのか、事前に認識をすり合わせておくことが必要です。

6)テレワーク環境での育成方法がわからない

コロナ禍でテレワークが広く普及しましたが、テレワーク環境でも一定の成果を得られる人材育成は、いまだ確立されているとはいえません。多くの企業では、従来の方法をオンラインに置き換えつつも、成果に向けたより良い方法を手探りしている状態にあります。
オンラインとリアルのそれぞれの良さを認識し、目的に応じて使い分ける必要があります。複数のサービスを活用し、その成果を見ながら効果検証を進めるのも大事です。

5.人材育成を成功させるためのポイント

人材育成の成果を高めるには、押さえておきたいポイントがあります。
ここでは、人材育成を成功させるための3つのポイントについて説明します。

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1)会社全体で人材育成に取り組む

人材育成を実施する際は、会社全体で取り組みましょう。
人材育成は全社的な課題です。そのため、担当部署だけにすべて任せるスタイルで進めることは危険です。
人材育成は、全社的な人材育成方針と結び付けて実施する必要があるからです。さらに、現場のことをよく知っている管理職との連携も大切です。常に社内での情報連携を意識して取り組みましょう。

2)指導の質を均一化させる

育成によって得られるスキルレベルを一定以上に保つには、指導のポイントをあらかじめ社内で決めることで、指導担当者が誰であっても、従業員への指導の質が同じになるようにしましょう。それにはまず、指導のポイントや項目をリスト化しておき、育成を受ける側が習得できたかどうかをチェックする仕組みを作っておくことが大切です。
具体的な対策としては、e-ラーニングシステムを活用するのがおすすめです。e-ラーニングシステムを使えば、教育内容を共通化することができ、履修状況の把握も容易になります。履修後、実務に結び付けて行動できるようフォローすることで「受講したものの、業務に活かされているかわからない」という状態を防げるでしょう。

3)「4:2:4の法則」に則って実施する

人材育成は、「4:2:4の法則」に則って実施するのがおすすめです。
4:2:4の法則とは、「効果のない研修は、研修前の動機づけに4割、研修そのものに2割、研修後のフォローに4割の原因がある」というものです。裏を返せば、研修そのものよりも、その前の動機づけや研修後のフォローに注力することで、高い効果を得られるというわけです。
従業員には、研修によって何を得られるのかを事前に十分に理解してもらい、研修後にはその内容を実践で活かせる環境を作るなど、現場を巻き込んだ施策が大切です。

6.プロの力も活用しながら、人材育成を効果的に進めましょう

人材育成は従業員一人ひとりの能力を引き出し、組織の力へとつなぐための重要な手段です。しかしながら、肝心の育成目的を明確にできずにいたり、人材育成を担当できる従業員がいなかったりするなど、実際に人材育成を行う上でのさまざまな課題を抱えている企業が少なくなりません。そのような場合は、人材育成を専門とする外部の会社や専門家などの力を頼りましょう。

株式会社ライフワークスでは、従業員のキャリア開発を検討・実施する方に向け、さまざまなソリューションをご提供しています。一人ひとりがキャリアを考えることは、スキルや知識・経験を身に付けて成長することとも強く結び付いています。人材育成を検討いただく際に参考になる資料もご提供していますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事の編集担当

黄瀬 真理

黄瀬 真理

大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。

国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定

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