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ソフトバンク株式会社に聞くソフトバンク×電通共同プロジェクト「越境ワーカー」第3回 越境ワーカー受け入れ部門インタビュー

ソフトバンク株式会社と株式会社電通が共同で取り組みを進めている越境学習プロジェクト「越境ワーカー」。連載第2回ではプロジェクトに参加したメンバーに個人の視点からの越境学習の意義をお話しいただきました。
最終回は越境ワーカーとの協働を組織活性化につなげるためのポイントを探るため、株式会社電通からの越境ワーカーを迎えたソフトバンク株式会社 未来実現推進室の室長・井上允之さんと北川 太庸さんに越境ワーカーの受け入れによる組織へのポジティブな影響や、生じた課題をどう解決したかなどをうかがいます。

2019.03.07
企業事例

越境学習が「自分たちだけで考える」という枠を取り払うきっかけに

今回、電通さんからの越境ワーカーを受け入れた「未来実現推進室」とはどのような組織なのですか?

井上さん(以下敬称略):人事・総務を主としたバックオフィス領域の未来を考え、AIなどのテクノロジーを積極的に活用することによってその実現を推進していくために、2017年に人事総務統括内に設置された組織です。従来の領域を超えた役割を持ち、当社の中でも革新性の高い組織だと言えるかもしれません。また、若手社員を中心に15名ほどが所属しており、全員が兼務です。

電通さんからの越境ワーカーの受け入れを打診された時にお感じになったことは?

井上 允之さん井上:未来実現推進室(ミラスイ)のメンバーたち自身もそれぞれ別の担当業務を持ちながら「バックオフィスの未来を考える」というミッションに取り組んでおり、越境的要素のある働き方をしているので、越境ワーカーとは親和性もあり、いい学びを得る機会になるのではと感じました。

受け入れ母体になることを決めたのは、「越境ワーカーを受け入れる」というよりは、自分たちだけで考えるという枠を一度取り払ってみるのもいいのではないかと思ったからです。協働によって我々の持っていない知識や知見を取り入れ、自由な発想ができるようになることで多くのものが生まれるのではという期待がありました。

北川さん(以下敬称略):「ミラスイ」が発足する前に、2015年の「未来創造プロジェクト」、2016年に設立された「未来探索室」という前身時代があり、ここから数えると3年の活動歴があります。3年間の活動の中で、似通ったアウトプットが多くなってきた頃だったので、「越境ワーカー」の皆さんとの協働が「ミラスイ」の新たな可能性を開くきっかけになればと現場も歓迎的でしたね。

越境学習から生まれたのは"予想外"なアウトプットだった

電通さんからの越境ワーカー4名を迎え、バックオフィスの改革のための新しい企画を立案されたとうかがっています。簡単にその内容を教えていただけますか?

左:北川 太庸さん 右:井上 允之さん北川:当社のバックオフィスでは、「経営改革の起点として会社全体をリードする存在」、ひいては「世界をリードする存在」を目指そうというビジョンを掲げています。しかし、社会的にはバックオフィスと言うと一般的には労務管理などのオペレーション業務を中心とした、フロント部門をサポートする部門というイメージが強いですよね。この現状を踏まえて、まずはバックオフィスの既存イメージを変えていこう、ということを目的に企画を行いました。具体的には、我々が目指してる「リードするバックオフィス」という概念に、「イケメン」や「美魔女」のようなアイコンとなる言葉をつけ、その言葉と共にこの概念を世に広めていこう、という企画です。

井上:電通越境ワーカーの皆さんとミラスイメンバーが混合で企画、当社役員へのプレゼン提案を行ったのですが、「面白いね、やろう」とその場で承認されました。
このアイデアは、まさに電通さんとの協働ならではのアイデアかもしれません。人事や総務などの機能を担う部門は、よく"バックオフィス"や"コストセンター"という言葉で表現されることがあり、私たちが目指す「世界をリードする存在」というビジョンとの乖離を感じていました。そこで、新たな記号をつくり、従来のバックオフィスをイメージチェンジしよう、という主旨です。従来は、社内に向けた活動が多く、このような社外に向けたアイデアは私たちだけでは出てこなかったと思います。

最終的なアウトプットは、越境プロジェクト開始前にイメージしていたものと違いましたか?

井上:全く違いました。当初は、「ミライ塾」というコンテンツの一つを一緒に企画しようと考えていました。ミライ塾というのは、バックオフィスの社員向けにAI、IoT、RPAといったテクノロジーの勉強会を開催し、社員のテクノロジー感度を高めると共に、利用の促進を狙った取組みです。この取り組みの一つの企画を想定していましたが、せっかくの機会でしたし、メンバーがこの越境学習で何をやってみたいかを聞いてみようと思い、メンバーがお互いにやりたいことをまとめて発表する「やりたいことプレゼン」を実施しました。そこで、越境ワーカーの皆さんから提案があったのは、テクノロジーを活かした「エリアコミュニティの構築」や「出会いの場の創出」といった、予想外のアイデアがほとんどだったんです。

北川:予想外で非常に面白かったのですが、ミラスイのミッションに直接的に繋がる要素が多くなく、どう収束させようかと頭を抱えたのを覚えています(笑)

お互いの「違い」を生かし合うために必要だった「粘り強い」コミュニケーション

どのように意見をまとめていったのでしょう?

北川 太庸さん北川:意見をまとめていく際に一番ポイントになったのは、電通越境ワーカーのやりたいこととミラスイのミッションの方向性を一致させることでした。もちろん、この取り組みを行う最初の段階でミラスイのミッションは何度も電通越境ワーカーに説明していましたが、それでも微妙な認識のズレが生じていたのです。その時に感じたのは、企業文化も職種も全く違う方たちと、言葉や資料上の文字だけでゴールを共有することには限界があるな、ということでした。そのため、色々な角度から、ミラスイが何を目指しているのかを粘り強くコミュニケーションし続けました。

例えば、メンバー一人ひとりに私たちの考えを伝えて、いただいたアイデアとすり合わせていくといった一対一のコミュニケーションもしましたし、「ミラスイ」がどんなことをやっているのかを実際に見てもらうのも大事だと考えて、2018年5月末に開催したバックオフィスでテクノロジーを使った事例をシェアするイベント「BO-Techフェス(※)」に参加してもらいました。「BO-Techフェス」の後、室長の井上と一緒に電通さんにうかがって「ミラスイ」のミッションについてもう一度説明させていただいたあたりから、同じベクトルを向き始めた感じです。ここまでに2か月くらいかかったと記憶しています。
※Back Office-Techフェスの略。バックオフィス業務にテクノロジーを活用し、業務の効率化や付加価値の創造に成功した事例を共有しあうイベント。

井上:そこからアウトプットまでのスピードはものすごく早かったです。「今までの2カ月が何だったんだよ」というくらい(笑)。このプロジェクトの過程で感じたのは、組織で共通の目標を共有し、それに向けてみんなで突き進んでいくところがソフトバンクの強みであり、電通さんの強味は社員個人の意思や興味といったものをしっかり生かしていくことなのかなと。粘り強いコミュニケーションで両者の違いを埋めるまでには時間はかかりましたが、お互いの良さを発揮できる下地ができると、越境学習の良さが一気に発揮されましたね。

北川:最初に認識をあわせることができず、下地ができるまで2か月もかかってしまった点は、「泥臭くて、不細工なやり方になっちゃったなあ」と反省していたのですが、先日、越境ワーカーの皆さんに当時のことを聞いてみたら、「必要なコミュニケーションだったよね」と言ってくれたので、今となっては良かったのかなと感じています。

越境学習しあう者同士が、共に生かし合える関係であることが大切

越境ワーカーとの協働によって得られた気づきや組織へのポジティブな影響があれば、おしえていただけますか?

北川:やはり、当社とは違うカルチャーで仕事をしてきた方々の視点を肌で感じられたのは良かったです。例えば、私たちが社内で実施していたイベントに参加いただいた際に、電通越境ワーカーの皆さんからは「これは社内だけでやるんですか?社外に向けて実施しないともったいないですよ!」とコメントをいただきました。社内のバックオフィス社員をターゲットにする、という枠を飛び出す発想で、その視点があったか!と気づかされました。これは、常日頃から社会への影響を考えて仕事をしている電通さんのメンバーだったからこその発想だと思います。

こうしたきっかけそのものは他社の方との飲み会といったインフォーマルな場でも生まれるかもしれませんが、それをきっかけに上記のような企画提案まで繋げることができたのは、協働できる場があったからこそ。いい機会をいただいたなと感じています。

井上:外部からみて感じた客観的な意見をストレートにお話しいただけたのが本当にありがたかったですね。社内イベントの「ミライ塾」について説明した時に、「『世界をリードするバックオフィス』を目指しながら、活動は社内に閉じるんですか?」という問いかけがあり、ハッとさせられました。また、越境ワーカーの皆さんは電通さんではフロント部門で働いている方たちなので、バックオフィス以外で働く人の視点を知ることができたことも、今後の「ミラスイ」を考える上で大きなヒントになりました。普段全く違う環境にいるもの同士が意見交換をする、ということはよくあると思いますし、それだけでも気づきがあります。ただ今回の越境学習のように、前提条件や目指すゴールを理解・共有し合い、お互いの強味も理解した上で、時間をかけて意見し合うことで、より深みのある気づきを得ることができましたし、有意義な取り組みだったと思います。

北川:もし、表面上の意見交換程度でアウトプットを出そうとしていたら、このような大きな気づきは生まれなかったかもしれません。

井上:もし当初の予定通り「ミライ塾」のコンテンツを考えていたら、普段からプランナーとしてイベント企画をプランニングしている電通さんのメンバーからすると、普段のクライアントワークと同じことをソフトバンクでするだけになっていたかもしれません。「越境ワーカー」のようなプログラムは越境ワーカーと受け入れ組織がお互いに得るものがないと価値がないので、両者が共に生かし合える関係になれるよう、お互いの想いを尊重しつつ方向性を合わせていくことが大切だと思います。そこがあれば、「越境」から得るものは受け入れ組織にとっても大きいのではないでしょうか。

お話を伺った方:

ソフトバンク株式会社
人事総務統括 人事本部 戦略企画統括部 人材戦略部 部長 兼 未来実現推進室 室長
 井上 允之 さん
人事総務統括 人事本部 組織人事統括部 組織人事3部 技術戦略・モバイル技術部門 兼 未来実現推進室 北川 太庸 さん

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