ミドル・シニア人材に関する課題の構造と解決のための役割創造

ミドル・シニア人材に関する課題の構造を理解するために、背景となる状況を皆さんと考えてみたいと思います。そこで、多摩大学大学院 経営情報学研究科 客員教授、一般社団法人組織内サイレントマイノリティ 代表理事の須東 朋広氏にお話をうかがいました。

2017.03.07
専門家コラム

全体像を把握するために、現在の日本企業が置かれている市場環境について教えて下さい。

須東:今日、技術の発展、グローバル化などによって企業に影響する環境は目まぐるしく変化を遂げています。とりわけ、市場環境の変化は著しいといえるでしょう。
まず、「ものづくり大国」と称している日本の製造業の動向を見てみましょう。経済産業省(2016)によると、製造業の商品ライフサイクルが10年前に比べて「長くなった」と回答するより「短くなった」と回答する企業の方の割合が高くなっています(図132-2)。また、「短くなった」と回答している企業においては、10年前との商品ライフサイクルの短縮率を「30%以上50%未満」あるいは「50%以上」と回答する企業が目立っています(図132-3)*1
翻って、このような環境変化を企業の立場から考える場合、商品ライフサイクルの短期化に対応した迅速な開発力、生産力、そして新しい価値を創出する「イノベーション」が企業に求められるのが今日的状況だと捉えることもできます。

図132-2 10年前のライフサイクルとの比較
出典:経済産業省「2016年版ものづくり白書」

図132-3 ライフサイクルの短縮率
出典:経済産業省「2016年版ものづくり白書」

次に、グローバル環境に目を向けてみます。世界経済フォーラム(WEF)「2016-2017 世界競争力レポート」によると、日本は現在8位にランク付けされていますが、ここ数年を見ると2013年9位、2014年6位、2015年6位、2016年8位と推移しています*2。国際経営開発研究所(IMD)による「世界競争力ランキング」では、現在26位とランク付けされ、2013年24位、2014年21位、2015年27位、2016年26位と推移しています*3。いずれの報告からも一見すると日本企業の市場へのインパクトは安定している様な印象を受けます。しかしながら、10年前のIMDの報告に目を向けると、日本は16位となっていますので、現在は国際競争力が低下してきているというようにも捉えることが出来るかもしれません。さらには、WEFの報告の詳細を見てみると、ランクが下がった一因として「イノベーション」に関する項目の評価の低下を見ることができます。
以上のような背景に基づけば、商品を市場にいち早く提供するためにイノベーションを求められながらも、なかなかその実現には至らないというのが現在の日本企業の姿ではないかと推察することができるのではないでしょか。あるいは、イノベーションとは別の仕方によって、私たちは国際競争を続けているのかもしれません。


「イノベーション」の源泉ともいえる人(人材)と働き方についてはいかがでしょうか。

須東:近年、日本の働き手の減少が問題視され、海外への生産拠点の移管、海外からの労働力の獲得、定年の引き上げといった方法で、この問題の解決の糸口を探ろうとする動きがあります。
この実態を把握するために、国立社会保障・人口問題研究所による人口ピラミッドを見てみると、人口そのものも減少していく様子がうかがえます。また、2015年の生産年齢人口のボリュームゾーンは男女ともに40代に見られており、2030年にはこの山が60歳前後になると推計されています。他方で、2015年で2つ目のボリュームゾーンとなっていた60~65歳は2030年には生産年齢人口の外に入ってしまい、それを新たな若い労働力で補うことが出来ないため、生産年齢人口そのものは現在よりも約1000万人減少すると推計されています 。こういった、働き手の高齢化と数の減少が起きることが予測されているからこそ、今から対策を講じる必要があるというような議論によって、例えば「65歳定年延長」という具合に、現在の働く人の環境の変化が促進されているのかもしれません。

人口ピラミッドデータ 2015年の画像
出典:国立社会保障・人口問題研究所「人口ピラミッドデータ」

人口ピラミッドデータ 2030年の画像
出典:国立社会保障・人口問題研究所「人口ピラミッドデータ」

さて、働く年齢を伸ばしたり、海外からの労働力を調達したりすることで単純に労働力が増えるだけでは、私たちの働くことにまつわる問題は解決しないという議論もあります。すなわち、それは「労働生産性」の問題です。
公益財団法人日本生産性本部(2016)によれば、2015年の日本の労働生産性は74,315ドルであり、アメリカ(3位、121,187ドル)の6割程度、アイルランド(1位、153,963ドル)の5割程度、OECD加盟35カ国の中で22位となっています*5。この順位は2000年ごろからほとんど変わっていません。労働生産性が算出される元となる値の1つのGDPは同じくほぼ横ばいが続いており、労働人口は2000年以降は減少傾向になっていますので*6、労働生産性が変わらない理由は働く時間の長さに起因するように推察することもできますし、あるいはここ15年の中で、サービスの質は維持されたものの、それを付加価値とせず、低価格販売を競争の原動力としていたことがこの原因ではないかという捉え方もあるようです*7


企業(雇用者)と働く人(被雇用者)の意識に違いのようなものはあるのでしょうか。

須東:日本の働く人が高齢化してきていることは先程説明した通りですが、改めて確認してみると2005年時点では労働力人口に占める65歳以上の割合は7.6%だったのに対して、2015年は11.3%となりました(図1-2-4-8)。また、60歳以上の方に「何歳頃まで収入を伴う仕事をしたいか」と聞いた調査では、「65歳くらいまで」と回答した人、「70歳くらいまで」と回答した人がいずれも16.6%。この値と、「75歳くらいまで」、「80歳くらいまで」、「働けるうちはいつまでも」と回答した人の割合を合わせると、約72%の回答者が長く働きたいという意識を持っているかという事がわかります(図1-2-4-1)*8

図1-2-4-8 労働力人口の推移出典:内閣府「平成28年版高齢社会白書」

図1-2-4-1 就労希望年齢出典:内閣府「平成28年版高齢社会白書」

内閣府の調べによれば、日本の高齢者の労働意欲が高い様子を見ることが出来ます。対象者に「今後も収入を伴う仕事をしたい(続けたい)」かと聞いたところ、日本は約45%が「はい」と回答したのに対して、アメリカ39.4%、ドイツ22.7%、スウェーデン36.6%という結果でした。この回答者に対して、理由を聞いたところ「収入が欲しいから」と回答したのが日本とアメリカが50%前後であるのに対して、ドイツやスウェーデンは「仕事そのものが面白いから、自分の活力になるから」と回答する人の割合が50%前後となっています。もしかすると日本やアメリカでは、労働を自己実現の喜びというよりは対価を得るための活動と捉えているのかもしれません。しかしながら、日本は、働く意欲が高く、実際に働き続けている高齢者が多い国ということはできるでしょう*9

将来の人口減少社会の到来でもシニア人材の働く意欲や就業率が高いことから人手不足は解消、そして企業競争力を維持・発展できる企業が増え安泰かというと、そうではなさそうです。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によれば、「希望すれば65歳以降も働き続けられるのかどうか」という質問に対して、対象企業の約30%が「65歳以降は働くことができない」と回答しています。もっとも回答が多かった「65歳以降は希望したら基準に該当した者は働くことができる」(55.5%)については、その理由として最も多かった回答が「働く意思・意欲があること」(58.9%)となっています。その他に「会社が提示する労働条件に合意できること」(45.2%)、「出勤率、勤務態度」(40.7%)、「会社が提示する職務内容に合意できること」(40.1%)等が高い回答割合になっており、企業が示す「基準」が「労働条件」、「勤務率・態度」、「職務内容」にあるということが推察できます。加えて、企業側に65歳~69歳の高齢者の雇用確保の意向を聞いた質問では「確保の予定有」が約48%、「確保の予定なし」が約47%と、ほとんど同じ割合を示しているようです*10

以上のように、全ての企業は、必ずしもシニア人材に働く環境を用意しておらず、確保も積極的に予定しているわけではないという様子がわかります。
また、実際に働いている65歳の方が就いている仕事の内訳をみると、「専門的・技術的な仕事(職種)」が40.1%と最も多く、高齢者を雇用している理由として2番目に回答が多かったのが「高齢者の身につけた能力・知識などを活用したいため」(62.6%)という事からは、シニア人材は専門性の高い労働力として期待され、雇用される傾向があるようにも思えます*11。しかしながら、技術の進歩とともに、自らも開発されることが無い場合、専門性は次第に衰えていきます。これは世代に関わらず起こりうることかもしれませんが、とりわけシニア人材については、新しいことを受容して自らの能力とすることは苦手とすることが一般的なようです。果たしてシニア人材は、企業のニーズに合った専門性をどのようにして開発することができるのでしょうか。


参考・引用文献
*1 経済産業省「2016年版ものづくり白書」(2016) p.126を参照の事。
*2 世界経済フォーラム(WEF)「Global Competitiveness Report 2016-2017」(2016) p.216-217を参照の事。
*3 国際経営開発研究所(IMD)「JAPAN: COUNTRY PROFILE」
*4 「人口ピラミッドデータ」(国立社会保障・人口問題研究所)(2017年3月7日に利用)
*5 公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2016年版」
*6 厚生労働省「平成28年版厚生労働白書」p.15の「詳細データ①」を参照の事。
*7 公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2016年版」 p.5の議論を参照の事。
*8 厚生労働省「平成28年度版 高齢社会白書」
*9 内閣府「平成27年度 第8回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」 p.33の表28を参照の事。
*10 独立行政法人労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」(平成28年) p.42-43の図表6-1と6-3、p.55の図表6-25を参照の事。
*11 独立行政法人労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」(平成28年) p.49の図表6-14を参照の事。また、同図表を見ると、「若年者に対する技術や仕事への姿勢についての教育効果を 期待できるため」という回答は24.3%とそれほど高くないことは、シニア人材が必ずしも技術伝承を望まれているわけではないという事が推察されます。


コラム「これからの働き方へのヒント ~役割創造という考え方~」

従来のような他社をキャッチアップした薄利多売なものを労働集約型でスピーディに、短期間で成果を求めるモデルでは、競争力の源泉である「人」をただ疲弊させるだけで、企業競争力を高めることはできません。
企業競争力の源泉は「人」によるイノベーションの実現です。社会で起こっているモノ・コトから問題発見、課題設定し、周囲を巻き込んでいくことです。シニア人材は新しいことに取り組む気力や体力は低下、もしくはモチベーションが低いかもしれませんが、従来積み重ねてきた熟達化された職能・技能を活かした仕事であれば責任感を持って取り組みます。また、流動性知能(新しい状況への適応する力/速さが求められる課題を解決する力)は加齢とともに衰退しますが、結晶性知能(学習(経験)の蓄積によって判断する力、問題を発見する力)は加齢とともに上昇します。日本企業の従来モデルであれば流動性知能がフォーカスされましたが、新しいものをイノベーションするときは自身の様々な経験からの専門性に基づいて仮説を立て、問題を発見する結晶性知能こそが必要です。加齢したシニアの結晶性知能の活用こそがイノベーションの種である新しいアイデアの創出につながるかもしれません。
中高齢者は機器や新しいITテクノロジーがうまく使えないため、デジタルネイティブな中堅・若手は馬鹿にします。しかし人の扱いに長けていて人間関係を大切にする中高齢者だからこそ周囲を巻き込むスキルに一日の長があります。

以上から時代の変化とともに求められるスキル・人材像が変わりました。これからのイノベーションが求められる時代では蓄積してきた経験・専門性を活かした問題発見、課題設定、周囲巻き込み力に長けたシニア人材を有効活用していかなければならないのです。これからはイノベ―ション力のポテンシャルを持ったシニア人材を見抜き、活躍を支援できる会社こそ企業競争力を高められるのではないでしょうか?
今まで社員は企業から「いつまでも」「どこへでも」「なんでも」という拘束されても長期継続雇用(終身に近い)や手厚い給与・福利厚生など保障されていました。会社員は入社前までは「自分」のためのワークキャリアやライフキャリアを考え行動しましたが、会社に入ると「企業・組織」のためのワークキャリアは当たり前で、愛社精神の名のもとにライフキャリアも犠牲にする「会社人間」であることが求められました。
しかし40歳を過ぎライン管理職の道が閉ざされると、「自分」のためにキャリアを考え行動しましょうという面談や研修に呼ばれるようになります。会社への憤りややるせなさなど感じる人もいますが、今まで犠牲にしていたライフキャリア(趣味やボランティアなど)に生き甲斐を感じ、会社は経済的な手段として割り切る人も少なくありません。そういった人たちは、今まで会社のために全てを犠牲にしてきたのだからラクさせてもらおうと振る舞うので、職場やこれから会社で頑張ろうとする若い人達が迷惑を被っています。一方、平均寿命は男性が80.79歳、女性が87.05歳と65歳までの働いてもその後15年以上あります。退職金や年金だけで本当に生涯過ごせるのか?仕事人間が急に何もなくなったら身体に悪い、無気力・鬱など家族や身近な周りの人達は心配です。何より本人が一番辛く大変な思いを感じるでしょう。
企業にとって重要な課題はイノベーションの実現です。会社・組織のためのキャリアから自分のためのキャリアと主導権が戻ったシニアだからこそ見える、社会や組織における問題や課題。それらの中から自身が培ってきた専門性で問題を発見し、イノベーションの種として新しいアイデアを創出し、会社のリソースを使って、在籍中に生涯掛けて解決したいモノ・コトを見つけ、若い頃を思い出し、愚直に取り組んでみるという方法があります。これは本人にとっても身近な家族、職場、そして組織にとっても"四方よし"です。
これを『シニアの役割創造』といいます。そのためにはシニアの持っている力を棚卸しして、モチベーション高く持ってもらい活躍してもらえるような支援を行うことが企業に求められるのです。

プロフィール

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須東 朋広(すどう・ともひろ)(多摩大学大学院 客員教授/一般社団法人組織内サイレントマイノリティ代表理事)
2003年、最高人事責任者の在り方を研究するため、日本CHO協会を立ち上げ、事務局長として8年半務める。2011年7月からはインテリジェンスHITO総研リサーチ部主席研究員として日本的雇用システムの在り方の研究から中高年、女性躍進、障がい者雇用、転職者、正社員の雇用やキャリアについて調査研究・発信を行ってきた。
そうした中、組織内でなんらかの理由で声を上げられない社員が増え、マジョリティ化しつつあることに対して、2016年10月、誰もがイキイキ働き続ける社会を実現するために『一般社団法人組織内サイレントマイノリティ』を2016年に立ち上げ、現在に至る。

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