プロボノがもたらす人材の成長の可能性

役割想像をしようと考えても、なかなかその方法が思いつかない、ということはあるかと思います。そこで、今回は、役割創造のためのヒントの1つとして、「プロボノ」についてご紹介したいと思います。

2017.03.29
専門家コラム

まずは「プロボノ」そのものについて教えていただけますか?

「プロボノ」というのは、Pro Bono Publicoというラテン語の略で、「公共善のために」という意味です。一般的には「職業上の専門スキルをボランタリーの場で提供し、社会に貢献する団体の支援をすること」というように定義されています。個人の方が実際に活動する場合をわかりやすくいうならば、社会課題を解決しようとするNPO(特定非営利活動法人)等に対して、自身の本業のスキルを提供することを通して、自身が社会(公共善)に貢献しようというものです。
プロボノの原点は2000年ごろアメリカにあるとされています。それが様々な形で広がっていきました。日本で始まったのは2009年ごろです。いくつかのプロボノ団体が設立され、2010年に本格的なサービスが始まりました。私が理事を務めているProbonet(プロボネット)は、2009年からNPOや中小企業にコンサルティングを行うサービスを開始し、2017年現在では、400名以上の登録者がいます。


NPOや中小企業にコンサルティングされている内容についてもう少し教えて下さい。

プロボノ団体がNPOや企業から案件の相談を受けます。例えば、「自社で扱っている商品がうまく売れないから販売方法を考えて欲しい」ですとか、「地域に根差した介護サービスを提供したいが、具体的にどうやっていいかわからない」といった相談です。その情報を団体に登録している人に展開して、参画して下さる方を募ります。マーケッター、研究開発者デザイナー、会計士など、本業の業務の内容も、ポジションも様々。あとは一定のメンバーがあつまったらプロジェクトチームが結成されます。
最初は、私も同行して相談者のところにうかがって課題の共有をするところから始めます。引き受けるご相談にもよりますが、プロジェクトは概ね半年ぐらいをかけて行われるのが通常ですね。


仕事もプロボノも、となると大変な印象ですが、なぜ皆さん参加されるのでしょう?

一番大きいのは、参加される人が自分自身の力を本業とは違った実践のステージで試すことが出来ることだと思います。本業とは違う世界で通用する自分の知識やスキルを確認できますし、逆に言えば、自分が何をできないのか、ということも見えてきます。なかなか本業だけではわかりにくい自分の強みや弱みに気付き、新しい知識や経験が備わっていく。こういった実践知が自身に蓄積されていくことが、プロボノをやっていくメリットになっていますし、それだからみなさん積極的に参加されているのだと思います。
他にも、プロボノは、その活動を通して知り合うNPOや中小企業などの経営者のマインドや志向を、肌感覚で理解することもできます。起業家や経営者から、課題に向かっていくまっすぐな大志やビジネスを作り上げていくプロセス、経営の勘所などを、現場で共有することができるのもプロボノの醍醐味ではないかと思っています。


最後に、塚本さんの今後の展開について教えて下さい。

プロボノ活動そのものも、なのですが、私が2014年に初めた「プロボノ験修」をもっと多くの方に広めていきたいと思っています。
この研修は、中堅層のスキル向上や女性活躍支援といったテーマで取り入れられることがある一方で、特に最近はシニア人材の役割創造のために活用したいというニーズも増えてきました。「バブル期に採用した社員がいずれも50代に差し掛かり、ボリュームゾーンであるため高額給与やポスト不足、生産性に課題がある」とされる、いわゆる2020年問題を目前にして、いかにこの年代の人材に新しい自身の役割を定義し、組織への新しい貢献をしてもらうかがカギになっているからでしょう。
シニア本人は、豊富なビジネス経験や知識を持っているにも関わらず、自身を組織の中で生かす術が分からないでいます。自分が何をできるのか考えなくても良くなっているのか、あるいは考えなくなっているのか、理由は様々だと思いますが、停滞してしまっています。こうした方達に社外の組織に触れ、つまり「外の風を浴びて」頂くことで、スキルを活用しながら自身の可能性を見出し、一方では何が不足しているかを客観的に見れるようになってもらう、というのがこの「プロボノ験修」の良さだと考えています。
とりわけシニア層になってくると、形や大きさには関係なく、何か社会に貢献ができることをやりたいという意識が強くなっていきますので、そのニーズも満たすことができるのではないかと。
いずれにしても、こういったシニア人材の支援にもプロボノの輪が広がっていけば、と考えているところです。

この記事を書いた人

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塚本恭之(つかもとやすゆき)
大企業勤務時代よりNPOや中小企業等のスモールビジネスを支援するプロボノ団体の理事を務めながら、70件以上のプロボノプロジェクトを統括する。
2014年10月にプロボノを人材育成にするナレッジワーカーズインスティテュート株式会社を設立、代表取締役に就任。大手金融機関やメーカーなどの研修実績がある。
経済産業省 中小企業診断士 情報処理技術者(システム監査技術者、ITストラテジスト等)

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