キャリアオーナーシップとは?意味や事例、注意点を解説

「人生100年時代」といわれるほど長寿社会となった日本では、一人の人が働く期間も長期化しています。また、生涯を通じて一企業でキャリアを全うする人は少なくなり、個人が主体性を持ってキャリアを形成していく「キャリアオーナーシップ」の考え方は、さらに重要性が増していくでしょう。
個人のキャリア形成に対する意識が上がり、自発的に学び、成長し続ける人材が増えるのは、企業にとっても喜ばしいことです。しかし、そのような意欲的な個人にとって魅力的な組織であり続けるためには、キャリアオーナーシップの支援を経営課題として位置付け、体系的かつ継続的に取り組んでいく必要があります。

今回は、従業員がキャリアオーナーシップを持ち、主体的・能動的にキャリア開発を行う重要性や、企業側の支援策について解説していきます。

2024.06.24
コラム

1.キャリアオーナーシップとは、個人が主体的にキャリア形成を行うこと

キャリアオーナーシップとは、従業員が自分自身を「キャリア形成の当事者」と認識した上で、主体的・能動的にどう働き、どう生きていくのかを考え、人生そのものを形成・構築していくことです。
つまり、企業主導ではなく、個人が主導してキャリア開発を行うことをキャリアオーナーシップと呼んでいます。

そもそもキャリア開発とは、中長期的な視点で個人の経験やスキル、職務能力を向上させる取り組みです。自分が築いてきた経験やスキルを認識、理解した上で、将来に向けて必要なスキル・知識・得るべき経験を明確にし、自らプランを立てて実行することが重要になってきます。

従業員が自身に対するキャリア開発の必要性を認識し、今後に向けてアクションを起こすことで、組織内でさらに活躍できる人材への成長を期待できるでしょう。
また、従業員一人ひとりが能動的にキャリア開発を行うことで組織が活性化し、新しい価値の創造やイノベーションが促進されるとも考えられています。

2.キャリアオーナーシップが注目される背景と現状

キャリアオーナーシップが注目されるようになった理由として、いくつかの時代的な背景が考えられます。企業はそのような状況をどのように捉え、どう行動に移しているのでしょうか。

1)変化に富み、多様性が増す現代社会

日本社会における人生100年時代の到来が、個人の働き方や生き方に変化をもたらしていることはいうまでもありません。
また、従来の終身雇用を前提とした年功序列型賃金制度から成果型の評価制度へシフトしたことで、より「キャリア自律」した人材が求められるようになったともいえるでしょう。
さらに、近年はVUCA(ブーカ)時代といわれており、将来をはっきりと予測することが難しくなっています。こうした時代の中で、多様な人材の活用を経営課題として捉える企業が増えているのです。
ほかには、ESG投資の拡大も、キャリアオーナーシップが注目を集める理由のひとつといえます。ESG投資とは「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の3つの要素を考慮した投資のことで、企業は特に社会に関連する人的資本(Human Capital)の情報開示を求められるケースが増えているようです。

2)日本企業におけるキャリア開発の現状

こうした背景のもと、日本の先進的な企業でも社員がキャリアオーナーシップを発揮するための取り組みが出てきています。とはいえ、一般社団法人日本経済団体連合会が2020年に行った人材育成に関するアンケートによると、74.1%の社員が「会社主導」のキャリア形成を行っており、「自律的」にキャリアを形成している割合は22.9%にとどまっているのが現状です。

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参照:一般社団法人日本経済団体連合会「人材育成に関するアンケート調査結果(2020年1月)

しかし、今後の方針については、「社員本人の自律性を重視したキャリア形成を基本とする」と答えた企業が62.9%。「会社主導を基本」と答えた企業は35.9%と、数字が逆転しています。

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参照:一般社団法人日本経済団体連合会「人材育成に関するアンケート調査結果(2020年1月)

また、社員のキャリア開発を進めるために「外部と連携して取り組むことを検討している」、または「すでに取り組んでいる」と、78.2%の企業が答えています。
多くの企業では、社員のキャリア開発促進のために外部の機関を活用し、社員が主体となって意欲的に取り組めるプランを検討中のようです。

3.キャリアオーナーシップの支援に企業が取り組むメリット

従業員のキャリアオーナーシップの支援に企業が取り組むことで、具体的にどのようなメリットが期待できるのでしょうか。
ここでは4つのポイントに分けて見ていきましょう。

1)モチベーションの向上

キャリアオーナーシップの支援を通して、従業員が自らのキャリアに対する主体性を持つことで、仕事への意味付けがされ、仕事に対する満足感や充実感の向上を見込めます。
キャリアオーナーシップを持ち、長期的な目線で日々の業務に取り組む従業員にとっては、そこで成果を出すことと、将来的な個人のビジョンの実現は地続きです。それによって、より高いモチベーションで業務の改善に取り組めるようになるケースも多くあります。

2)スキルや能力の向上

キャリアオーナーシップを支援する環境が企業に根付き、従業員の前向きなスキル開発を後押しできれば、仕事の生産性が向上します。
さらに、個々の能力や強みを最大限に発揮できる人材配置を行えれば、組織の活性化にもつながるでしょう。

3)人材の定着率の向上

キャリアオーナーシップを持って仕事に取り組んでいる社員が、自らのキャリアプランと企業の方針の重なりを認識していると、より深く業務にコミットするようになり、組織へのエンゲージメントが高まる傾向にあります。従業員の組織に対する信頼や愛着が深まれば、離職率の低下につながるでしょう。
さらに、会社がキャリアオーナーシップの概念を大切にし、従業員を積極的に支援していることが社外にも伝われば、優秀な人材の流入を見込めるでしょう。

4)組織の柔軟性や対応力向上

自身のキャリアについて主体的・能動的に考えて行動できるように従業員をサポートすることは、組織そのものの成長や発展にもつながります。
多様なスキルを持って自律的に動ける従業員が増えれば、変化する市場のニーズに現場社員が迅速かつ柔軟に対応できる組織として成長できるでしょう。

4.キャリアオーナーシップ支援の具体的な方法

キャリアオーナーシップを持つことを支援する施策は多岐にわたります。ここでは、よく用いられる5つの方法をご紹介します。

1)研修や面談を通じたキャリア意識の醸成

社内外におけるキャリア研修やキャリアカウンセリングなどを通して個々の従業員がキャリアを振り返ったり、将来をイメージしたりすることは、従業員自身が気づきを得て、今後の目標を持ち、それに向けた行動プロセスを決めていくためのベースとなります。
また、キャリアカウンセラーとの面談は、仕事以外を含む各ライフステージにおける課題の解決や改善を図るためにも有効です。

2)スキル獲得支援による自己実現機会の創出

自らのキャリアを主体的に考えて行動する上で、組織が自己啓発の奨励を図ることも重要です。
具体的には、キャリア形成につながる書籍購入やセミナー参加、語学スクールへの通学といった自己学習に対する手当や補助金制度を整える方法があります。
また、従業員にeラーニングのアカウントを付与し、費用を負担する企業も少なくありません。

3)越境の機会

従業員に「越境」の機会を与え、所属する組織の枠を越えた活動をサポートすることも、キャリアオーナーシップ支援の一環となります。

越境とは、従業員が慣れ親しんだ「ホーム」と、そこから離れた「アウェイ」を行き来することです。アウェイでは、ホームでは当たり前だった仕事の進め方や価値観が通用しないことも珍しくありません。そこで従業員が固定観念を解消しながらアイデンティティを変容させると、これまでにない物事の捉え方ができるようになります。
組織の枠に捉われずに越境を繰り返せば、個人として学び、成長し続けることができるのです。

越境学習による企業人材の育成は、経済産業省が推進する取り組みのひとつでもあります。経済産業省では、リーダーシップ育成や受講者同士の相互研鑽を目的とした越境学習のモデルプログラムを複数提供しています。

参照:経済産業省「越境学習によるVUCA時代の企業人材育成

4)フレキシブルな人事制度の導入

キャリアオーナーシップについて従業員が主体的に考えても、自身の望むキャリアに向けて行動を起こせる環境がなければ、その先につながりにくくなってしまいます。そのため、支援施策に下記のような人事制度を導入する組織も増えています。

<キャリアオーナーシップの支援につながる主な人事制度>

  • 社内公募制度
  • 社内FA制度
  • 社会人インターンシップ制度
  • 副業の許可

5.キャリアオーナーシップ支援の際の注意点

キャリアオーナーシップを持ち、自律した従業員にとって、魅力的な組織であり続けることができなければ、反対に離職を誘発してしまう可能性があります。従業員のキャリア支援を行う際に大切なのは、同時に企業の求心力を高め、維持するための施策です。

定期的な1on1ミーティングの実施や、柔軟な人事制度の運用を通して、実務やキャリアに対する主体性が生まれやすい環境を整えたり、中長期的に働きやすい組織へと改革したりすることがポイントとなります。このようなリテンションの強化によって従業員のモチベーションが向上し、離職率の低下および優秀な人材の確保にもつながっていくでしょう。

また、経営層とのコミュニケーションチャネルの設置も、リテンション強化には有効です。会社のメッセージを直接社員に伝える場を重要視し、若手社員が直接社長に質問する場を設けている企業もあるようです。

参考資料:「キャリア面談と評価面談の違い

6.変化する時代に必要不可欠なキャリアオーナーシップの考え方

グローバル化やデジタル化、AIなどのテクノロジーの進展により、現在は非常に変化の激しい時代にあるといえます。しかし、このような時代であっても、キャリアオーナーシップを持つ従業員は、環境変化に適応しながら自身の目指すキャリアを切り拓き、活躍し続ける人材になり得るのです。

その点を踏まえると、企業にとって従業員の自律的なキャリア形成の支援は、個人の成長や活躍の先にある、自社の成長やイノベーション創出にもつながる重要な施策です。キャリア開発支援への投資を行って、一人ひとりのキャリアオーナーシップの確立を促進していきましょう。
従業員個人の価値を高める支援は、社内で主体的に活躍する人材の増加にもつながるはずです。そうした社員が多い魅力的な環境を作ることができれば、結果として従業員エンゲージメントを高められるでしょう。

株式会社ライフワークスでは、従業員のキャリア自律を支援する人事担当者様に向けて、企業ごとの課題を明確にし、その解決に向けたソリューションをご提案しています。ぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事の編集担当

黄瀬 真理

黄瀬 真理

大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。

国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定

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