従業員サーベイとは?目的や意味、企業の人事戦略への活かし方を解説

従業員サーベイのメリットを理解し、人事戦略に導入しようとする企業が増えています。その背景はどのようなものでしょう?そもそも、従業員サーベイとは、何でしょうか?「サーベイ」は、リサーチ、アンケート、アセスメントの定義とどのように違うのかのポイントを徹底解説していきます。

2022.05.19
コラム

リサーチ、アンケート、アセスメントとの違い

サーベイとは、「測定」や「調査」を意味する言葉です。サーベイは、調べる対象を絞って、深く掘り下げるというよりは、全体像を幅広く把握するために実施されます。例えば、マーケティングサーベイは、特定の商品・サービスに対して、広くユーザーからの意見を吸い上げるために実施されます。また、自社の従業員に対して行う従業員サーベイは、従業員が自社に対して感じている事を吸い上げるために実施されます。この従業員サーベイでは、出来る限りすべての従業員が回答することが重要なポイントです。

リサーチとは、「調査」や「研究」を意味します。専門文献などを活用しつつ、調べる対象に焦点を当てて、より深い理解を得るための調査・研究のことです。主に、マーケティング分野で用いられる調査方法とされています。消費者のニーズを調査する目的や、競合他社分析などで、リサーチを行うケースが多いです。サーベイが、どちらかという全調査で、全体像を把握するのに対して、リサーチは、調べる対象に焦点を当てて、さらに深く理解するために行われます。

アンケートとは、「問い合わせ」や「調査」を意味する言葉です。人々の意見を調査するために、多数の人々に同じ質問を聞き、回答を求めることとされています。例えば、サービス・商品提供後の顧客満足度のアンケート調査や、研修実施後の理解度アンケート調査などに活用されます。アンケートの実施方法は様々です。最近では、Webを活用して幅広く、効率的に調査する方法や、6〜8人程度の対象者を集め、座談会形式で調査するグループインタビューなどの方法があります。

アセスメントとは、「評価」や「分析」を意味します。人や物事を客観的に評価・分析することです。例えば、従業員アセスメントでは、従業員の業績や能力を客観的に評価・分析し、人事考課や報酬につなげていくことを目的としています。また、環境分野では、製品や開発等が環境面でどのような影響を与えるか、事前に調査、予測、評価することを指します。

モラルサーベイ、エンゲージメントサーベイ、パルスサーベイの違い

従業員に向けたサーベイと言っても、モラルサーベイ、エンゲージメントサーベイ、パルスサーベイなど様々なサーベイが存在します。これらの違いのポイントは何でしょうか。

モラルサーベイとは、「企業の組織・職場管理に対して、従業員がどの程度満足しているか、また、どのような課題意識をもっているのかを科学的に調査・分析する手法」で、一般には「士気調査」ともいわれます。モラールとは「士気」のことです。このようにモラルサーベイでは、従業員の士気、モチベーションという概念を測定するサーベイとなります。

エンゲージメントサーベイとは、「従業員のエンゲージメントを定量化するための調査手法」とされています。エンゲージメントとは、英語では、「誓約」「約束」「契約」などの意味をもちます。つまり「深いつながりをもった関係」を示すものです。エンゲージメントサーベイでは、従業員の会社への愛着度、つながり、帰属度などを中心に調査します。モラルサーベイが、一般的に、従業員の士気・モチベーションを調査対象にする一方、エンゲージメントサーベイは、会社とのつながり・関係性を調査対象にするという違いがポイントでしょう。

パルスサーベイとは、「脈拍(パルス)のように、短期間に簡易な調査を繰り返すことで、絶え間なく変化していく従業員や現場の状況をいち早く知る調査手法」となります。上記のモラルサーベイやエンゲージメントサーベイが、年に1度程度実施されるのが一般的であるのに対して、パルスサーベイは、毎月、毎週実施されることもあります。調査の項目数は、少なく、回答時間も数分というケースが多いでしょう。

従業員サーベイの目的とメリット・デメリット

では、上記の従業員サーベイの目的、メリット・デメリットとは何なのでしょうか?

従業員サーベイの目的は、「会社に対する従業員の率直な意見を正しく把握し、対策を講じることによって、従業員の満足度を向上させること」と言えるでしょう。

また、そのメリットは、二つの側面があります。会社側のメリットとしては、従業員の満足度・モチベーションが高まることで、労働生産性の向上につながり、企業の業績につなげることができる点でしょう。また、従業員側のメリットとしては、会社に対しての率直な意見を伝える機会になり、従業員のニーズが会社の制度・施策に反映される点と言えるでしょう。

デメリットは、人事部などの実施部門、回答する従業員にそれなりの時間工数・負担をかけてしまうという点でしょう。しかし、従業員サーベイは、そのデメリットを上回るメリットがあると考えるのが一般的です。

効果的な従業員サーベイのポイント

では、従業員サーベイ実施にあたり、気を付けるべきポイントはあるのでしょうか?以下のポイントを踏まえたうえで、効果的に実施するのが成功のポイントでしょう。4つのポイントを解説していきます。

1)網羅

まずは網羅性です。従業員サーベイという趣旨からも、可能な限り多くの対象を含むという事が重要でしょう。例えば、正社員だけでの実施、管理職だけでの実施という従業員サーベイは、その実施効果をゆがめてしまう可能性がありますし、対象となっていない従業員の不満を抱く可能性はあります。可能な限り、働く従業員全てを従業員サーベイの対象とする必要がありそうです。もちろん、昨今増えている外国人従業員に対しても、日本語の理解が不十分であれば、英語版サーベイを実施していく配慮も重要でしょう。

2)妥当性

次に妥当性です。従業員サーベイ内容は、とりあえず一般的な設問・質問項目を多数用意しておけばいいというものではありません。現状の組織課題・人事課題に即して、ある程度仮説を立てて、設問項目を戦略的に用意しておく必要があるでしょう。また、そのためには、そもそもの実施目的を明確にしておくことが重要です。経営者、人事部門とサーベイ実施チームと密接な連携の上、課題を共有し、協力していくことが重要となってくるでしょう。

3)透明性

従業員サーベイ結果は、経営者や人事部門だけに閉じた状態にしておくことは、透明性という観点で好ましくありません。もちろん、個人を名指したコメントなどの公表は避けなければなりませんが、全体傾向がわかるもの、経年変化などは、全社公開するぐらいの透明性は必要でしょう。従業員サーベイはやるからには、透明性を持って、適切なタイミングで全体公表、フィードバックしていく姿勢が大事になるでしょう。

4)実現性

最後に実現性です。従業員サーベイ結果の課題を分析して、全体公表して、終了ではありません。従業員側も時間をかけて従業員サーベイの回答を行っているので、その結果に対して、相応の課題解決施策を実施していかねばならないでしょう。例えば、従業員の「やりがい」項目が経変変化で低いのであれば、その理由をしっかり分析し、例えば、人事評価制度を改定する、人材育成・スキル育成を強化する、ストレスチェックの仕組みを入れるなど、その理由に対応した具体的で最適な施策を実施していく必要があるでしょう。

仕事のやりがいの詳細については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
→仕事のやりがいとは?従業員が感じる瞬間と自分で見つける方法

この導入事例もチェック
→日本水産株式会社 「自立と自律」を人事ポリシーに、社員の状況を定量で把握しながらキャリア自律支援に注力

日本の人事戦略と今後の従業員サーベイ活用のポイント

今後の日本のビジネス戦略・人事戦略の課題としては「人的資本の最大活用」が挙げられるでしょう。人的資本経営とは、人材はコストではなく、価値の源泉であり、その価値を最大限に引き出すことを目指す経営手法とされています。いわゆる有形資産ではなく、無形資産である「人」を中心としたHCROI(Human Capital ROI)の概念が大事になってきています。人材を人「財」と表現する企業が増えたのもその一環でしょう。

「人を活かす」という観点では、従来のように、処遇や働きやすさを広く問う従業員満足度サーベイも大事ですが、従業員自らがより進んで貢献しようとする意欲を測るエンゲージメントを測るサーベイがより注目されてくるでしょう。経済産業省が主催した「経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会(2019年12月)」によれば、より組織開発とエンゲージメントの重要性が示されており、サーベイは、より企業と個人(従業員)の双方向の関係にフォーカスする方向性が示されていました。
(引用:経済産業省主催 経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会第2回

では、日本においては、人的資本、従業員のエンゲージメント度合いは十分なのでしょうか。残念ながら、様々な国際調査の比較では、日本人従業員のエンゲージメント度は決して高くありません。

例えば、2017年に米国の大手調査会社であるGallup社が発表した職場状況に関する国際比較調査によると、日本は「熱意のある」社員(Engaged)の割合6%に過ぎず、「全く熱意がない」社員(Actively Disengaged)が23%いるという結果が出ました。
(引用:Gallup report 2017, The State of the Japanese Workplace)

人的資本のエンゲージメント度合いが決して高いとは言えない日本において、従業員サーベイ、特にエンゲージメントサーベイを最大活用し、人的資本を最大化する取り組みは待ったなしの課題ではないでしょうか。

まとめ

従業員サーベイは、人的資本経営の重要性が叫ばれる時代に、重要な組織改善、人事戦略ツールになります。網羅性、妥当性、透明性、実現性の4つのポイントを加味し、最適な従業員サーベイ実施と対策を推進していくことで、組織の人事課題・問題点を可視化し、改善施策に反映することは重要になるでしょう。また、従業員の満足度だけでなく、「エンゲージメント」に焦点を当て、企業と個人の双方向の関係を強化していくことは、更に大切な課題となるでしょう。

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この記事の編集担当

黄瀬 真理

黄瀬 真理

大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。

国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定

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