セルフ・キャリアドックとは?実施方法や期待できる効果などを解説

IT化の進展や国際競争の激化などによる、変化の激しい現代において、企業はビジネスモデルや事業内容の大胆な変革を迫られています。そんな状況下で、従業員が社会や組織の変化を先取りする形で時代の変化に対応し、持てる能力を最大限に発揮していくために、自らのキャリアを深く見つめる機会が必要であるといわれています。そうした流れの中で生まれた、従業員のキャリア支援を目的とした企業における体型的な取り組みがセルフ・キャリアドックです。

今回は、セルフ・キャリアドックが注目されている背景や企業における実施方法、セルフ・キャリアドック導入によって期待できる効果などを解説します。

2023.08.21
コラム

1.セルフ・キャリアドックとは?

セルフ・キャリアドックとは、2016年に施行された改正職業能力開発促進法によって、従業員と企業の双方に義務付けられた制度のことです。具体的には、働き手一人ひとりが自分のキャリアや能力の開発に励み、同時に企業がその支援を行う取り組みです。

企業がセルフ・キャリアドックを行うことによって、従業員のキャリア形成や能力向上、組織の活性化や経営目標の実現などの効果が期待できるとされています。

2.セルフ・キャリアドックが注目されている背景

セルフ・キャリアドックが注目され、多くの企業で実践されている主な3つの背景について、それぞれ詳しく説明します。

1)改正職業能力開発促進法の施行

2016年の改正職業能力開発促進法の施行は、セルフ・キャリアドックが数多くの企業に注目されることになった大きな背景といえます。
改正職業能力開発促進のほうは、労働者に対して、自分のキャリア形成や能力開発に主体性を持って取り組むことを求め、また各企業に対しては、従業員のそうした主体的な取り組みへの支援を努力義務と規定しています。これによって、企業でセルフ・キャリアドックが徐々に注目されるようになりました。

2)労働力人口の減少

セルフ・キャリアドックが注目されている背景には、少子化による労働力人口の減少もあります。
厚生労働省の統計によると、日本の出生数は1970年代前半から減少に転じ、現在に至るまで減り続けています。それに伴い、各企業は事業やサービスを存続させるために、労働力の確保と限られた人員のさらなる活用を迫られるようになりました。その結果として、セルフ・キャリアドックに注力する企業が増えたといえます。

3)社会の急激な変化

新型コロナウイルスが感染拡大する以前からあった、グローバル化やIT化・DX化などの社会の急激な変化も、セルフ・キャリアドックが注目されている背景のひとつです。
昨今のITの急速な普及と進歩は、企業間の競争激化やビジネスモデルの目まぐるしい変化を生みました。それと同時に、そうした環境で勝ち抜くためのイノベーションの創出も求められています。

このような環境下では、従業員は自らの能力をアップデートし、社会の変化に適応しながら業務に励む必要があります。また、企業は従業員の能力発揮のための支援を行うことで、組織全体として社会のニーズに合わせた価値を発揮できるようになるのです。そういった仕組みづくりにおいて、セルフ・キャリアドックは有効です。

3.セルフ・キャリアドックの実施方法

セルフ・キャリアドックを実施する際には、いくつかのステップを踏んで進めていくことが肝心です。ここでは、セルフ・キャリアドックの一般的な実施方法をご紹介します。一つひとつのプロセスをおろそかにせず、着実に進めていきましょう。

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1)人材育成ビジョンと方針を明確化する

最初に、人材育成におけるビジョンと方針を明確にします。
そのために、まずは自社を取り巻く環境や状況から課題を探り出し、その解決に向けて必要な人材像を設定します。その上で、設定した人材像に近づけるために、人材育成のビジョンと方針を明らかにすることが大切です。このビジョンと方針は、さまざまな施策を検討するにあたり重要な判断基準となります。

また、ビジョンと方針が決定したら、従業員にきちんとアナウンスすることも大切です。あくまでも従業員の自律性・主体性を重視するキャリア支援であることも含め、きちんと周知しましょう。

2)実施計画の策定

ビジョンと方針が固まったら、次は具体的な実施計画を策定します。
実施計画の軸となるのは、キャリア研修とキャリアコンサルティング面談です。それぞれの実施対象やスケジュール、事前準備やアフターフォローをプランニングする必要があります。
それぞれの概要は、下記のとおりです。

・キャリア研修

これまでの自分の職業経験を振り返り、身につけた知識やスキル、未来のありたい姿に向けたキャリア上の課題などを整理する研修です。従業員はこの研修を受けて、自分の現在地の確認と今後のキャリアプランの作成にあたります。

キャリア研修については、下記の記事をご覧ください。
キャリア研修とは?目的と、実際に計画し実施するための方法とは

・キャリアコンサルティング面談

社内外のキャリアの専門家との面談です。作成されたキャリアプランに沿って、具体的に必要となる取り組みは何なのか、またどのように実施すべきかなどについて、面談を通じてサポートします。コンサルタントとの対話を通して得た気づきを、キャリアプランニングシートに反映させる場合もあります。

研修後のキャリアカウンセリングが有効な理由については、下記の記事をご覧ください。
キャリアカウンセリングとは。研修後のキャリアカウンセリングが有効な理由とは。

3)必要なツールの整備

実施計画ができたら、計画に沿って必要となるツールの整備を行います。
整備すべきツールとしては、面談時に使う面談シートがまず挙げられます。これは従業員へのキャリアに関する質問を並べた面談用のシートです。面談前に各従業員に書き込んでもらい、それをベースに面談を行います。
また、面談の結果を人事部に提出するための報告書も用意しましょう。従業員からの相談内容は守秘義務が課されますが、個人的な情報に属するものであっても、本人の同意があれば人事部への報告対象となります。面談時の質問に対する従業員からの回答も、同意を得られれば報告書に記載します。

上記に加えて、従業員からの面談の内容や進め方についてのフィードバックを記載するためのアンケート用紙も、余裕があれば準備しておくと便利です。この用紙があれば、面談を効果的にブラッシュアップしていくことができます。重ねて、プログラム全体の進行をきちんとチェックしたい場合は、進捗管理表を準備しておくのもおすすめです。

4)企業内インフラの整備

ツールの整備が完了したら、次はセルフ・キャリアドックをスムーズかつ着実に進めていくために必要な準備をしましょう。
セルフ・キャリアドックの実施内容によって必要な準備は変わるものの、ほとんどの場合で必要となる要素がいくつかあります。具体的には下記のとおりです。

・実施責任者の決定

セルフ・キャリアドックを実施する上での責任者を誰にするのか、あらかじめ決めておく必要があります。この責任者が施策を統括し、企業の人材育成全体に大きな影響力を及ぼすため、人事部門にこだわらず、社内から適任者を選ぶことが重要です。

・社内規定の明文化

セルフ・キャリアドックを自社の制度として運用していくためには、その方針や実施内容を明文化し、社内規定や就業規則に反映しておく必要があります。社内規定を整備しておけば、従業員への周知もスムーズに行うことができます。

・コンサルタントの確保

セルフ・キャリアドックを実施するには、専門知識を備えたキャリアコンサルタントが不可欠です。キャリアコンサルタントには公的資格取得者が望まれます。キャリアコンサルタントをアサインする際には、自社の経営戦略や人材育成ビジョン、人材育成に関する課題などを正しく理解してもらう必要があります。

5)セルフ・キャリアドックの実施

作成した計画に沿って、セルフ・キャリアドックを実施します。
もし、この段階でセルフ・キャリアドックの目的や意義が従業員に十分に理解されていない場合は、事前の研修やセミナーで補っておくのがおすすめです。

また従業員が安心して面談を受けられるよう、環境づくりにも配慮が必要です。従業員ができる限り周囲の目を気にすることなく本音で話せるよう、個室を用意しましょう。

6)フォローアップ

フォローアップは、面談と同等かそれ以上に大切なプロセスです。
セルフ・キャリアドックを実施したコンサルタントは、面談の内容を報告書にまとめ、人事部門に提出します。この報告書をベースに、各従業員のキャリアに関する傾向や志向を読み取るとともに、それに対して組織がどのように対応すべきかを検討することが重要です。

また、必要に応じて再度の面談を行ったり、組織的な改善策を作って関連部署と共有したりすることも大切です。こうした活動を継続することで、従業員個人や企業が抱える課題を少しずつ解決していきましょう。

4.セルフ・キャリアドック導入で期待できる効果

セルフ・キャリアドックは、正しく実施すれば従業員にも企業にもメリットをもたらします。
ここでは、セルフ・キャリアドック導入によって期待できる従業員側と企業側の双方への果について、それぞれご紹介します。

1)従業員への効果

セルフ・キャリアドックによって期待できる従業員側への主な効果は、下記のとおりです。

・キャリアの目標が明確になる

セルフ・キャリアドックを通して、従業員が自身の経験やスキルを整理することで、今後のキャリア設計を描くことができます。つまり現在地を確認した上で、これからどこを目指すかが明確になり、その実現に向けた行動をとれるようになるのです。

・キャリア自律につながる

セルフ・キャリアドックを通じて、各従業員が掲げる目標達成に向けて、どのようなスキルや経験・知識が必要なのか、あるいはどのように活躍したいのかが見えてきます。こうなれば、従業員自身が自律的にキャリアを設計しやすくなります。セルフ・キャリアドックの仕組みは、そのための気づきの機会になるのです。

・モチベーションの向上

セルフ・キャリアドックを通じて、自身が向かう目的地やそこに至るプロセス、必要な手段が明確になれば、日々の業務への意義を感じるようになります。この意識が仕事へのモチベーションを高め、働くことの充実感をより大きくしてくれるはずです。

2)企業への効果

セルフ・キャリアドックによって期待できる企業側への主な効果は、下記のとおりです。

・人的課題の顕在化

セルフ・キャリアドックを実施することで、個々の従業員のキャリアプランが明確になるとともに、各種人事制度が適切に機能しているかどうかを確認できます。
これは、現状を正しく捉え、潜在化していた問題を浮き彫りにし、課題を明確にして解決を図る機会となります。

・離職防止と人材の定着

従業員個人のキャリアプランを明確にし、企業が支援する仕組みを構築することで、必要な人材の離職を減らす効果も期待できます。セルフ・キャリアドックの取り組みを通して、従業員は企業が目指しているビジョンを理解できるようになり、また同時に、従業員個人の強みや志向について企業側の理解も深まるでしょう。これらのすり合わせを通して、企業と従業員の両者にとってより良い関係を探ることができるため、結果的に離職を減らすことができるのです。
またライフステージやキャリアの転機に合わせて研修を行うことで、長期的なキャリアを考えやすくなれば、人材の定着を図ることも容易になります。

・生産性の向上

従業員が自分自身のキャリアを主体的に考えることで、個人の能力の向上、ひいては全社的な生産性向上を目指せます。また何より、自社人材の能力をさらに引き出す効果が期待できます。

5. 各企業に適したアプローチで、セルフ・キャリアドックを効果的に実施しよう

セルフ・キャリアドックを実施することで、従業員にも企業にも、将来の明るい展望が期待できます。しかしながら、セルフ・キャリアドックの効果をより確実にするには、組織のどこにどんなキャリア課題があるのかを明確にし、キャリア開発研修やキャリアコンサルティング面談などの課題解決に向けた支援を設計することが必要です。

株式会社ライフワークスでは、人事担当者様を対象に、企業ごとに異なる従業員のキャリア課題を明確にし、その解決に向けたソリューションをご提案しています。企業内でのキャリアカウンセリングの活用法をまとめた資料などもご提供していますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事の編集担当

黄瀬 真理

黄瀬 真理

大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。

国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定

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