ワークエンゲージメントとは?高めるメリットや方法などを解説
企業の働き方改革が進み、コロナ禍以降のテレワークやフレックスタイム制導入の加速も相まって、多様な働き方が認められるようになってきました。しかし、その一方で「単にさまざまなワークスタイルを提供するだけでは、従業員の満足度を高められない」という声も聞こえます。そこで注目されはじめたのが、ワークエンゲージメントという概念です。
今回は、ワークエンゲージメントの概要や高めることのメリットとその具体的方法などについて、それぞれ詳しく解説します。
1.ワークエンゲージメントとは、仕事へのポジティブな心理状態の尺度のこと
ワークエンゲージメントとは、仕事に対してどれだけポジティブで充実した心理状態であるかを示す尺度のことで、オランダ・ユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ教授によって2002年に提唱されたものです。
ワークエンゲージメントの特徴としては、働く人が一時的に抱く感情ではなく、持続的で全般的な仕事に向けられた感情や認知を指している点が挙げられます。ワークエンゲージメントは働く人の業務効率や健康状態をも左右するため、従業員のパフォーマンス向上に大きく関わる要素として、近年は多くの企業からの注目を集めています。
2.ワークエンゲージメントの3つの要素
ワークエンゲージメントは3つの要素で構成されており、これらが満たされることでワークエンゲージメントが高まります。逆に、どれか1つでも満たされていないと、パフォーマンスや健康状態に支障をきたしかねません。
ここでは、ワークエンゲージメントの3つの要素について、それぞれ詳しくご紹介します。
1)活力(Vigor)
活力(Vigor)とは、仕事に臨むエネルギーが高い水準にあり、心理的な回復力を備えている中で努力ができることで、困難な課題に対しても積極的に解決しようと取り組める状態を指します。この状態のときには仕事から活力を得ることでストレスを感じにくく、楽しみながら働くことができるでしょう。
2)熱意(Dedication)
熱意(Dedication)とは、仕事にやりがいを見出しながら前のめりに取り組むことで、仕事への興味や探求心が高まっている状態を指します。この状態のときには常に仕事に向かう努力を継続できるため、知識をインプットしたり、キャリアや成果につなげたりすることができるでしょう。
3)没頭(Absorption)
没頭(Absorption)とは、仕事に取り組んでいる時に幸福感や「時間が早く経過する感覚」を味わえている状態を指します。集中して働くことで、業務の品質やスピードが向上するため、業務効率化や人為的なミスの削減にもつながるでしょう。
3.ワークエンゲージメントが注目される背景
ワークエンゲージメントが多くの企業から注目を集めているのは、なぜなのでしょうか。
ここでは、ワークエンゲージメントが注目される2つの背景について、それぞれ詳しく解説します。
1)価値観の多様化
価値観の多様化は、ワークエンゲージメントが注目される背景のひとつです。
1980年代初頭から1990年代半ばに生まれた「ミレニアル世代」と呼ばれる世代の人材がいま、社会に出て活躍しています。この世代はデジタルネイティブであり、インターネットで世界中とつながることが当たり前の環境で育ってきた世代です。ミレニアル世代の人々は画一的な日本の価値観にとらわれることなく、雇用スタイルや働くモチベーションについても多様な価値観を持ち合わせています。
さまざまな価値観を持つ従業員がやりがいをもって働くためには、従来の画一的なマネジメント方法では限りがあります。そのような流れから、一人ひとりの価値観を大切にするワークエンゲージメントの考え方に注目が集まるようになったのです。
2)企業と個人の関係性の変化
企業と個人の関係性の変化もまた、ワークエンゲージメントが注目される理由として挙げられます。
人生100年時代がうたわれている昨今の世の中において、個人の労働年数が企業の寿命より長くなることが当たり前になる日が近い将来に訪れるかもしれません。そのため、年功序列や終身雇用などの従来のシステムは、これまでのようには機能しなくなっていくはずです。そんな中で、企業はいかに優秀な人材を採用し、どのようにして人材を社内に留めておくかを考える必要があります。
このような企業と個人の関係性の変化によって、最近では個人の意思を尊重したキャリア設計を重要視する企業も増えてきており、企業と個人がフラットな関係になりつつあるのです。
4.ワークエンゲージメントの測定方法
ワークエンゲージメントを高めるためには、従業員が現状、どの程度のワークエンゲージメントを持っているのか測る必要があります。
ここでは、ワークエンゲージメントの代表的な測定方法を3つご紹介します。
1)UWES(Utrecht Work Engagement Scales)
UWES(Utrecht Work Engagement Scales)は、ワークエンゲージメントの測定に最も活用されているポピュラーな手法です。
UWESでは、先述したワークエンゲージメントの3要素をもとに作成された17項目の質問に回答することでワークエンゲージメントを測定します。具体的には「朝目覚めると、仕事に行こうという気持ちになるか?」などの仕事への活力を測るための質問に回答します。現在、UWESは日本語も含めた20の言語に訳され、短縮版や学生版も流通しています。
2)MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)
MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)は、ワークエンゲージメントそのものではなく、対極の概念であるバーンアウトを測定する手法です。このバーンアウトとは「燃え尽き症候群」とも訳され、仕事や会社に対する不満や疲労感から、ネガティブな感情が高まり、社会活動に向かう意欲を喪失してしまう状態を指すものです。
MBI-GSでは、バーンアウトの数値が低いほど、ワークエンゲージメントが高い状態といえます。具体的な内容としては、「消耗感(疲労感)」「冷笑的態度(シニシズム)」「職務効力感」の3つの尺度に紐づいて作成された16項目の質問に回答することで、バーンアウトの数値を測定します。
3)OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)
OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)も、MBI-GSと同様、直接ワークエンゲージメントを測定するのではなく、バーンアウトを測定する手法です。
OLBIの場合は、「消耗感」と「冷笑的態度」の2つの尺度に基づいて構成された質問に回答することで、バーンアウトを測定します。
5.ワークエンゲージメントを高めるメリット
ワークエンゲージメントを高めることで、企業は具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。
ここでは、企業が従業員のワークエンゲージメントを高めることで得られる4つのメリットについて、それぞれご紹介します。
1)従業員のメンタルヘルスケア
従業員のメンタルヘルスケアにつながる点は、ワークエンゲージメントを高めるメリットです。
近年、メンタルヘルスという概念が一般化し、企業ではストレスチェックを定期的に行い、メンタルヘルスの問題を早期発見できるようになりつつありますが、これはあくまで対処療法でしかありません。メンタルヘルスケアを実現するには、ストレスの発生そのものを予防する必要があります。
この点において、ワークエンゲージメントを高める取り組みは、メンタルヘルスの問題の予防策として非常に有効といえます。加えて、ワークエンゲージメントが高まることで、従業員は業務や私生活でのストレスを感じにくくなるため、結果的に「ストレスに強い従業員と企業」を生み出すことにもつながるのです。
2)業務の生産性向上
業務の生産性が高まる点も、ワークエンゲージメントを高めるメリットです。
ワークエンゲージメントを高めることは、従業員の学習意欲が高まり、業務パフォーマンスの向上にも直結します。企業全体の生産性向上にもつながる結果となり、業績アップの効果も期待できるでしょう。
また従業員のモチベーションも高水準で維持できるため、新たな仕事のアイディアを創出したり、ビジネスチャンスを拡大したり、企業の可能性を広げることにもつなげられます。
3)会社の離職率の低下
ワークエンゲージメントが高まれば、従業員は「この会社で長期的に働きたい」という気持ちが高まり、結果的に離職意思が低下するといえます。
厚生労働省が発行した「令和元年版 労働経済の分析」でも、新入社員の入社3年後の定着率や離職率は、ワークエンゲージメントスコアと相関関係があることが明らかになっています。従業員が辞めないということは、採用コストも抑えられます。中長期的な人材育成や経営計画を実現しやすくなるでしょう。
4)顧客満足度の向上
顧客満足度の向上にもつながる点は、ワークエンゲージメントを高めるメリットです。
ワークエンゲージメントの高い従業員が働く姿を顧客が目にすることで、顧客からの企業やサービスへの印象がポジティブになるでしょう。また、従業員一人ひとりのワークエンゲージメントが高い状態が続くことで、ポジティブな心理状態で仕事に励む企業文化が根付き、社内全体の活性化にもつながるため、結果的に商品やサービスそのものの質も向上するはずです。そのことから、ワークエンゲージメントの向上が結果的に顧客満足度の向上にもつながり、企業の信頼感を高めることができます。
6.ワークエンゲージメントを高める方法
ワークエンゲージメントを高めるには、どのようなことを行えばよいのでしょうか。
ここでは、ワークエンゲージメントを高めるために重要な2つの資源や、それぞれの資源を増やすための具体的な方法について、詳しく説明します。
1)仕事の資源を増やす
仕事の資源とは、上司や先輩、同僚、お客様などの外部の人から与えられる刺激のことを指します。
会社や社会から認められていたり、支援されていたりすることを認識できれば、目標の達成、個人の成長、労働意欲向上や活性化につなげることができます。
仕事の資源を増やすための具体的な方法としては、下記のとおりです。
・1on1やコーチングなどを通じた対話
上司と部下での1on1形式の対話は、仕事の資源を増やすのに有効な方法のひとつです。
1on1によって部下の状態を把握することで、部下の強みを知ることができ、その人に合った仕事を与えることができます。部下の状況を知り適切な支援ができる点や、部下の行動に対してタイムリーにフィードバックできる点も1on1のメリットです。また、対話の中で行動を促すコーチングの実行も、部下の仕事の資源を増やす方法といえます。
これらの1on1やコーチングなどの機会を通じて従業員とコンスタントに接点を持つことで、仕事の資源を増やすことにつながるのです。
・業務効率化
現状の仕事に無理や無駄がないかを確認し、可能なところはITツールに頼ったり、作業フローを見直ししたりするなどの業務効率化も、仕事の資源を増やす方法のひとつです。
・柔軟な働き方制度の導入
育児や介護、治療などのさまざまなライフステージの変化に対応できるような選択肢を、会社が増やしていくことによっても、仕事の資源は増えていきます。行うべきことの具体例としては、フレックス勤務や時短勤務、テレワーク併用などの導入が挙げられます。
2)個人の資源を増やす
個人の資源とは、ポジティブな心理状態を生み出すことで仕事へのモチベーションを高めるという働く人の内的要因に対するアプローチです。
個人の資源を増やすための具体的な方法としては、下記のとおりです。
・ジョブ・クラフティング
ジョブ・クラフティングとは、働く人の意識を「仕事をやらされている」という消極的なものではなく「働きがいを感じながら取り組んでいる」という積極的なものに捉え直すための手法です。仕事に対して意味づけができるようになることで、意欲や満足度が向上し、ストレス軽減や自尊心の充実につながるでしょう。
・タイムマネジメントやコミュニケーションのトレーニング
時間を有効活用するタイムマネジメントや職場で不可欠なコミュニケーションに関するトレーニングを実施することで、個人の資源を増やすことができます。これらのトレーニングによって、従業員一人ひとりが仕事をスムーズに進めるスキルを培うことができるでしょう。
7.ワークエンゲージメントの向上には、一人ひとりに合った方法を探ることが大切
ワークエンゲージメントとは、従業員が仕事に対してどれだけポジティブな心理状態であるかを示す尺度のことです。ワークエンゲージメント向上のためには、従業員との定期的な対話や業務効率化につながる取り組み、タイムマネジメントやコミュニケーションのトレーニングなど、一人ひとりの従業員の状況に合った方法をとることが大切です。
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この記事の編集担当
黄瀬 真理
大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。
国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定
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