若手社員が離職する理由とは?離職を防ぐ対策を解説
社会環境の変化や働き方・価値観の多様化により、かつて主流だった「定年まで勤め上げること」を前提に就職する人は減少し、よりよい労働環境を求めて転職することが当たり前になりつつあります。しかし、企業にとって人材は、持続的成長に不可欠な資産のひとつです。特に、将来を担う若手社員の離職は、大きな損失となります。人手不足が深刻化している今、若手社員の離職防止は喫緊の課題といえるでしょう。
今回は、若手社員の離職をめぐる現状や離職の原因、若手社員の離職を防ぐための対策について解説します。
1.企業における若手社員の離職のリスク
若手社員の離職は、企業にとって多くのリスクがあります。
費用面でのリスクもそのひとつで、採用や育成には相応の費用と時間を要します。もし、早期に離職されてしまうと、企業はそのコストを回収することができません。流出してしまった人材を新たに確保しようとしても、売り手市場の現在では時間がかかってしまいます。
また、SNSなどが普及し、個人が情報を発信する機会が増えたことにより、若手社員の定着率の低さが企業イメージの悪化をもたらすリスクも考える必要があるでしょう。
2.若手社員の離職をめぐる現状
若手社員の離職に頭を悩ませている企業も少なくありません。ここでは、若手社員の離職をめぐる現状について見ていきましょう。
1)新卒社員の3割が3年未満で離職している
厚生労働省の調査「新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)」によると、就職後3年以内の離職率は、高校卒業者で37.0%、大学卒業者で32.3%と、いずれも3割を超えています。つまり、新卒で入社した社員のおおよそ3人に1人は、3年以内という短期間で退職しているのです。
さらに、事業所の規模が小さくなるほど、就職後3年以内の離職率は高くなる傾向にあります。例えば、1,000人以上の規模の事業所の離職率は、高卒、大卒ともに20%台にとどまっているものの、5人未満の事業所では50%を超えています。
少子高齢化が進み、若い働き手の確保がより難しくなっているなかで、企業は若手社員の離職率の高さに悩まされている状況です。
2)社会環境や働き方の価値観が変化している
若手社員の高い離職率の背景として挙げられるのが、社会環境や働き方の価値観の変化です。
まず、少子高齢化が進む日本の企業では、終身雇用は崩壊しつつあります。そのため、入社後は定年まで働き続けるといった従来の価値観にとらわれず、転職によってキャリア構築をするという若手社員が増えています。
また、労働人口の減少によって、採用が売り手市場化したことも大きな変化です。各種転職支援サービスや転職情報サイトは充実し、SNSを活用した採用活動も増えています。求人情報へのアクセスが容易になったことから、若手社員の転職へのハードルは下がっているといえるでしょう。
3.若手社員が離職する理由
若手社員はどのような理由で離職をするのでしょうか。厚生労働省が示した「雇用の構造に関する実態調査(平成30年若年層雇用実態調査)」にある、若手社員が定年前に転職したいと思う理由は以下のグラフのとおりです。こちらの結果をもとに、主な理由について解説します。
参照:厚生労働省「雇用の構造に関する実態調査(平成30年若年者雇用実態調査)」
1)賃金や休暇などの労働条件が合わない
上記調査結果において、若手社員が転職したいと思う理由のトップは「賃金の条件がよい会社にかわりたい」で、56.4%に上りました。続く「労働時間・休日・休暇の条件がよい会社にかわりたい」は46.1%、「仕事が自分に合った会社にかわりたい」は41.6%と、やはり高い数値となっています。
若手社員は、ワークライフバランスを大切にする傾向にあります。年功序列の賃金制度が崩壊しつつあり、長期勤続によるインセンティブが低下している現状において、労働条件への不満は離職に直結する可能性が高いといえるでしょう。
2)キャリアアップや自己実現ができない
若手社員が転職したいと思う理由の上位には、「自分の技能・能力が活かせる会社にかわりたい」が35.5%、「将来性のある会社にかわりたい」が34.4%と、キャリアアップ志向の高まりや、企業で働くことを通じて自己実現したいとの思いがうかがえる理由もみられます。
仕事内容と本人の希望とのミスマッチや、企業に貢献できているという実感が持てないこと、成果を出しても評価されないと感じることなどによるモチベーション低下は、若手社員の離職につながりやすいでしょう。
上司と良好な関係性を構築することで、若手社員のモチベーションの維持・向上につながることも多くあります。上司が適切に若手社員の育成ができるように、企業が支援することも重要です。
管理職向けのキャリア面談支援研修については、下記の記事をご覧ください。
管理職向け 部下とのキャリア面談支援研修
3)人間関係がよくない
転職しようと思う理由として「人間関係のよい会社にかわりたい」と回答した若手社員は29.9%となっています。また、同調査によると、勤続1年未満で離職した若手社員の約4割が、「人間関係がよくなかった」ことを理由に挙げています。
多様な価値観を持つ傾向にあるZ世代が社会人となり、社内の人間関係構築において難しさを感じているのかもしれません。良好な人間関係を築けないと感じる状況が続き、その状況を抱えてしまうと、若手社員は離職を考えるようになる可能性があるといえるでしょう。
20代社員が抱えやすいキャリア課題については、下記の記事をご覧ください。
20代社員が抱えやすいキャリア課題と解決のポイント
4.若手社員の離職を防ぐ対策
若手社員が離職に至る理由は、ひとつだけとは限りません。離職を食い止めるためには、若手社員を取り巻く環境や離職の原因を理解した上で、多角的に対策を行うことが重要です。ここからは、若手社員の退職を防ぐ対策を紹介します。
1)ミスマッチを最小限にとどめる採用活動
若手社員の離職を防ぐ対策としては、ミスマッチを最小限にとどめることを意識して採用活動を行うことが挙げられます。
大切なのは、いかに入社後の理想と現実のギャップをなくすかということです。説明会や面接時に、自社の魅力ばかりをアピールしてしまうと、入社後にギャップを感じやすくなり、早期離職にもなりかねません。企業の風土、仕事内容、労働条件などの「実態」を、正しく伝えることをおすすめします。
口頭で伝えることが難しい社内の風土に関しては、インターンシップや会社見学、先輩社員との座談会などを設けて、雰囲気を実際に感じてもらうと入社後をイメージしやすくなるでしょう。
2)働きやすさと働きがいの向上
働きやすさと働きがいの向上は、若手社員の離職を防ぐ対策のひとつです。
厚生労働省が推進する働き方改革が浸透し、多くの企業において、若手社員が重視するワークライフバランスへの意識も高まりつつあります。転職サイトやSNSなどで企業の比較検討がしやすいこともあり、長時間労働や休日出勤の多い企業が避けられてしまうことは、想像に難くありません。
まずは、働きやすい環境を整備し、人事評価制度の見直し・透明化を行うことが有効です。納得できる評価制度があれば、モチベーションアップにつながり、優秀な若手社員の離職防止を図ることができるでしょう。
3)長期的なキャリアデザインの支援
若手社員の離職を防ぐためには、長期的なキャリアデザインの支援を行うことも効果的です。
企業の育成方針にもとづいて年代別に研修を行うだけではなく、一人ひとりが希望するキャリアプランを組織とすり合わせ、どのように実現していけばよいかをいっしょに考えることをおすすめします。その際は、個々のキャリアプランと、企業の目標との重なりを理解できる状態を作ることが重要です。
上司によるキャリア面談や、キャリアについて考える研修、スキルアップ研修などを実施し、若手社員のキャリアデザイン設計を支援する姿勢を示すとともに、必要に応じて、望むキャリアの実現に向けた具体的な支援や企業にある選択肢を示すとよいでしょう。
4)社内コミュニケーションの活性化
若手社員の離職を防止するには、社内コミュニケーションの活性化を図ることも重要です。
若手社員が上司や先輩社員と日常的にコミュニケーションをとりやすい環境があり、信頼関係が構築できていれば、不安や悩みを打ち明けやすく、何か問題があったとしても早めに解決に向けて動くことができるでしょう。
若手社員が相談しやすいように、先輩社員が業務だけではなく精神面のサポートも行うメンター制度を導入することも効果的です。また、それらの土台として社内でコンプライアンス違反やハラスメントがあっても、一人で抱え込むことのないよう、相談窓口を設置することもおすすめします。
5.適切なキャリア支援を実施し、若手社員の離職を防ごう
社会環境の変化や働き方、価値観の多様化に伴い、特に若手社員にとって、転職は当たり前のものになりつつあります。そうしたなかで、離職を防ぐためには、既存の制度の見直しや新たな制度の導入といったフレームワークの整備だけにとどまるのではなく、働きやすい環境を整えた上で、一人ひとりと向き合って対応する姿勢が重要です。
特に、若手社員は向上心が高く、仕事を通じた自己実現を重視する傾向にあります。若手社員の定着を図る上では、各自が思い描くキャリアを理解し、必要に応じてそれぞれに合った支援を行うことをおすすめします。
社内で若手社員の離職の対策が難しい場合は、外部の支援を取り入れることもひとつの方法です。
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この記事の編集担当
黄瀬 真理
大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。
国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定
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