社内公募制度とは?メリットや流れをわかりやすく解説

近年、多くの企業で社内公募制度が注目を集めています。社内公募制度を導入することで、社外から人材を採用するコストを削減できるだけでなく、社員の自律的なキャリア形成を促し、人材の定着やモチベーション向上につながると期待されています。
この記事では、社内公募制度と混同されやすいほかの人事制度・採用手法との違いや、社内公募制度が注目されている背景のほか、導入の流れ、メリット・デメリットなどについて解説します。

2024.12.13
コラム

1.社内公募制度とは社員が自ら希望するポジションに応募できる制度

社内公募制度は、社員が自らの意思で、人材を募集する部署へ応募する制度のことです。一般的に従来の人事異動は、企業主導で配属先が決定します。しかし、社内公募制度の場合は、本人の意思によって異動希望を出せることが大きな特徴です。

社内公募制度は、組織強化や社員のキャリア自律を促進するための人事制度として、多くの企業が導入しています。
運用方法は企業によって異なりますが、中途採用と同じように、人材要件を開示して人材を募集し、書類選考や面接といった選考プロセスを経て結果を通知するのが一般的です。

2.社内公募制度と混同されやすい人事制度や採用手法

社内公募制度としばしば混同される人事制度や採用手法として、社内FA制度や自己申告制度、リファラル採用があります。これらと社内公募制度との違いについて見ていきましょう。

1) 社内FA制度

社内FA制度は、社員が希望する部署に自分を売り込み、希望部署が社員を受け入れることで人事異動が実現する制度です。社内FA制度も社内公募制度もどちらも社内での人事異動を促進する制度ですが、社内FA制度は社員の主体性を重視しており、社員主導での異動を促進するのに対し、社内公募制度は企業主導での人材配置が行われる点で異なります。

また、対象や採用プロセスも異なります。一般的に社内FA制度を利用できるのはFA権のある社員です。自分が希望する部署に異動希望を出した後は、本人と希望部署間での調整が行われます。
一方、社内公募制度は全社員が対象ですが、応募できるのは人材募集をしている部署のみです。また、応募後は一般的な採用活動と同じように書類選考や面接、結果通知まで実施されます。

社内FA制度については、以下の記事をご覧ください。
社内FA制度とは?導入メリットや社内公募制度との違いを解説

2) 自己申告制度

自己申告制度は、社員が自分の業務経験や所有スキル、異動希望などを人事部門に申告する制度のことです。人事部門がキャリアプランや人事異動案などを作成する際のひとつの参考情報として用いられます。自己申告制度では、社員が自らのキャリアビジョンを企業に伝えることが目的であるため、異動希望を出したとしても、希望が検討されたかどうかは本人にはわかりません。
一方、社内公募制度では、社員が人材を必要とする部署のニーズに合えば人事異動が実現します。応募情報は選考のために用いられ、社員にも結果が伝えられます。
自己申告制度はキャリア希望の表明に留まり、社内公募制度は人事異動につながる可能性が高いという点が大きな違いです。

3) リファラル採用

リファラル採用は、社員が自分の人脈から自社にマッチすると感じた人材を紹介し、定められた選考プロセスを経て採用する手法のことです。社風や職場の雰囲気などを理解している社員が人材を紹介するため、リファラル採用で入社した社員は入社後に活躍しやすいという傾向があります。
リファラル採用と社内公募制度はいずれも企業が人材を確保するための手法ですが、リファラル採用は社外からの人材確保が目的であるのに対し、社内公募制度は社内の人材活用を目的としている点が異なります。

3.社内公募制度が注目されているのはなぜ?

日本では人口減少・少子高齢化が進行するなか、労働力の確保が深刻な課題になっており、採用活動が思うように進まないという企業も少なくありません。社内公募制度は人手不足という課題を解消するための対策のひとつとして、注目を集めています。
また、企業が急速に変化するビジネス環境に対応するには、自律的にキャリアを考えて、変化に柔軟に対応できる人材を育てていくことが求められます。そのため、社員の自律的なキャリア形成を促すことを目的に、社内公募制度を導入する企業もあります。
労働力人口は今後も加速度的に減少していくことが予想されていることから、企業内の労働力の最適化や自律的なキャリア形成が今後の人材マネジメントの重要なテーマになるでしょう。

4.社内公募制度の流れ

社内公募制度で実施する流れは、一般的な採用活動と大きくは変わりません。具体的な流れは以下のとおりです。

■社内公募制度を実施するためのステップ

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1) 公募要項の作成、告知

社内公募制度を実施するためには、まずは公募要項を策定します。具体的には、募集の背景、部署の説明、業務内容、必要なスキル・経験といった応募資格、応募期間、応募方法、選考プロセスなどです。
これらが決定したら、社内のポータルサイトやメール、掲示板といった社内広報によって、全社員に向けて告知をします。

2) 応募受付

人事部門など、窓口となる担当部署で応募の管理を行います。特に提出された書類は、応募者のプライバシーにも関わるため、厳重な管理が必要です。

3) 書類選考

次のステップは書類選考です。提出された応募書類をもとに、応募者のスキルや経験が公募要項にマッチするかどうかを確認します。応募者が多い場合はふるい分けを行い、選ばれた応募者のみが次の面接や試験に進みます。

4) 面接・試験

書類選考を通過した応募者に対して、面接や必要に応じて試験を行います。面接では、業務における遂行能力のほか、部署との適合性を見るケースが一般的です。具体的には、コミュニケーション能力やチームワーク力、今後のキャリアパスや仕事への価値観などを確認します。
試験が行われる場合は、技術的なスキルを測定する試験や、チームとの相性をみるためのアセスメントなどが用いられることもあります。

5) 結果通知

面接や試験が終了したら、応募者へ合否結果を通知します。採用となった内定者には新しい配置での業務開始日や、異動に伴う手続きなどを連絡します。不採用の応募者に対しては、モチベーションを低下させないように、不採用の理由を具体的にフィードバックしてフォローを行いましょう。

5.社内公募制度のメリット

社内公募制度を導入すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。導入における代表的なメリットを解説します。

1) キャリア自律の促進

社内公募制度の導入メリットとして、キャリア自律の促進につながりやすいという点が挙げられます。テクノロジーの発展や企業の組織・制度の変革、働き方の多様化などの影響もあり、多くの企業が力を入れているのが、キャリア自律支援の取り組みです。
社内公募制度の導入は、社員が主体的に行動する人材へと育ちやすい環境整備の手段のひとつになります。社内公募制度で内定をもらえた社員は、より主体的に仕事ができるようになる可能性が高まるでしょう。また、自身の成長と組織への貢献のためにどのような力を身に付け、どう活かしていけばよいかといった思考を促進するきっかけにもなりえます。

キャリア自律については、以下の記事をご覧ください。
キャリア自律とは?企業が支援する際の注意点やポイントを解説

2) エンゲージメント向上や離職リスクの低減

社内公募制度によって、社員が自らキャリアパスを選択しているという実感を得られれば、職場への満足感の向上、仕事へのモチベーション向上も期待できます。
また、キャリアの岐路に立つ社員が、転職ではなく部署異動という選択肢を持つこともできるため、結果的に離職のリスク軽減につながるといえるでしょう。

3) 採用コスト削減

採用コストが削減できることも、社内公募制度のメリットです。人材不足や転職手段の多様化を背景に、中途採用にかかるコストは増加しています。社内で人材ニーズが発生した際に、社外から人材採用を実施するのではなく、社員が異動することで適材適所の人事配置ができれば、採用コストの削減につながります。
また、社員なら、社内の基本的なルールや社風、組織やシステムなどを理解しているため、教育コストも抑えられるという側面もあるでしょう。

6.社内公募制度のデメリット

社内公募制度にはメリットがある一方で、デメリットも考えられます。代表的な2つのデメリットを解説します。

1) 人事部門の業務負担の増加

社内公募制度には、条件の決定・告知・選考・面接といった社外から人材採用をする場合と同じようなステップが必要です。そのため、窓口となる人事部門は業務の負担が増加します。また、応募者や異動先組織のフォローや問い合わせへの対応といった業務も生じる可能性があります。

2) 長期的育成計画への影響

社内公募制度は、長期的な育成計画に影響が及ぶこともデメリットといえます。人材の育成には一定の時間がかかります。組織の戦力として育成した社員が別の部署へ異動すれば、組織としては大きな損失になるでしょう。異動が発生した部署では、再び時間をかけて教育する必要性が出てきます。

7.社内公募制度を成功させるポイント

社内公募制度を導入する際は、どのようなポイントに気をつければいいのでしょうか。社内公募制度を成功させるポイントは以下のとおりです。

1) 選考基準の透明性・公正性

社内公募制度を導入する際に重要なポイントとなるのが、選考基準の透明性・公正性です。公募する際は、募集の背景や求めるスキル、選考プロセス、選考基準を全社員に向けて明示することが大切です。
選考基準の透明性・公平性が担保できれば、社内公募制度をチャンスと捉えて積極的に利用したいと考える社員が増えるかもしれません。そうなれば、社内公募制度が社内に浸透・定着しやすくなります。

2) 個人情報の厳重な取り扱い

人事部門と公募部署の責任者は、応募者の個人情報を厳重に取り扱わなければなりません。万が一、エントリー情報が所属する部署の上司などに知られてしまった場合、信頼関係の悪化を招くことも考えられます。そのため、社内公募制度の運用においては、応募者の情報をしっかりと管理することが大切です。

3) 十分なコミュニケーション

社内公募制度を成功させるためには、十分なコミュニケーションも重要なポイントになります。応募者は、異動が実現するのか不安を抱えているケースが多いため、選考状況をタイムリーに伝えたり、建設的なフィードバックを行ったりすることが大切です。
希望が叶わなかった応募者には、不採用の理由を具体的に説明するなど、丁寧なコミュニケーションを心掛け、モチベーションの低下を防ぐことも大切です。また、内定者には、異動が決まった段階で異動先での役割や期待値を共有し、異動後の活躍イメージを持てるようにコミュニケーションを図ることをおすすめします。

8.社員のキャリア自律を促進するために社内公募制度を活用しよう

社内公募制度は、組織強化や社員のキャリア自律を促進するために、多くの企業が導入しています。社内公募制度の導入を成功させるには、選考基準の透明性・公正性の担保と個人情報の厳重な取り扱い、十分なコミュニケーションの確保が重要です。社内に社内公募制度への理解が広まり、メリットを感じる社員が増加すれば、ポジティブな成果も期待できるでしょう。

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この記事の編集担当

黄瀬 真理

黄瀬 真理

大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。

国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定

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