65歳現役社会の組織マネジメント

法政大学大学院政策創造研究科の石山恒貴教授と当社とで進めている『ミドル・シニアの働きがい創造プロジェクト』の活動の一環として、今回のコラムは前回に引き続き同研究科石山研究室の岸田泰則様に寄稿頂きました。

2016.08.01
専門家コラム

1.65歳現役社会のマクロ経済面での課題

高年齢者雇用安定法が2004年、そして2012年に改正されたことにより、企業は65歳までの高年齢者雇用を義務づけられた。これにより現在では65歳現役社会が実現したが、今後は70歳現役社会を目指す方向性の議論がでてくる。そしてこの議論の先にあるゴールは「生涯現役社会」である。厚生労働省は2013年9月に健康づくり推進本部を設置し、「生涯現役社会」の実現を目指している。
高齢者雇用の促進は人口減少を続ける日本の経済にとって、労働力人口の維持のためにも長期的に必要な政策である。一方高齢者雇用の促進は若年者の雇用を奪うとする労働経済学の研究もある。短期的には高齢者雇用の促進が若年者雇用を阻害する可能性も指摘される。若年者の雇用機会の喪失を放置すれば人的資本レベルの長期的な低迷をもたらし、将来の日本の経済成長にマイナスの影響を及ぼすことも危惧される。そのため日本経済の発展のためには雇用の場における高齢者と若年者の共存が求められる。労働経済学者は高齢者雇用と若年者雇用の共存が必要であると説くが、共存のための具体的な対策を示すことができていない。

2.65歳現役社会の職場での課題

65歳現役社会の実現に伴い、企業の現場ではどのようなことが起きているのであろうか。いままでの日本型雇用の企業では年上の部下をもつ上司は稀であったが、昨今は全員年上の部下であるというケースも出てきており、年上の部下をもつことは当たり前のことになりつつある。一方年下の上司からみると、かつての上司が部下になるケースも多い。もともと団塊世代が退出した後に急遽マネージャーに据えられた年下の上司が多く、マネジメントの経験が浅いまま上司になるケースも目立つ。
このことにより、様々な問題や軋轢が企業の現場では起きている。年下の上司からはこのような声が聞こえてくる。

  • 過去の自慢話しかしないうえに、仕事では逃げてばかり
  • 独断で仕事を進め、報告すらしてくれない
  • 周りが忙しくてもマイペース、それをカバーする若手には不満が蓄積
  • 上司の揚げ足をとるばかりでなく、陰で昔の失敗談をヒソヒソ若手に言いふらす
  • 注意力散漫でミスばかり、そして言い訳だけは長けている

一方、シニア社員からはこのような声が聞こえてくるかもしれない。

  • いいサラリーマン人生だったのに、最後のところでお荷物扱い
  • 頭では割り切ったつもりでも、かつての部下に命令されるなんて
  • 最近の若いものはなっていない、聞く耳すらもっていない
  • 自分はまだまだ貢献できるのに、定年(年齢)で区切るなんて

このように、年下の上司と年上の部下からは相反する声が聞こえてくる。この相反する声の人たちが共存することができるのだろうか。
そもそも高齢者雇用と若年者雇用の共存を考えるうえで欠かせない視点は、現役世代にとって高齢者の姿は明日のわが身であるということにある。60歳前半層のシニアの職場における姿は、現役世代のモチベーションへも大きく影響を与えるであろう。また、65歳現役社会が実現した背景には高齢化すなわち長寿命化がある。そして健康寿命が延びている現代においては、60歳前半層はもはや高齢者とはいえない存在かもしれない。比較することは難しいとは思うが、2016年現在で60歳の人と、30年前の1986年時点で60歳だった人を比べると健康、体力ともに格段に違うのではないだろうか。その元気な60歳前半層の意欲、能力を活かさないことは、60歳前半層にとっても残念なことであるが、社会や企業にとっては大きな損失ともいえる。

3.企業における高齢者と若年者の共存

65歳現役社会を迎え、企業の現場では不安が多いわけであるが、われわれが行った企業へのインタビュー調査では高齢者雇用のメリット面の声も多く聞かれる。

  • 高齢者のほうが安定しており仕事能力が高い
  • 取引先と長い信頼関係を維持しており人望がある
  • 年配の方は忘れられた昔の技術のことを知っている
  • 過去の歴史を知っており、会社の規則や慣習のルーツを教えてくれる
  • シニア社員はマニュアルに書かれていないことを教えてくれる
  • 経験を蓄積してきた高齢者のほうが若年者よりも問題の本質を掴みやすい。
    そのためイノベーションを起こすには高齢者の声が欠かせない

(岸田、石山,2016)

これらは、高齢者雇用を促進してきた企業の経営者の意見である。これら高齢者雇用のメリットは、2つの能力に分けられる。1つは「第一線で働く能力」であり、もう1つは「現役世代の力になる能力」である。高齢・障害・求職者雇用支援機構のアンケート調査で60歳前半層への期待役割として、中小企業では「第一線で働く能力」が求められ、大企業では「現役世代の力になる能力」が求められる傾向が強いとの結果が出ている(高齢・ 障害・求職者雇用支援機構,2013)。
このように高齢者が企業の現場で受け入れられるには、この2つの能力のいずれかが必要になる。「第一線で働く能力」か「現役世代の力になる能力」のいずれかである。そして、われわれの研究ではこの2つの能力のいずれにおいても「高齢者の自律性」がキーとなっていることがわかりつつある。高齢者雇用を促進してきた企業へのインタビュー調査の結果、「高齢者の自律性」を高めることが「第一線で働く能力」につながり、ひいては「現役世代の力になる能力」へもつながるとのモデルが浮かび上がる(岸田、石山,2016)。
「高齢者の自律性」とは「高齢者が職場の諸課題を改善するために自発的に創意工夫を行うこと」ともいえる。ある企業では「高齢者の自律性」を高めるためにカウンセリングや研修を定期的に実施していた。このカウンセリングや研修のなかで高齢社員の役割を考え気づかせることに注力していた。ここから高齢者と若年者の共存のためには、企業側が高齢社員へ何らかの支援をすることが有効であることがわかる。また、この事例は高齢者に役割創造や役割変更をしてもらうことが、「高齢者の自律性」を高めることにつながるケースであった。この役割創造や役割変更を認識するということは、組織行動論の「ジョブクラフティング」という概念につながる。ジョブクラフティングとは、アメリカのイェール大学経営大学院のエイミー・レズネスキー准教授とミシガン大学のジェーン・E・ダットン教授が提起した概念であり、「従業員の仕事の役割・行動・範囲をジョブディスクリプションの範囲に限らずに、自分の意思で変化させること」を意味する(Wrzesniewski, A. & Dutton, J. E. ,2001)。ジョブクラフティングは、従業員に仕事の意義やアイデンティティーを考え直させるという影響を与える。ただしジョブクラフティングは、組織の目標・戦略と合致していなければ組織にとって有効性を発揮しないという。すなわち高齢者の自律性を高め高齢者に役割創造・役割変更を促す際には、企業からの従業員支援やコミュニケーションが欠かせないことがわかる。
われわれが行った企業へのインタビュー調査で、もう1つわかりつつあることがある。高齢者雇用と若年者雇用が共存している企業では、職場における対話が活発であった。職場の内部ではフラットな関係性が維持されており、外部へは開かれた組織文化を有していた(岸田、石山,2016)。そこには、神戸大学の鈴木竜太教授が提唱する「関わりあう職場」の論理を見ることができる。すなわち鈴木竜太教授のメッセージは「関わりあう職場が支援と勤勉と創意工夫を職場のメンバーに促す」ということである。このメッセージは高齢者にも適応できる。すなわち、対話により相互に関わりあうことが「高齢者の自律性」を促進するといえよう。今後、65歳現役社会、そして70歳現役社会へと移行する過程では、フラットで対話により関わりあいを増すことにより、高齢者が役割創造・役割変更を自発的に行うことが必要とされる。

参考、引用資料:

  • 岸田泰則・石山恒貴(2016)「高齢者と若年者が共存する職場のマネジメントの検討─中小企業の経営サイドからの分析」法政大学地域研究センター『地域イノベーション』No.8
  • 高齢・ 障害・求職者雇用支援機構(2013)『企業の高齢者の受 け入れ・教育訓練と高齢者の転職に関する調査研究報告書 ─ 高齢期のエンプロイアビリティ向上にむけた支援と労働 市場の整備に関する調査研究会報告書』
  • 鈴木竜太(2013)『関わりあう職場のマネジメント』有斐閣
  • Wrzesniewski, A. & Dutton, J. E. (2001) "Crafting a job: Revisioning employees as active crafters of their work", Academy of Management Review, Vol. 26, No. 2, 179―201.

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