キャリアアンカーとは?8タイプの特徴や診断方法、活用方法を解説
「キャリアアンカー」は、個人のキャリア形成において重要な概念のひとつです。キャリアアンカーは、社員のキャリア形成に役立つだけではなく、企業にとっても、人材育成や人員配置を行う際の参考情報として活用することが可能です。しかし、企業がキャリアアンカーを活用する際には、注意すべき点がいくつかあります。
この記事では、キャリアアンカーの概念と8つのタイプの特徴、診断方法のほか、企業がキャリアアンカーを活用する際の注意点などについて解説します。
1.キャリアアンカーとは、個人がキャリアを選択・形成する上で最も大切にする価値観
キャリアアンカー(career anchor)とは、「キャリアを選択・形成する上で何を最も大切にするか」という価値観のことを指します。米国の組織心理学者であるエドガー・ヘンリー・シャインによって提唱されたキャリア理論の概念です。
「アンカー(anchor)」とは、英語で船のいかりという意味です。アンカー(いかり)は、風や潮流によって船が流されるのを防ぐ役割を果たします。キャリアにおけるアンカーは、自分の働き方の軸となるものです。キャリアの海で自分が流されないようにするには、アンカー(仕事に対する価値観)が重要であるといえます。
また、キャリアアンカーは個人だけではなく、企業にとっても有益です。社員の価値観を知るためのひとつの参考情報として、キャリアアンカーの視点を取り入れている企業もあるでしょう。
キャリアアンカーは、3つの要素「コンピタンス」「動機」「価値観」にもとづいて、8種類のカテゴリーに分類されます。これらを分析することで、自分らしく生きるための軸や、キャリアで譲れない価値観を把握することができるでしょう。
2.キャリアアンカーの3要素
キャリアアンカーを考える際にベースとなるのが、「コンピタンス」「動機」「価値観」という3要素です。下の図のように、この3つの要素が重なる部分を、働く上での軸とすることで、仕事に対する満足度が高まると考えられています。キャリアアンカーの3要素について、詳しく見ていきましょう。
■キャリアアンカーの3要素
1)コンピタンス
コンピタンスとは、自分の才能やスキル、強みのことです。キャリアアンカーにおいては、「自分は何が得意なのか」「自分の核となる能力は何か」を見極めます。コンピタンスを持つことで、仕事に対する自信とモチベーションが高まると考えられています。
2)動機
動機とは、「自分自身が何をしたいのか」「何に関心があるのか」という自己実現に向けた欲求のことです。仕事の方向性だけではなく、人生の目標なども含みます。動機と重なる仕事をすることで、高い満足感や達成感が得られるでしょう。
動機には、外部や他者からの影響で発生する「外発的動機」と、自分の内側から湧いてくる「内発的動機」があります。いずれも大切な要素ですが、なかでも、内側から湧き上がる欲求に沿って行動することで、やりがいを感じやすくなります。
3)価値観
価値観とは、自分が大切にする信念のことを指します。「自分が何に価値を感じるのか」「何を重視するのか」という、行動や意思決定をする上での軸になるものです。価値観を大事にして仕事をすることで、自分の仕事に意義を感じやすくなり、目標達成に向けたモチベーションが高まります。
3.キャリアアンカーの8つのタイプ
キャリアアンカーは8つのタイプに分類されます。この分類は、原則として、1人につき1タイプのアンカーが該当するものとして作られています。8つのタイプの詳細は、以下のとおりです。
1) 専門・職能別能力
専門・職能別能力タイプは、専門的なスキルや知識を活かしたいと考え、特定の分野のエキスパートを目指すタイプです。このタイプの人は、専門性や技術力を高めることに価値を見出し、昇進して管理職になるよりも、現場で活躍し続けることを好む傾向があります。
2) 経営管理能力
組織のなかで責任ある役割を担うことに意義を見いだすのが、経営管理能力タイプです。専門的な仕事に特化するよりも、経営者やマネージャーを目指すなど管理職としてのキャリアを望む傾向があります。
3)自律・独立
自律・独立タイプに分類される人は、自分のスタイルで仕事を進めることを重視します。組織の目的や目標に同意していたとしても、集団行動よりひとりでの行動を好むことが多いでしょう。組織のルールや規則に縛られず、自分のペースを守って仕事をすることに重きを置くタイプといえます。
4)保障・安定
大きな変化を望まず、社会的・経済的な安定を重視するのが、保障・安定タイプです。このタイプの人は、堅実な性格であることが多く、安定した組織に長期的に所属することを望みます。危機管理に長けており、リスクマネジメントの分野で力を発揮することも多いでしょう。
5)起業家的創造性
起業家的創造性タイプは、独創性があり、新しいことを生み出したいと考えます。リスクをおそれずクリエイティブな挑戦を続けることができ、目的実現のためには大きな変化や困難な状況もいとわない傾向があります。新製品開発や新規事業の立ち上げに向いているタイプといえるでしょう。
6)奉仕・社会貢献
自分の仕事を通して、社会に貢献したいと考えるのが、奉仕・社会貢献タイプです。世の中のためになることや人の役に立つことに大きな価値を置き、誠意のない対応や内部不正を見過ごせない傾向があります。出世や報酬、労働環境よりも、自分の価値観に合った仕事の内容を重視します。社会貢献度の高い仕事や人をサポートする仕事において能力を発揮しやすいでしょう。
7)純粋な挑戦
純粋な挑戦タイプは、困難なことにあえて挑戦し、そこから受ける刺激に喜びを感じます。ルーティンワークを好まず、困難な課題の解決や、そのための自分磨きなどを重視する傾向があります。たとえハードワークになっても、自分にとって挑戦しがいのあるテーマに対しては、とことん取り組むことが多いでしょう。
8)ワークライフバランス
仕事とプライベートの両立を重視するのが、ワークライフバランスタイプです。生活スタイルが確立しており、熱心に仕事に打ち込むものの、私生活とのバランスを大事にします。プライベートの充実によって仕事へのモチベーションが上がる傾向があるため、柔軟な働き方ができる職場が向いているといえるでしょう。
4.キャリアアンカーの診断方法
自分のキャリアアンカーは、「コンピタンス」「動機」「価値観」という3つの要素を深掘りしていくことで、傾向をつかむことが可能です。
自分のキャリアアンカーがわからない場合は、アンケート形式のチェックシートの設問に答えて該当するタイプを導き出す方法があります。キャリアアンカーのチェックシートは、インターネット上で無料ダウンロードできるものも多くあるので、活用してみてもいいでしょう。
チェックシートでは、40問の設問に対して、それぞれ6段階評価で最も該当する数字を直感で選びます。そして、キャリアアンカーの8つのタイプごとに合計点を計算し、どのタイプが自分に最も当てはまっているかを診断します。
設問の例には次のようなものがあり、「どの程度そう思うか」という度合いに応じて、数字で回答します。
<設問例>
「キャリアを通じて、ほかの人々のために自分の才能を役立てることができたときに、最も大きな充実感を自分のキャリアに感じる」
<回答例>
全然そう思わない...1
そう思わないことが多い...2
どちらかというとそう思わない...3
どちらかというとそう思う...4
よくそう思う...5
いつもそう思う...6
一般的に、キャリアアンカーが確立するのは30代頃で、それ以降は仮に周囲の環境が変化したとしても、軸となる価値観は大きく揺らぐことはないとされています。
5.キャリアアンカーの活用方法
キャリアアンカーは、ただ把握するだけではなく、実際にキャリア形成に活かしていくことが大切です。社員と企業のそれぞれにとって、キャリアアンカーをどのように活用すればいいかを見ていきましょう。
1)キャリアデザイン
社員個人の場合、キャリアアンカーは、適職を知るきっかけとして活用されます。キャリアアンカーを活用して自己分析を進めると、「自分が本当に成し遂げたいことは何か」「仕事において譲れないことは何か」といったことを考えるヒントになります。人によっては、現在の仕事とは方向性が違っていたり、意外な診断結果が出たりして、今後のキャリアを見つめ直す機会になるかもしれません。人生におけるキャリアデザインを描く上で、有益な手段のひとつといえるでしょう。
2)人材育成
キャリアアンカーは、企業が人材育成をはじめとした研修を行う際の題材としても多く活用されています。例えば、社員に自分のキャリアアンカーを振り返るセッションを研修に取り入れることで、自己洞察や自己理解の深化につながりやすくなります。
また、研修後に上司が部下とキャリアアンカーについて話すといったように、キャリアアンカーをヒントに一人ひとりと関わることができれば、より個人に適した支援がしやすくなるでしょう。
人材育成の方法については、下記の記事をご覧ください。
人材育成の方法とは?考え方や具体的な取り組みを解説
3)人員配置や異動
企業は、キャリアアンカーを参考情報のひとつとして人員配置や人事異動に活用する方法もあります。上述した研修などにより社員のキャリアアンカーを知ると、それぞれが希望する働き方や仕事に対する価値観をつかむことができます。社員それぞれのタイプや価値観を理解することで、適材適所の人員配置を行いやすくなるでしょう。
6.企業がキャリアアンカーを活用する際の注意点
企業がキャリアアンカーを参考情報として活用する際には、気をつけたいいくつかのポイントがあります。キャリアアンカーの活用を検討するにあたり、以下の注意点を確認しておきましょう。
1)キャリアアンカーの診断結果だけを判断基準にしない
企業がキャリアアンカーを活用する上で注意しなければいけないのが、「キャリアアンカーだけを判断基準にしない」ということです。キャリアアンカーは、仕事に対する考え方を知るための指標のひとつであり、その人のすべてを表すものではありません。8つのタイプのうちいずれかに当てはまっても、「ほかのタイプにも共感できる」というケースもあります。
キャリアアンカーの診断結果だけで決めつけず、キャリア面談なども交えて、包括的なキャリア支援を行うことを基本におきましょう。
キャリア面談については、下記の記事をご覧ください。
キャリア面談とは?目的や進め方、成功のためのポイントを解説
2)キャリアアンカーのタイプに良し悪しはない
キャリアアンカーの診断結果は、あくまでキャリアに対する価値観であり、どのタイプが良い、悪い、という使い方をするものではありません。キャリアアンカーのタイプごとの傾向を知り、「タイプによってどのような活躍がさらに期待できるか」といった視点で、参考情報のひとつとして活用するとよいでしょう。
7.キャリアアンカーを社員のキャリア支援のヒントとして活用しよう
キャリアアンカーとは、働く上で最も重視する価値観のことです。キャリアアンカーには8つのタイプがあり、どのタイプに該当するかを診断することで、自分自身を見つめ直し、今後のキャリア形成を考えるきっかけやヒントになるでしょう。
また、社員個人だけではなく、企業にとっても、キャリアアンカーをヒントとして、人材育成や人員配置に活用することで、社員のモチベーションが極端に下がるようなことを防ぐ一助とできるかもしれません。社員のキャリア形成を支援することは、組織全体の成長にもつながります。仕事に対する価値観を測るひとつの指標として、キャリアアンカーを活用してみてはいかがでしょうか。
株式会社ライフワークスでは、社員(従業員)のキャリア支援を検討・実施する方に向けて、さまざまなソリューションを提供しています。社員の自律的なキャリア形成を支援する「キャリア開発研修」もそのひとつです。一人ひとりがキャリアを考えることは、スキルや知識・経験を意欲的に身に付け、成長することとも強く結びついています。人材育成を検討する際に参考になる資料も提供していますので、ぜひお問い合わせください。
この記事の編集担当
黄瀬 真理
大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。
国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定
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