キャリア自律を求めるなら、会社も「選ばれる覚悟」を持つ ― 個人と組織は、選び・選ばれる対等な関係へ ―

2026.09.17
コラム

ライフワークス 執行役員の佐々木です。

企業の人事施策の中で、「キャリア自律」という言葉を目にする機会が増えました。

自分のキャリアは自分で考える。
自ら学ぶ。
自ら挑戦する。
自律的に働く。

どれも重要なことだと思います。

一方で、企業側のメッセージを聞いていると、ときどき違和感を持つことがあります。

「もっと自律的にキャリアを考えてほしい」

と言いながら、

「でも、優秀な人には辞めてほしくない」

とも言う。

「自分の意思で挑戦してほしい」

と言いながら、

「会社が期待する方向に挑戦してほしい」

と考えている。

もしそうだとしたら、それは本当にキャリア自律を求めているのでしょうか。

私は、キャリア自律を本気で求めるのであれば、組織側にも覚悟が必要だと考えています。

自律するとは、「会社を選ばない自由」も持つこと

キャリア自律とは、自分のキャリアを自分で考え、選ぶことです。

その選択肢の中には、

この会社に残る。
異動する。
新しい役割に挑戦する。
働き方を変える。

といった選択だけではなく、

この会社を離れる

という選択も含まれます。

それは当然のことです。

にもかかわらず、

「社員には自律してほしい。しかし、辞めるという選択はしてほしくない」

と考えるのであれば、そこには矛盾があります。

自律を求めるということは、個人に選択権を渡すということです。

そして選択権を渡す以上、自社が選ばれない可能性も受け入れなければなりません。

「辞めないようにする」と「選ばれる」は違う

企業では、リテンションという言葉がよく使われます。

優秀な人材に残ってもらうことは、もちろん経営上重要です。

しかし私は、

「辞められないようにすること」と「選ばれ続けること」は、まったく違う

と考えています。

制度で囲い込む。
選択肢を狭める。
転職しづらい状態をつくる。

そうすれば、人は会社に残るかもしれません。

しかし、それは「選ばれている」と言えるのでしょうか。

個人が、

「別の会社へ行くこともできる」
「違う仕事を選ぶこともできる」

という選択肢を持ちながら、

「それでも私は、この会社で働きたい」

と選んでいる。

そこに初めて、個人と組織の対等な関係が生まれるのだと思います。

早期退職制度で、優秀な人が辞める?

例えば、早期退職制度を実施すると、

「辞めてほしくない優秀な人まで辞めてしまう」

という話を聞くことがあります。

人事としては当然、事業への影響を懸念するでしょう。

ただ、そのときに考えるべきことがあります。

早期退職制度によって、その人が突然「辞めたい人」になったわけではありません。

制度によって、

「この会社に残るのか、それとも別の道を選ぶのか」

を改めて考える機会が生まれただけです。

そして、その結果として外を選んだのであれば、

「どうすれば辞めさせずに済んだのか」

だけを考えるのではなく、

「なぜ私たちは、その人から選ばれなかったのか」

を考える必要があるのではないでしょうか。

キャリア研修も、会社に都合のいい制度になっていないか

これは、キャリア研修にも同じことが言えます。

「社員に自分のキャリアを考えてほしい」

という目的で研修を実施する。

しかし、研修を受けた結果、

「自分のキャリアを考えたら、この会社以外にも可能性があることに気づいた」

という社員が現れたとき、

「キャリア研修をすると辞めてしまう」

と捉えてしまう。

もしそうであれば、キャリア自律を少し都合よく使っているのかもしれません。

もちろん企業には、自社で活躍してもらいたいという思いがあります。

それ自体は自然です。

しかし、

「自分で考えてほしい。ただし、結論はこの会社に残ることであってほしい」

というのであれば、それは自律ではありません。

個人の自律を本気で支援するのであれば、本人がどのような結論を出すかまで、組織が決めることはできないのだと思います。

組織にも「自律」が必要なのではないか

キャリア自律というと、個人ばかりに変化を求めがちです。

しかし私は、組織にも同じことが問われていると思います。

社員が辞めないことを前提にしない。

優秀な人材を囲い込むことを前提にしない。

会社の看板だけで、人が残ってくれることを前提にしない。

そのうえで、

「私たちは、どんな会社でありたいのか」
「なぜ、この会社で働く価値があるのか」
「個人に何を提供できるのか」

を考える。

個人が自分の市場価値を高めるように、組織もまた、働く人から見た自らの価値を高め続ける。

キャリア自律を個人だけの課題にしてはいけないのだと思います。

個人は「選ばれる個人」へ。会社は「選ばれる会社」へ

私は、個人と組織の関係は、これからますます対等になっていくと考えています。

個人は会社に人生を預けない。

だから、自分の能力を磨き、自分の意思を持ち、どこでも価値を発揮できる存在になる。

一方で会社は、個人を保有しようとしない。

だからこそ、働く人から、

「ここで働き続けたい」

と思ってもらえる会社になる。

個人は、選ばれる個人になる。

組織は、選ばれる組織になる。

そのうえで、

互いに選択肢を持ちながら、それでも一緒に働くことを選ぶ。

私は、それがキャリア自律を前提とした、個人と組織の新しい関係だと思っています。

自律した個人を求めるなら、組織も変わらなければならない

社員に、

「自律してほしい」
「自分のキャリアを自分で考えてほしい」

と求めるのであれば、

会社もまた、

「あなたがこの会社を選ばない可能性がある」

という事実を引き受けなければならない。

そして、選択肢を奪うのではなく、

それでも選ばれる会社になる。

キャリア自律は、個人だけに責任を求める考え方ではありません。

個人と組織の双方に、

自ら選び、選ばれる責任を求める考え方

なのではないでしょうか。

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著者:佐々木 淳

佐々木淳大学卒業後、一貫して人材業界で20年。主にIT業界やコンシューマサービス業界大手企業の採用コンサルティングを10年あまり手掛ける。その後、ライフワークスに入社。年代別のキャリア支援や、上司向け部下のキャリア開発支援などといったソフト面の施策企画提案に幅広く携わる。大手を中心に幅広い業界のクライアントに対するコンサルティング実績を持つ。
現在は、年間約200社のキャリア課題解決に向けた施策立案の責任者として従事。

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