終身雇用制度の現状(メリット・デメリット)から見る人事制度と、これからの在り方について

日本型雇用システムの一つとして、代表的なものが「終身雇用制度」ではないでしょうか。
しかし、現在は「ジョブ型採用」や「成果主義」の導入などを背景に終身雇用制度の崩壊が囁かれるようになってまいりました。
本記事では、終身雇用のメリット/デメリットを踏まえながらこの先の時代だからこそ押さえるべき、人事制度のポイントをご紹介いたします。
改めて、自社の制度はどうだったらよいか、考えるきっかけにしていただけましたら幸いです。

2022.04.12
コラム

終身雇用とは

終身雇用とは、企業倒産が発生しないかぎり、企業が社員を解雇せず、定年まで雇い続ける仕組み・制度とされています。終身雇用という制度は、たとえ企業の中で昇進ができず、役職が付かなくても、その社員を組織の中で、しっかり定年まで面倒を見ていく制度であり、日本型雇用制度の根幹ともいわれてきました。

また、「終身雇用」は、「年功序列」「企業内組合」とともに、日本型の雇用管理の特徴を示すものとして、日本的経営の「三種の神器」とも呼ばれてきました。

終身雇用は、日本だけの特殊な制度かと思われがちですが、かつて、20世紀前半のアメリカ等の欧米諸国でも、日本と同じような終身雇用の形態が存在していたと言われています。産業構造の変化がいち早く起こった欧米では、終身雇用制度は存在していたものの、日本に比べると、かなり早い段階で終身雇用制度が終焉したという見方もありそうです。

日本では、2022年現在でも、完全に終身雇用制度が終焉したわけではありません。終身雇用制度のメリットを維持した人事制度もまだまだ存在しています。一方で、急激な時代の変化に合わせて、そのデメリットを克服し、改善する取り組みもされています。そんな終身雇用制度のメリット、デメリットは現状どうなっているのでしょうか?また、この激動の時代、これからの在るべき姿は、どうなっていくのでしょうか。

終身雇用のメリットとデメリット

日本型の雇用管理の特徴でもあった終身雇用制度の仕組みですが、次のようなメリットと、デメリットがありそうです。

1)終身雇用制度のメリット

  • 社員に雇用の安心感を与え、安定して仕事に専念できる
  • 社員が人事異動を経験し、様々な社内の経験を積むことで、社内特有のスキルが高まる
  • 社員を長期的観点で育成できる
  • 社員からの会社に対する、忠誠心・帰属意識が高まる
  • 勤続年が長くなるにつれ、社員の処遇・賃金が増していくことでモチベーションにつながる

2)終身雇用のデメリット

  • 社員に安心感が生まれるが、社員によっては、努力を怠りやすい
  • 人材が同質化し、イノベーションが起こりにくい
  • 組織が硬直化しやすい
  • 勤続年が長い社員の処遇・賃金が高くなり、若手社員の処遇が低くなる傾向にある

上記のように終身雇用制度は、メリットもあり、デメリットもあります。そのメリットを生かす形で、日本企業には、まだまだ様々な人事制度が根強く残っています。終身雇用制度の考え方は、完全に崩壊したわけではなく、人事制度の根幹として、まだ多くの日本企業の人事制度に根付いているのです。

労働政策研究報告書No210(2021)によれば、次のように述べられています。

「JILPT の前身に当たる日本労働研究機構が実施した『第 1 回勤労生活に関する調査』(1999 年)によれば、「終身雇用」は良いこととして高い支持を得ている。しかも、その支持の高さは 2015 年の第 7 回調査までの間に低下するどころか上昇傾向を示している」とされています。つまり、ここからみても、終身雇用制度が完全に崩壊したわけではないことを示唆しています。
(引用:労働政策研究報告書No.210『長期雇用社会のゆくえ―脱工業化と未婚化の帰結』|労働政策研究・研修機構(JILPT))

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終身雇用的慣行がまだ根付いている人事制度とは

例えば、終身雇用制度的な慣行がまだ残っている人事制度として、主に以下4点が挙げられるでしょう。

1) 新卒一括採用制度
2)長期育成観点の教育体系
3)メンバーシップ型人事
4)能力主義の人事評価

1) 新卒一括採用制度

一定規模以上の多くの企業が、新卒一括採用制度を維持しています。まだまだ、中途採用制度だけで、事業に必要な人員を確保する企業は少ないのではないでしょうか。この背景には、企業側が、新卒で社員を採用し、じっくり長期的に育てていきたいという意図もありそうです。

一般社団法人 日本経済団体連合会による採用と大学改革への期待に関するアンケート結果(対象:経団連全会員企業/実施期間:2021年8月4日~10月1日)によれば、「新卒一括採用」の実施割合は、約91%であり、今後割合は減る見込みはあるものの、まだ採用手法の主流であることがわかります。
(引用:一般社団法人 日本経済団体連合会による採用と大学改革への期待に関するアンケート

2) 長期育成観点の教育体系

また、多くの日本企業の教育体系図を覗くと、長期的な雇用を前提とした教育・育成の仕組みが見えてきます。例えば、充実した入社時研修、2年目から3年目の若手研修、階層別研修、管理職研修、昇進者研修などです。これらは、各々のキャリアステージの段階で社員を長期的育成の視野に立って、育てていきたいという意図をもって、構築されているものと言えるでしょう。

3)メンバーシップ型人事

メンバーシップ型人事とは、業務内容・勤務地などを敢えて明確に定めず、社内の人事異動を柔軟に実施し、ゼネラリストを育て、相互の長期的な人間関係を重視する人事のあり方です。まだまだ、日本の多くの企業は、メンバーシップ型の考え方で、運営されていると言われています。このメンバーシップ型の在り方も、長期的な終身雇用の考え方が背景にあると考えられています。

4)能力主義の人事評価

人事制度の根幹である人事評価制度が、能力主義の人事評価である会社も多いでしょう。能力主義の人事評価とは、仕事を遂行するために必要な能力・スキルを定義し、その能力・スキルレベルへの到達度を基準とする人事評価制度のことです。社員を業績の成果・結果だけでなく、社員の能力で評価していくという観点に立っています。つまり、能力を伸長させる教育的観点が、人事制度の一部としてまだまだ機能しており、これも、終身雇用的で長期的な観点に立った人事評価基準だと言えます。

上記のように、終身雇用制度は、2022年現在も、そのメリットをまだまだ享受し、経営、人材制度に活かされていると言えるでしょう。

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終身雇用崩壊時代のこれからの人事制度

上記のように終身雇用的で、長期雇用のメリットを享受できる制度が存続する一方、激動の時代においては、いよいよ人事制度に一部修正・改善も求められているのが実態です。終身雇用崩壊時代のこれからの人事制度に修正を求められている点は、何でしょうか。主には、以下4点が挙げられるのではないでしょうか。

1)新卒一括採用から、「ダイバーシティ採用」への移行
2)階層別教育だけでなく、「キャリア開発支援の導入」への移行
3)メンバーシップ型人事から「ジョブ型人事」への移行
4)能力主義の人事評価から「成果主義を取り入れた人事評価」への移行

1)新卒一括採用から、「ダイバーシティ採用」への移行

新卒一括採用は継続して行うものの、一方で、中途採用や外国人・女性などのダイバーシティ採用を強化することで、人材の多様化を図ることが必要でしょう。ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)ともいわれますが、多様な人材を活かす仕組みやその運用に向けた教育・研修も必要となってくるかもしれません。

2)階層別教育だけでなく、「キャリア開発支援の導入」への移行

終身雇用制度については、均質的な人材が生まれてしまい、イノベーションを起こしにくいデメリットもありました。また、これに加えて、会社の指示通りに動くことが「正しい」という思考になりがちという点もデメリットとして挙げられます。これからの時代は、社会変化が激しく、人生100年時代と言われるように、働く期間が長期化していることをふまえ、自分のキャリア、働き方を自分で考えることが必須になっています。その必要性、考え方、取り組み方を、企業が教育することが大切ではないでしょうか。企業側は自律した人材をどう活かすかを考える必要がありそうです。キャリアの課題は個々によるものもありますが、年代別の傾向もあります。そのため、キャリア開発支援を検討する際に年代別のキャリア課題をふまえて施策を検討するといいでしょう。

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3)メンバーシップ型人事から、「ジョブ型人事」への移行

ジョブ型人事とは、欧米では一般的ですが、社員の職務内容をあらかじめ明確に規定して、雇用する形態のことです。この制度では、社員の専門スキルを高め、外部からの転職による人材流動性も高められることになります。終身雇用制度の長期雇用の観点からすると、相反するような仕組みにはなりますが、生産性が向上し、外部の多様な人材を登用できる点、若手にもチャンスを与えられる点が、組織の経営方針によってはメリットが大きいと捉えられる場合があります。

4)能力主義の人事評価から、「成果主義を取り入れた人事評価」への移行

終身雇用制度のデメリットとして、一部の社員が努力を怠りやすい点がありました。また、能力主義の人事評価では、能力という見えないものを評価するという難しさに加え、評価が年功的に運営される欠点、成果ではないので、結果が見えにくいという欠点もありました。
成果主義を取り入れた人事評価になると、社員の仕事の成果、業績に応じて給与や昇格を決定することになります。能力主義のように、能力伸長を長期的視野で育てる制度ではありませんが、成果をしっかり振り返る機会を研修や仕組みとして導入する方法で、そのメリットを残す方法もあるようです。

まとめ

終身雇用制度は、日本型雇用制度の根幹でもありました。その終身雇用制度には、メリット、デメリットがあります。
これからの企業の人事制度は、終身雇用制度のメリットを存分に活かしつつ、そのデメリットを補完、改善していくような人事制度、ハイブリッド的な人事制度が求められていくかもしれません。その大きな転換点においては、従業員体験(従業員が働くことで得られる、あらゆる体験)や従業員エンゲージメントの向上を視野に入れながら、組織と個人が選び選ばれる関係性になっていくことではないでしょうか。

この記事の編集担当

黄瀬 真理

黄瀬 真理

大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。

国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定

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