モラハラとは?職場での具体例や対処法、特徴をわかりやすく解説
「モラルハラスメント(モラハラ)」が職場で起こってしまうと、従業員同士の関係が悪化するだけではなく、企業自体の不利益につながることがあります。どういったことがモラハラに該当するのか、どのように対策すべきかを知り、万が一の事態に対応できるように準備しておくことが大切です。
当記事では、職場におけるモラハラの具体例や、解決せずに放っておくリスク、人事が取り組むべき対策方法などを解説します。ハラスメントに対する社内体制の構築にお悩みの場合は、ぜひ参考にしてみてください。
1.職場におけるモラハラとは?
初めに、ビジネスシーンで押さえておきたい「モラルハラスメント(モラハラ)」の意味をお伝えします。「パワーハラスメント(パワハラ)」や「セクシュアルハラスメント(セクハラ)」との違いなど、基礎知識を確認しておきましょう。
1)モラハラの意味
モラハラとは、モラルハラスメント(Moral harassment)の略称です。モラルに反した言動や行為によって精神的苦痛を与えることを意味します。精神的な暴力であることから、言葉のDVと呼ばれることもあります。本人が苦痛を感じていても外からはモラハラの被害がわかりづらいため、発覚しにくいことが特徴のひとつです。
2)パワハラやセクハラとの違い
・モラハラとパワハラの違い
パワハラはパワーハラスメント(Power harassment)の略称です。職務上の立場や地位を利用して、精神的、身体的に苦痛を与えることを指します。
モラハラもパワハラも、どちらも精神的な嫌がらせであることは同じです。ただし、モラハラは立場や地位などが関係しないハラスメントといえます。
・モラハラとセクハラの違い
セクハラはセクシュアルハラスメント(Sexual harassment)の略称です。モラハラとの違いは性的な要素が含まれるかどうかです。性的な嫌がらせによって当事者に不快な思いをさせることや、性的な行為の強要、性別による偏見などを指します。
2.職場におけるモラハラの具体例
職場内のモラハラには複数のパターンが存在します。気をつけていないと、いつの間にか自分自身が加害者になっていることもありえます。どういった行為がモラハラに該当するのかを知っておくことが大切です。ここでは、職場におけるモラハラの具体例を紹介します。
1)精神的苦痛を与える行為
「頭が悪い」「性格が悪い」といった、人格否定にあたる発言などの精神的苦痛を与える行為はモラハラにあたります。相手の外見を中傷する発言も同様です。
また、わざと人前で叱責する行為もモラハラとなります。業務上、注意が必要な場面はありますが、相手に精神的苦痛を与えるような言い方をしたり、過度に威圧的な態度をとったりすると、モラハラとみなされることもあるでしょう。また、暴言や悪口はもちろん、わざと本人の耳に届くように言う陰口もモラハラの一種といえます。
2)人間関係の切り離し行為
職場内の人間関係から特定の人を切り離すような行為も、モラハラにあたります。
例えば、挨拶やメールの無視、送別会や社内イベントなどに出席させないことなどです。相手とのコミュニケーションをとらず、故意に孤立させるような行為が該当します。
3)プライベートへの過度な介入行為
職場で家族について執拗に問われることや、プライベートな話を他人に広められることなども、モラハラに該当します。私的な部分に踏み込まれたくないメンバーもいる点を踏まえ、職場における適切な付き合いを考えていくのが大切です。
4)仕事に支障が出るような妨害行為
無理な仕事量を押し付ける、一人に仕事を押し付けて帰宅するなどの行為も、モラハラとなります。
また、理由もなく仕事を妨害するような行為が続くと、企業の生産性低下につながる可能性もあります。
3.社内のモラハラを放置しておくことのリスク
社内で起こったモラハラを解決せずに放置しておくと、企業の責任問題や社員の離職などにつながるおそれがあります。被害が大きくなってから後悔することのないよう、モラハラを放置するリスクについて確かめておきましょう。
1)企業が責任を問われる
ハラスメントは社員個人の問題ではなく、企業の問題です。モラハラの被害が拡大すると訴訟や損害賠償問題に発展するおそれがあります。企業イメージの低下につながることもあるため注意が必要です。
労働契約法第5条には「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と記されています。これにより、企業には「職場環境配慮義務」があるといえます。
ハラスメントに対する法律は強化されており、2020年6月からはパワハラ防止法が施行され、2022年4月からは中小企業でもパワハラ防止法が義務化されました。企業はハラスメントの防止や対策を行う義務があることを押さえておきましょう。
2)離職率が高まる
モラハラを受けた人は、心に強いストレスを受けることがあります。被害者となった従業員は、抑うつや不安障害などの精神疾患を抱えるおそれがあると考えておきましょう。
また、モラハラによるトラブルが原因となり、休職や退職の増加につながる可能性があります。結果として離職率が高まるケースもあるでしょう。
3)社内全体のモチベーションが低下する
モラハラは当事者だけではなく、周りの社員にも影響を与えます。暴言や無視、妨害行為などが日常的に行われている職場は、従業員エンゲージメントの低下も引き起こします。
社内の空気を良好なものにするためには、被害を受けた社員のケアを行うことが大切です。ただし、モラハラの対処にあたる場合は、プライバシーの保護を徹底しましょう。トラブルがあった後も、当事者がスムーズに通常の生活に戻れるようにサポートするためです。
4.職場でモラハラをしやすい人・受けやすい人の特徴
職場でモラハラの加害者となる人と被害者となる人には、それぞれどのような特徴があるのでしょうか。
ここでは、両者の特徴についてそれぞれ説明します。職場でのモラハラ防止・改善のためにも、それぞれの傾向を把握しておきましょう。
1)職場でモラハラをしやすい人の特徴
モラハラの加害者になりやすいのは、下記のような特徴を持つ人です。
<モラハラの加害者になりやすい人の主な特徴>
- 自信過剰もしくは極端に自信がない人
- 失敗を認めず他人のせいにする人
- 他人を支配したがる人
- 自己愛が強く、周囲からも認められたがる人
- モラハラやパワハラの被害に遭ったことがある人
モラハラをしやすい人は自分が優位な立場になることを優先し、他人を支配したり自分のミスを他人のせいにしたりしようとする傾向があります。また、過去にモラハラやパワハラの被害に遭ったことがあると、仕返しをしたいという意識から加害者側に回るケースもあります。
2)職場でモラハラを受けやすい人の特徴
モラハラの被害者になりやすいのは、下記のような特徴を持つ人です。
<モラハラの被害者になりやすい人の主な特徴>
- 自己主張が少なく、受動的な人
- 命令や依頼を断れない人
- 場の空気を読むことを優先しすぎる人
- 真面目で控えめな人
- 失敗すると自分を責める人
自分に自信がなく、積極的に意見を主張したり、他人に頼み事をしたりすることが苦手な傾向があります。
また、何かを依頼されると、それが嫌なことだとしても断り切れずに何でも引き受けてしまう人もモラハラを受けやすいといえます。
5.社内のモラハラを予防するために人事がやるべきこと
モラハラの抑止や早期解決のためには、研修の実施や相談窓口の開設、社内規定の策定などが有効といえます。それぞれの内容について詳しく見ていきましょう。
1)継続的なハラスメント研修の実施
社員には、ハラスメントに関する基本的な知識を身に付けてもらうことが必要です。モラハラに対して社内で共通理解を深められるよう、継続してハラスメント研修を開きましょう。
研修では、モラハラの内容や具体的な事例を提示すると効果的です。精神的な攻撃が主体となるモラハラは、身体的な暴力のように被害が表面化しづらいためです。加害者側も、自覚なくハラスメントを行っていることがあります。どういった行動がモラハラに該当するのかを、従業員全体に周知しておくことが重要です。
2)相談窓口の設置
モラハラをはじめ、各種ハラスメントについて相談できる窓口を開設しておくことをおすすめします。被害者が誰にも相談できず、味方がいない状況で我慢し続けるような状態を防ぎましょう。
定期的な1on1やカウンセリングの実施も効果的です。一人ひとりの悩みを聞ける機会をつくることが、モラハラの早期発見につながります。
参考記事:1on1ミーティングとは?効果を高めるコツと今すぐ使える質問例
実際にハラスメントに関する相談があった場合はどのように対応するか、具体的なフローを決めておくことも重要です。当事者同士の関係改善のフォローやメンタルケア、職場環境の改善など、対処方法を決めておくことでスムーズに動くことができます。また、被害者の意見のみを聞くのではなく、加害者や状況を目撃した第三者などとも話し合い、客観的に判断できるよう配慮しましょう。被害を受けている場面の録音や録画など、証拠があれば提示してもらうように呼びかけます。
対応に迷った場合は、職場のモラハラに関する相談窓口を探して利用するのもひとつの方法です。事業者向けの無料相談や電話相談などを活用して、適切な対処ができるよう心がけることが大切です。
3)モラハラに対するルールを作成
就業規則には、ハラスメントの禁止や処分に関する項目を設けましょう。規則を決める際は、何がハラスメントに該当するかを明確にすることが大切です。
また、就業規則に罰則や処分を明記しておくことが、ハラスメント防止の抑止力になることがあります。企業としてハラスメントは許さないという姿勢を持ち、社内全体にルールを周知徹底していきましょう。
6.モラハラが起きてしまった場合の対処法
職場でモラハラが起きてしまったときは、どのように対処すればよいのでしょうか。ここでは、職場でモラハラが起きてしまった際の対処法について、順を追って説明します。
1)事実確認を行う
まずは、事実確認を行いましょう。被害者の了承を得た上で「いつ、どこで、どのようなモラハラが行われたのか」を、加害者や第三者を対象にヒアリングしていきます。
ヒアリングの際、被害者と加害者で異なる意見があった場合は、複数の第三者から情報収集する必要があります。被害者や第三者には下記のような証拠がないかを確認したり、残しておくように働きかけたりしましょう。
<モラハラの証拠となりうるもの>
- モラハラの現場を録画や録音したもの(メールも可)
- モラハラを受けた日時やその内容を詳しく記録したもの
- モラハラを受けている場面を目撃した第三者による証言
- モラハラを受けたことで発症したうつ病や適応障害などの医師の診断書
また、事実確認をする社員は、あくまで中立の立場で行うこともポイントです。
2)就業規則に基づいた措置をとる
モラハラがあった事実が明らかになった場合は、就業規則に基づいた措置をとります。措置の内容は、過去の裁判例を参考に判断するのが基本です。
加害者が懲戒に値しない場合は、被害者への謝罪や配置転換などを行いましょう。一方、懲戒に値する場合は加害者の減給や出勤停止、自宅待機、諭旨解雇、懲戒解雇などの措置がとられます。
また、加害者がモラハラを事実として認めない場合は、裁判に発展するケースもあります。
3)メンタルケアや再発防止のためのフォローをする
就業規則に基づく措置をとった後は、被害者と加害者へのメンタルケアを行います。
被害者に対しては、職場に在籍し続けることが不安にならないようなフォローをしていく必要があり、加害者に対しては被害者との関係を改善するためのサポートやケアが必要です。さらに、モラハラの再発防止のためにも、メールを用いた社内全体への注意喚起や定期的な研修などを行いましょう。
7.モラハラ防止のために人事ができる適切な取り組みを知ろう
今回は、モラハラの基礎知識や具体例、放置するリスク、対処方法などについて紹介しました。精神的な攻撃で被害者に心の傷を与えてしまうモラハラは、企業イメージのダウンや離職率増加などにつながることもあります。場合によっては、被害者が企業や加害者に対して損害賠償請求をする可能性もあります。企業側が適切な取り組みを行い、ハラスメントを未然に防ぐことが大切です。社内研修の実施でモラハラに関する価値観を共有するほか、被害者や目撃者の相談先になれる窓口の設置、明確な処罰や処分の規定を決めておくことなども効果的とされます。当記事でお伝えした情報も参考に、社内のハラスメントに対する体制を見直してみてはいかがでしょうか。
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8.よくある質問
1)職場でのモラハラの例は?
相手に精神的苦痛を与える行為全般がモラハラにあたります。人格否定にあたる発言や相手の外見を中傷する発言のほか、わざと人前で叱責する、本人の耳に届くように陰口を言うなどの行為もモラハラです。
また、挨拶やメールを無視する、会合や社内イベントに出席させないといった職場内の人間関係から特定の人を切り離す行為やプライベートへの過度な介入、仕事への妨害行為などもモラハラに該当します。
2)モラハラをしやすい人の特徴は?
モラハラをしやすいのは、下記のような特徴を持つ人です。
- 自信過剰、または極端に自信がない
- 失敗を認めず他人のせいにする
- 他人を操りたがる
- 周囲から認められたい
- モラハラやパワハラの被害に遭ったことがある
優位なポジションに立ちたがり、他人を操ったり責任を押し付けたりするタイプは、モラハラをしやすい傾向があります。また、過去にモラハラやパワハラの被害者だった人が、仕返しがしたいという思いから加害者になることもあります。
3)モラハラを受けやすい人の特徴は?
モラハラの被害者になりやすいのは、下記のような特徴を持つ人です。
- 自己主張が少ない
- 命令や依頼を断れない
- 真面目で控えめ
- 失敗すると責任感を負いやすい
自分に自信がなく、意見の主張や他人への頼み事などが苦手なタイプが多いといえます。また、頼みごとをされると断れず、自分にとって嫌なことでも引き受けてしまう傾向があります。
この記事の編集担当
黄瀬 真理
大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。
国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定
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