「自立と自律」を人事ポリシーに、社員の状況を定量で把握しながらキャリア自律支援に注力

「自立と自律」をポリシーに掲げ、社員のキャリア形成を支援

日本水産では「一人ひとりが自ら考え、行動することが組織の成長の前提になる」と考え、「自立と自律」をポリシーにさまざまな人事施策に取り組んできました。2015年度の人事制度の改定も、このポリシーに基づいています。社員のキャリアに対する考え方や働き方の多様化に伴い、一人ひとりが自分に合ったキャリアを歩むことを目的に、複線型人事制度を導入。管理職を目指す「プロフェッショナル」と特定領域で専門性を高める「スペシャリスト」の2コースを設け、新卒入社5年目に自らの意思で選択できるようにしました。それに伴い、キャリアワークショップを内製で実施するとともに、当該年次の社員全員を対象とした人事によるキャリア面談も拡充しました。

2015年度には、55歳時点での「キャリア選択制度」も導入しました。当社では2006年度に再雇用制度を開始。併せて55歳社員全員を対象にライフワークス(LW)によるキャリア研修を実施し、「ライフ・キャリア・マネー」の観点から60歳以降の人生について考える機会を提供してきました。ただ、当社ではほとんどの社員が「再雇用」を選択する影響もあり、定年退職と「再雇用」の非連続性を理解しづらいところがありました。そこで、よりリアルに将来のプランや自らの役割について考えてもらえるよう、55歳時に「再雇用」「早期退職」「定年退職」の3つの選択肢から、定年後のキャリアの希望を提出してもらう仕組みを設けたのです。

客観的な情報を得ることにより、今後の方向性を探りたいと考えた

55歳時のキャリア研修を継続する過程で、キャリア教育の重要性を再認識し、現在は30歳前後の中堅社員向けのキャリア研修もLWの協力を得て実施しています。当社ではこうした取り組みを通して、長年、社員の主体的なキャリア形成を支援し、その効果を社員の様子やアンケートから定性的には把握していたものの、社員のキャリア自律意識について定量的な情報は持っていませんでした。

LWから「キャリア自律調査」をご提案いただいたのは、2020年3月。社員のキャリア自律(キャリアに対する意識や行動)の状況や、関連する因子について全体の傾向をつかめるだけでなく、「年代別」、「職種別」、「等級別」など複数の視点から分析できる点に関心を持ちました。客観的かつ詳細な情報を得ることにより、これまでの施策の効果を測るとともに、今後の方向性を探りたいと考えたのです。また、調査を通して支援の必要性の高い社員の属性や、キャリア自律を阻害する因子が明らかになれば、経営陣や管理職に新たな提案を行うにあたっても有効だと判断しました。

キャリア自律調査の概要

調査目的の
イメージ
  • キャリア自律(意識・行動)と①仕事の充実感②キャリアの展望③職場での居場所感④組織コミットメントとの関係を見ることができる
  • キャリア自律自体を左右する【1】個人的要因【2】環境的要因 【3】阻害要因の状況を明らかにし、個人のキャリア自律と、組織へのコミットメントを向上させるにあたってのボトルネックを特定する
実施時期 2021年3月2日〜3月15日
調査対象・回答率 75.0%(944名/1259名)
調査方法 オンライン

社内決裁には、新型コロナウイルス感染症拡大によるリモートワークの影響もあったように思います。リモートで働く部下にスムーズに仕事を進めてもらうには一人ひとりのキャリア志向を把握して、適切な業務をアサインし、コミットメントを高める必要があり、部下のキャリア形成やキャリア自律に対する管理職の意識が以前にも増して高まっていたからです。

結果分析の精度を高めるため、調査実施前に仮説を言語化

「キャリア自律調査」は2021年3月にオンラインで実施しました。実施期間は2週間、対象は全社員。執行役員や上位管理職にも回答してもらいました。調査結果をより有効に活用するために、トップ層のキャリア自律の傾向もある程度把握しておきたいと考えたからですが、データ精度維持および匿名性の保持のため、社員全体の傾向分析以外には結果を反映させていません。各社員宛にメールで依頼し、回答率は75.0パーセントでした。

結果分析の精度を高めるため、今回の調査は仮説の言語化を行ったうえで実施しました。調査から明らかになった社員のキャリア自律の傾向や課題のうち、仮説と一致していたのは、30代以下の社員の「職場での居場所感」がそれ以上の年代に比べて低い傾向にあること。これは社員の年代構成比の影響と捉えています。とくに「24歳以下」が当社の中では低く、対策を検討中です。 

また、若手社員から「他部署の仕事に触れる機会が少なく、キャリアパスをイメージしにくい」という声を聞くことがあり、他年代に比べてキャリア支援が手薄になりがちだった30代に研修を新設するなどの対策を講じてきましたが、今回の調査の結果はその課題感を裏づけるものでした。これを踏まえ、今夏から事業部門ごとに執行役員で構成される「人材育成会議」で、事業を担うポジションに至るまでに必要な経験やプロセスをイメージできる情報の開示や、キャリアモデルの提供方法などの議論が本格的に始まっています。

最大の成果は、キャリア自律支援の必要性を再確認できたこと

調査報告書では、キャリア自律の状況が「行動」と「意識」を軸に4象限化した分布図も確認できるのですが、「年代別」の分布において「55歳から59歳」が「行動」「意識」ともに突出して高く、これは意外でした。50代後半の社員は「終身雇用」の文化の影響を色濃く受けており、従来、キャリア自律の度合いは相対的に低いと考えられる年代だからです。この結果には、10年以上注力してきた50代のキャリア支援の成果が表れていると考えられ、施策の方向性が間違っていないことを確認できました。一方、現場においてはさらなる意識改革の必要性を感じる場面も見られ、支援の継続が大事だと考えています。

結果分析はさらに進めているところですが、現段階での最大の成果は、キャリア自律支援の必要性を再確認できたこと。さらに、より細やかな支援が可能になったと感じています。例えば、多面的な分析を行えたおかげで、支援の必要性が高い社員群を明確に特定できました。部署のリーダーに情報共有し、対応策を検討する予定です。また、調査を通してLWが当社の状況をより深く理解してくださり、これまで以上に的確なご提案をいただけていることも成果のひとつです。

この事例のまとめ

課題 社員のキャリア自律の状況について客観的な情報を得たかった
「自立と自律」をポリシーに社員の主体的なキャリア形成を支援してきたが、キャリア自律の状況について定量的な調査を実施したことがなく、客観的な情報を得たかった。
方法 全社員1259名を対象にオンラインで「キャリア自律調査」を実施
全社員にアンケート調査を実施。キャリア形成上の課題を定量的に抽出し、その課題に対する打ち手や施策の方向性をアナリストが分析した調査結果で得た。
成果 施策の効果が調査結果に表れており、キャリア自律支援の重要性を再確認できた
長年注力してきた50代のキャリア支援の効果が調査結果に表れており、人事施策の妥当性に根拠を得られたと同時に、社員のキャリア自律を支援する重要性を再確認できた。また、支援の必要な社員群を明確に特定でき、より細やかな支援が可能になった。

取材日: 2021年7月21日

研修導入企業情報

株式会社ニッスイ 様

目的
ミドル・シニアの活性化 若手の成長支援・リテンション
年代
20代 30代 40代 50代
業界
メーカー(toC)

企業のご担当者様

人事部人事課 村岡 祐三子 様

人事部人事課村岡 祐三子 様

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