役割基軸の人事制度導入に伴いキャリア支援を再構築
従業員と会社双方の成長加速を図る(前編)
約26,000名以上の従業員を擁する積水化学グループ。2020年度にスタートした「長期ビジョン2030」のもと、2022年度よりキャリア教育の体系を刷新しました。前編では、その背景と構想実現までの過程をうかがいました。
「10年で業容倍増」の目標に向け、挑戦する人材の育成がテーマに
積水化学グループは2020年3月、新社長就任のタイミングで「長期ビジョン2030」を策定し、ESG経営を中心においた革新と創造により、「事業を通じた社会への貢献の量を今後10年で2倍にする(業容倍増となる売上高2兆円を目指す)」という目標を掲げました。このビジョンの実現のためには、従業員一人ひとりが「主役」となって社会課題解決に向かって挑戦、成長し続けなければなりません。多様な人材の「挑戦」する力を引き出すために、人事制度の見直しも行われました。
当グループが長年大切にしてきた「従業員は社会からお預かりした貴重な財産である」という人材に対する考え方を基本としつつ、2020年度よりスタートした新たな取り組みのキーワードは「"適材適所"から"適所適材"へ」。年齢によらない活躍機会の提供として「定年延長の導入」、「次世代リーダーの育成強化」とともに、重要テーマとして検討が始まったのが、「役割基軸の人事制度への転換」でした。
役割軸の人事制度は2022年度より積水化学工業単体約1300名の基幹職を対象に導入され、2025年度までにグループ全体の基幹職にも展開予定です。年齢を軸とした職能型の人事制度から、役割軸の人事制度への転換が検討された背景として、長期ビジョンの実現に向けて組織と個人の関係性をより対等なものとし、おたがいの成長力を高めていきたい、という当グループの思いがあります。
会社は従業員に対して社会課題解決に資する多様な役割を示し、従業員は主体的、自律的に自らの輝く場所を選択することが求められます。会社と従業員の関係性をより対等なものとすることによって、従業員の主体的な活躍を促し、「挑戦」を通じた個人の成長とともに、社会課題解決への貢献に結びつけることが、新制度導入の本質的な狙いでした。
導入の第一歩は、キャリア研修の再検討
この狙い通りに役割軸の人事制度が機能し、長期ビジョンを実現するには、従業員が自らの目指す姿に向けてキャリアを主体的に考え、自らがキャリアを形成しているという意識を持ちながら、会社から期待された役割を果たす「キャリア自律」が不可欠です。
積水化学グループでは、これまでも「自分のキャリアは自分でつくる」をコンセプトに社員のキャリア自律を重視したキャリア開発支援を行ってきました。ただ、その枠組みは年齢軸の人事制度に基づいて設計されており、30歳・40歳・50歳、そして、定年前の57歳と59歳で実施するキャリア研修を柱としたものでした。役割軸の人事制度の導入を見据え、キャリア教育の体系も年齢軸の枠組みから入社、昇格といった役割(職務)軸の枠組みへと再構築が必要になりました。
キャリア教育の体系を再構築するにあたり、私たち人事担当が大切にしていたことは大きくふたつです。ひとつ目は、貢献度2倍という大きな目標を掲げた長期ビジョンのもとで積水化学グループが目指す、「挑戦する人材」の育成、従業員の「革新や創造がなされ社会課題への貢献が拡大する姿」の実現のために、貴重な財産である従業員の成長のスピードアップを図ること。既存の教育体系を一度白紙に戻し、ゼロベースから教育体系を組み立てなければ、「変革」を実現できない状況でした。
もうひとつは、「持続性」です。変化の激しい時代において企業は常に変革を目指し、人事制度や施策も、会社の成長戦略や状況に応じて見直しが求められます。この時に、目先の課題だけに対応して制度や施策の設計を行えば、持続的なキャリア開発支援にはつながらず、従業員のエンゲージメントにも影響します。新たな教育体系を持続的なものとするには、「多様な人材の活躍(キャリア自律)」という当グループのキャリア開発支援のビジョンのもとに、研修など個々の施策をしっかりとひもづけていく必要がありました。
実効性が高く、持続的なキャリア開発支援体制の構築を目指した
キャリアに関する教育体系の再構築にあたり、株式会社ライフワークスには企画段階でのコンサルティングから、研修など個々の施策の実施までを一貫してお願いしました。ライフワークスに依頼をしたのは、「長期ビジョン2030」で示された人材マネジメント方針との親和性が高く、さらに「実効性があり、持続的なキャリア開発支援体制を構築したい」という私たちの意図を汲み取ったご提案をいただいたからです。
企画から新体制のリリースまでの期間は約1年。長年かけて築いてきた当グループのキャリア開発支援の仕組みを一度解体し、新たな体制を作り上げていくのは私たちにとってまさに「挑戦」でした。
最大の壁は、長期ビジョンで掲げられた「従業員のありたい姿」という抽象度の高いゴールに向け、不確定要素が多い中で組み立てていくこと。研修による従業員本人への支援だけでなく、上司による部下のキャリア支援の強化、そのために上司をサポートできる仕組みといった、本人・上司・制度などの仕組みが一体となった多面的なキャリア支援体制の構築も大きな課題でした。
やるべきこと、やりたいことはいくつもありましたが、課題は山積み。何から手をつけていいのかわからない状態のなか、ライフワークスが俯瞰的な視点で与件を整理、新たな体系を組み立てるまでのロードマップを描いてくれたことに大きな示唆を得ました。また、機能的な体制を構築するための勘所などについて、キャリア開発支援のプロフェッショナルならではのナレッジを豊富にご提供いただき、非常に助かりました。
新たなキャリア教育体系の構想から実現までの過程では、人事部内での理解促進も不可欠でした。従来のキャリア教育体系は2020年6月に「プラチナキャリア・アワード」(東洋経済新報社主催)を受賞するなど対外的にも評価され、その中軸となるキャリアプラン研修は2001年から実施され、延べ1万人近い従業員が受講してきたものでした。関係者には思い入れもあり、なぜ新たなキャリア教育体系が必要なのか、納得のいく説明をする必要がありました。
この時に、新たな教育体系が既存の体系とどう異なり、従業員のキャリア開発支援において私たちが「目指すべき姿」は何か、を事前に言語化できていたことは大きかったです。これはライフワークスさんのリードにより、「従来実施してきたこと」「従来も必要だったが、実施に至っていなかったこと」「新たに必要なこと」の3つの要素を「キャリア自律」というひとつのコンセプトのもとに整理をしながら、制度設計を進めていたおかげでした。
研修導入企業情報
積水化学工業株式会社 様
- 目的
- ミドル・シニアの活性化 管理職の育成力強化 若手の成長支援・リテンション
- 年代
- 20代 30代 40代 50代 60代
- 業界
- メーカー(toB)
企業のご担当者様
積水化学工業株式会社 人事部
人材マネジメントグループ
人材開発チームリーダー岡村裕之様
積水化学工業株式会社 人事部
組織開発・労働政策グループ
勤労チーム菊池好洋様