シニア社員が活躍し組織が活性化するための制度や取り組みとは?

日本全体で急速に高齢化が進んでいます。令和4年版高齢社会白書によれば、日本の高齢化率が28.9%に達しているとされています。このように急速に進む高齢化社会において、日本経済が持続的成長をしていくには、シニア社員を含む多様な社員の活躍がカギになっていくでしょう。健康寿命が長くなっている今、能力・スキルをまだまだ活かせる高齢者が増えています。
一方で、企業は、いかにシニア社員のモチベーションを維持し、活躍してもらうかの検討・対応に追われているのが現状ではないでしょうか。本記事では、いまのシニア社員を取り巻く環境を振り返り、シニア社員の活躍を組織の活性化に繋げる制度や取り組み事例、メリットをまとめました。ご一読いただき、そのヒントになれば幸いです。

2023.05.18
コラム

1.シニア社員を取り巻く環境

1)高齢化が進んでいる

日本は、現在、急速に高齢化が進んでいます。高齢化率は何かご存じでしょうか?65歳以上人口を高齢者人口とし、その総人口に占める割合のことを高齢化率(高齢者人口割合)といいます。また、高齢化率が7%を超えた社会を高齢化社会と呼ぶことがあります。

日本における65歳以上人口は、昭和25(1950)年頃には総人口の5%に満たなかったものの、昭和45(1970)年に7%を超え、さらに、平成6(1994)年には14%を超えました。高齢化率はその後も上昇を続け、令和4年版高齢社会白書によれば、今現在、高齢化率は28.9%に達していると言われています。日本は世界でも類を見ない超高齢化時代に突入しているのです。

【参考:内閣府 令和4年版高齢社会白書

2)改正高年齢者雇用安定法の制定

このような状況下、改正高年齢者雇用安定法(令和3年4月1日から施行)が公布されました。この法改正により、雇用する労働者について、現行法で定められている65歳までの雇用確保義務に加え、70歳までの就業確保措置をとることが努力義務として追加されています。

【参考:厚生労働省

2.シニア社員の課題

高齢化社会において、シニア社員が積極的に活躍していくことが求められるなか、様々な課題が浮き彫りになってきています。その課題とは、どのようなものでしょうか。代表的なものを挙げていきましょう。

1)モチベーションを維持することの難しさ

まず、シニア社員のモチベーションを維持することが難しいという課題が挙げられます。例えば、役職定年を迎えて今までの部長、課長という肩書・役職がなくなるケースや、定年を迎えてシニア社員(一般社員)としての再雇用の道を選ぶケースが増えています。このような方々は、今までの権限や裁量がなくなり、役割責任が小さくなることや部下がいなくなるその環境変化を受け入れることができないと、その後の業務へのモチベーションが著しく低下するという事が起こりがちです。

2)マネジメントの難しさ

シニア社員の上司となる年下上司との関係に難しさが生じることもあります。今までの部下が上司になる場合もあります。年下上司との関係において、シニア社員側が感情的に事実を受け入れられないために、人間関係や業務遂行の面で支障をきたすことがあるようです。シニア社員がまた、年下部下側が過度に遠慮・忖度をしてしまい、シニア社員に的確な指示命令ができず、業務遂行が著しく非効率になるという事例もあるようです。

3)個々の事情にあわせた業務や処遇を決める難しさ

また、シニア社員の業務や処遇を明確に決めることが難しいという課題も挙げられるでしょう。今まで、職務範囲を明確にする欧米のジョブ型という制度で育ってきていないシニア社員の方々は、職務経験、専門領域が広い傾向があります。シニア社員一人一人がどのような専門性があり、事業貢献ができるのかが曖昧になっているケースが散見されます。これゆえに、納得のいく報酬・処遇の設定が難しいという問題があるようです。そうした背景もあり、シニア社員の報酬については一律で設定され、かつ総じて低くなることが多いことから、「納得がいかない」「報酬について明確な説明がない」などの声が上がるようです。この問題がシニア社員のモチベーションの低下を招き、業務に支障をきたすこともあるようです。

3.シニア社員が活躍するための制度や取り組み

では、このような状況下でも、シニア社員がやりがいをもって、活躍するための制度や取り組みはどのようなものがあるでしょうか?具体的な制度・事例を挙げていきましょう。

1)継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)

まず、挙げられるのが継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)です。すでに述べた法改正は「個々の労働者の多様な特性やニーズを踏まえ、70歳までの就業機会の確保について、多様な選択肢を法制度上整え、事業主としていずれかの措置を制度化する努力義務を設けるものであり、70歳までの定年年齢の引上げを義務付けるものではありません」としてはいますが、70歳までの自分の力を活かすことができれば、シニア社員にとって、安心感とエンゲージメントを高める有効な施策になるでしょう。

例えば、65歳以降も一定の条件で、就業機会を提供できる制度・仕組みを作り、シニア社員に周知をする方法が考えられます。業務委託や、副業・兼業での業務継続という形も考え得るかもしれません。引き続き会社で活躍してほしい、そのような選択肢を会社は用意しているというメッセージにもなります。

再雇用制度の詳細については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
→再雇用制度の基礎知識、企業の課題や再雇用に向けてできることを解説!

2)定年後の報酬体系や評価制度

次に、定年後の報酬体系や評価制度の見直しです。役職定年や、雇用延長制度(再雇用)で一般社員になったシニア社員に対しては、評価制度・報酬制度が著しく簡素化され、シニア社員に対しては評価査定制度がない会社も見受けられます。シニア社員が「何をやっても評価や報酬は変わらない」状況では、モチベーションが著しく低下することも当然と言えるかもしれません。年齢に関わらず能力や成果に見合った適正な報酬体系に設定をすることによって、長年培った能力を活かし、成果を出すという意識に繋げることができるかもしれません。

なお、役職定年制度自体をなくしてしまうというのも、昨今のシニア社員制度の潮流です。大手IT企業のNECも役職定年を廃止した企業の一つです。NECでは、56歳で一律管理職を外され、給与が1割~2割下がってしまう仕組みから、実力主義で約1,000人を管理職に復帰させ、シニアの力を生かす仕組みに再構築したようです。この施策の導入により、シニア社員の働くモチベーションの回復が見られ始めているとの声もあり、手ごたえを感じているようです。

【参考記事:日系転職版

3)労働環境の整備

次に労働環境の整備です。シニア社員を取り巻く環境は、複雑化しがちです。高齢になれば、高齢の親の介護や、体力の低下、病気など、様々な予期せぬイベントも起こりがちです。このような環境を配慮し、例えば、フレックスタイム制度、在宅勤務制度、時短勤務制度など、シニア社員が事情にあわせて柔軟に働けて、かつパフォーマンスを発揮できる労働環境の整備が必要となるでしょう。

4)経験やスキルが活かせる仕事内容への変更や配置転換といった異動制度

また、シニア社員を、配置転換がない事務的業務に特化した部署に配属するという事例も多く聞きます。もちろん、シニア社員の適性・希望を考慮した上での判断であれば問題ない場合もありますが、事務的業務以外で活躍の可能性があるシニア社員にとってはどうでしょうか。個々人の適性や希望を勘案し、仕事内容の変更や配置転換を行っていく柔軟な異動制度を取り入れていくことは、シニア社員のやる気を活性化する有効な取り組みと言えます。

5)職域開発やスキル開発支援制度

人生100年時代と言われています。年齢に関わらず職域開発やスキル開発をしてその能力を高め続けることが必要でしょう。いわゆるリスキリングです。シニア社員にリスキリングの機会を提供することとあわせて、シニア社員にこれまでのスキルと新しい知識や経験を掛け合わせての活躍・期待を伝える旨をあわせて行えるとよいでしょう。

6)副業・兼業の制度

副業・兼業を認可する制度を取り入れるのも良いでしょう。シニア社員にとって、今まで培ってきたスキルを、社内に閉じずに社会のために役立てたいと思う方もいるでしょう。「副業・兼業はできない」となれば、その活躍の可能性を閉ざしてしまうことになります。仮に雇用延長制度を選択し、シニア社員になることで、給与が減ってしまうのであれば、その分の報酬を補填する意味でも、副業・兼業の解禁がシニア社員の可能性を拡げることもあると考え得るのではないでしょうか。もちろん、競業避止義務や、企業秘密保持などの対策は徹底したうえで、シニア社員が社会のなかで培った経験・知見を活かすことを応援する仕組みがあっても良いでしょう。

この導入事例もチェック
→日本水産株式会社 「自立と自律」を人事ポリシーに、社員の状況を定量で把握しながらキャリア自律支援に注力

7)キャリア研修や面談などによるキャリア形成の促進

最後に、シニア社員に対して、キャリア研修やキャリア面談(1on1面談)などのキャリア形成を促進する仕組みの導入です。シニア社員が社会に出た時と現代とを比べると、働く期間も、キャリア構築のあり方も変わっています。今までの自身のキャリアにおける強み・興味・適性を棚卸し、職業人生において何を目指したいのかを改めて考え、自身に向き合う時間を取ること自体が、シニア社員がこの先の充実感を得ることにも繋がるでしょう。また、こうした支援は、定期的、継続的に行っていけるとよいでしょう。例えば40代、50代のうちから、忙しい日常を離れてキャリア研修でキャリアを考える時間を取るのも良いでしょう。また、社内の慣習として、キャリアについての個別面談を定期的に実施する仕組みを取り入れるのも良いでしょう。

仕事のやりがいの詳細については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
→仕事のやりがいとは?従業員が感じる瞬間と自分で見つける方法

4.シニア社員を活性化するメリット

このような制度や取り組みを通じて、シニア社員の力を活かす組織になったならば、会社側はどのようなメリットを享受できるのでしょうか

1)豊富な経験やスキルを有効活用できる

まず、シニア社員の豊富な経験やスキルを有効活用できるという点です。会社は、最先端の知識・スキルを社員に求めがちですが、シニア社員が約40年間の会社人生で培ってきた経験やスキルが求められる場面もまだまだ多いです。このような経験やスキルを風化させず、最大限発揮していただき、時に後継者に引き継いで付加価値化するということは、会社にとっても大きな財産となることでしょう。

2)採用・育成コストを抑えられる

次に採用・育成コストが抑えられるという観点です。特に長く勤めてきたシニア社員は本来、会社への愛着が強いとされています。一方、同じような人材を市場から採用・育成しようとすると相応の金銭コスト・時間コストがかかるのが一般的です。今まで長く勤めてきたシニア社員が年齢を重ねても活躍することで、採用や育成のための費用面・時間工数面もおさえられるというメリットがあるでしょう。

3)組織の活性化に繋がる

また、シニア社員が活き活きとしている職場は、他の社員にも好影響を与えます。シニア社員が停滞している職場よりも、イキイキ働くシニア社員が多くいると、若手社員に働く上での安心感を持たせることもできるでしょう。

5.まとめ

日本では、超高齢化社会が到来しています。シニア社員の活躍のための制度・施策は、低迷している日本企業の業績を回復させる起爆剤になりうるかもしれません。シニア社員の活躍を促進する数々のメリットを考え、評価・報酬制度の見直し、リスキリングの制度や就業環境の整備等、出来ることはたくさんあります。できることから始めてみてはいかがでしょうか。

株式会社ライフワークスでは、ミドル・シニア人材に関する様々な課題に適した方法で、人事制度と連携しながら、組織力強化に貢献する「ミドル・シニア活性化支援サービス」をご提供しています。ミドル・シニア人材のキャリアや役職定年への対応などに課題を持つ方は、是非ライフワークスのミドル・シニア活性化支援サービスをご覧ください。

この記事の編集担当

黄瀬 真理

黄瀬 真理

大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。

国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定

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